みるくしする/序
ふと、花が目に付いた。取り壊された家屋の基礎がまだ残っている空き地に、新春の寒風に吹かれて薄紫や白の花弁が揺れている。
「アサじゃねぇな……アザミか?」
「アザミっていやぁ、もっとトゲトゲじゃね? あんなカーネーションみてぇな葉じゃなかったろ。草冠に刑罰の『刑』って字じゃなかったっけ?」
「転生郷のハッパでもない、と」
その呟きを聞いて、この花を見て相手が何を考えたか、銀時はようやく理解した。
「ちょ、こんな時にもオシゴトですか。これだから田舎者はイヤだねぇ。風に吹かれてる野草の趣を楽しむというか、そーいうの、無いんですか」
「最近、苗から栽培して自前で精製するのが流行してるからな」
違法薬物の取り締まりが強化されて、宇宙海賊春雨からの供給ルートがほぼ断たれているせいでもある。春雨の資金源を押さえれば、兵糧攻めにできると考えていたのだが、相手は別の資金源を確保したらしい。そいつは幕府上層部も噛んでいるとかで手出しができないのが、頭の痛いところだ。
「正月ぐれぇ、そういう野暮は言いっこなしだよ、オーグシ君。ここは粋の町、江戸だよ?」
「武州の芋サムライで結構だ」
怪しげな花が無いことを確認したのか、土方が視線を逸らす。
「もう少し風情を楽しもうよ。ねぇ、この青い花なんて、ちいさくて可憐じゃね?」
ねだるような銀時の声色に負けたのか、土方は懐手のまま振り向いた。面倒臭そうにその野草に視線をやって「大犬の陰嚢(オオイヌノフグリ)」と呟く。
そもそも、新年早々どうしてこんな組み合わせで町中をうろつくハメになったのか。
『それはこっちが聞きたいわ』と思っているのは、お互い様だろう。
例えば土方の場合。
昨晩から今朝にかけて、初詣があるからと大小問わず神社に警備をつける必要に駆られ、土方も直接警備棒を振り回した訳ではないのだが、その人員の手配だの、あちこちで起こる酔客やテキ屋の諍いだのの後始末に奔走していたのだ。結局、屯所に戻ってひと休みできたのは初日の出も高々とあがった後。十八時までは一応非番の扱いだから、シャワーでも浴びて寝ようと思っていたら「ねぇねぇ、副長、姫初めは?」とねだってくる馬鹿が待ち構えていたというわけだ。
「アホ。あれは正月二日の行事だろうが」
「二日まで正直に待ってたら、アンタの場合、絶対によそに食われてますもん。先手必勝です」
「冗談じゃねぇ。疲れてんだ。寝かせろ」
「疲れナントカって言うじゃないですか。なんだったら、俺が腰振りますから、副長は寝てるだけでいいですよ」
「ボケ」
とりあえず拳でバカ犬を追い払ったところで、吉村が新年の挨拶がてら「お疲れさま」と、三つ指つきながらおっとりと声をかけてくる。そうだよな、姫初めはなんて寝言口走る前に、労ってくれよな。さすが監察方の古株、なかなか心得ている……などと思っていたら「誰に姫初めをくれてやるかお悩みでしたら、俺が貰っておいてやりましょうか?」と唇の端を上げて笑いかけてきた。
ブルータスお前もかと呆れつつも『いっそ、それでもいいかもしれない』と土方の肩の力を抜かせたのは、長い腕に包まれる感触が心地よく、不覚にも身体の奥がジンと熱く潤んできたからだ。吉村の側でもそれを察しているのか、そのドサクサにくるりと尻を撫でてくる。
「最近こっちの方、ご無沙汰でしょう?」
違う、と誤魔化そうとしても、頬がほんのり桜色に染まるのは隠しようが無かった。
「バカ」
せめてもの照れ隠しに軽く罵って、戯れに拳を胸板に当てようとしたときに「ひーじーかぁーたさーぁーん」という間延びした声が飛び込んで来た。
慌ててバッと離れたのと、副長室の障子が無遠慮にスパーンと開かれたのはほぼ同時であった。そこに立ってたのはサディスティク星の王子。袴姿に額には蝋燭を立てた鉢巻きを巻いて「初呪いに来やした。土方さん、呪術用にちぃと借り物してぇんですが。生首」とか、ワケの分からないことを口走っている。
「土方さん、顔赤いようでやんすが、何かしてたんですかイ」
「うっせぇ。てめぇには関係ねぇ。それはそうと近藤さんはどうした」
「へい。キャバ嬢と初詣とか言って、出て言ったっきり帰ってきやせん。でも、あのひとんことだから、今頃はシッポリやってるというより、ごっそりケツの毛抜かれた挙げ句、コンクリート詰めにされて江戸湾に沈んでると思いやす」
「冗談になってねぇな」
「だから、あの馬鹿女ァ呪い殺そうと思って。だから生首くだせぇ」
どこまでが本気か分からないというより、多分、どこまでも本気なのだろう。
ともあれ、この調子では自室すらも安住の地ではなさそうだと諦め、いつもの着流しの上にコート代わりの羽織を羽織って出て来たという次第。
一方の銀時も、似たような状態であった。
新春の支度やニューイヤーパーティで忙しい芙蓉は来てくれず、代わりに『姫初めをしよう』と押し掛けて来たヘンタイは桂小太郎と猿飛あやめ、それもあられもない姿で同時に布団の上にのしかかってきたのだ。
「ちょっ、テメェらっ! 俺ぁ暮れから風邪気味なんだよ、そんな素っ裸で腰振ってたら悪化するだろうが!」
「心配するな。そんなもの、汗をかいたら治るぞ、銀時」
「そうよ、アタシの方で動いてあげるわ。それに脱がなくても大丈夫、むしろ全裸よりもチラリズムの方が萌えじゃない?」
「冗談はツラだけにしろっ!」
「ツラじゃない桂だ」
ほうほうの体で逃げ出して、居間のソファに腰を下ろしていると、神楽がニッコニコと笑みを浮かべて「銀ちゃん、お年玉」とかホザきやがる。
「あのね、銀さん、暮れに風邪気味で寝込んでたの。お仕事できなかったから、お金ないの。分かる?」
「一年に一度しかない、お年玉アル。カネが無かったら腎臓売ってでも作れ、コノヤロー! なんで腎臓が二つあるか知ってるアルか、この白髪ァ!」
子どもがパパに駄々をこねるように胸を拳でポカポカ叩いてくるが、普通の子どもなら微笑ましい仕草でも、神楽がやれば命にかかわる。必死でメガトンラビットパンチを避ける。
「新八、このカネの亡者なんとかしてくれ」
「そう言われてもねぇ。日頃の給料も貰ってないんだから、僕もできたらお年玉欲しい側なんですが……年末にライブとか予約特典付きのCDとかで、散財しちゃったし……でも、無い袖は触れませんよね」
苦笑している新八に「おめぇ、ホントにいい子だな、やればデキル子だと銀さん、信じてたよ」とほろりと来かかった銀時だが、その様子に「なによぉ、アタシのようなセクシーな肉便所を差し置いて、その子と姫初めなの? 銀さん、アナタは本当にホモなの!?」「いや、銀時はもともとホモだ。俺と結ばれる運命なのだ」と、先ほどの二人が転がり込んで、勝手なことを喚き散らす。
「ぎ……ぎぎ……ぎ…銀、さん?」
動揺する新八を見ていて、ついつい『そういえば、新八も結構育ったよな。ちったぁ肩に厚みができて、頼りがいが出来たような』と思ってしまったのがいけなかった。思わず、じっと顔を覗き込んでしまう。
「あの……ぉ、銀さん?」
「あ、いやいやいや、違うから、新八をそういう対象として見るなんて無いから、ダメだから、あのゴリラ女に殺されっから」
「えええええ? そういう対象って……まさか、あのっ?」
「銀ちゃん、やっぱりホモだったアルか。今度ハメ撮りとって売ってきて、痩せこけた工場長の神楽様に貢ぐアル。今、マーケットターゲットは腐女子が熱いアル。テレビで言ってた」
「ちげーったらよぉ!」
しかし、必死で否定すればする程、それを肯定しているような妙な空気に苛まれ、遂には居たたまれず、ドテラ姿のまま逃げ出したのであった。
初詣に行ったところで、屋台は昨夜の宵から未明にかけてひと稼ぎしたせいか店を畳んでおり、閑散とした神社は寒々しいばかり。いくら賽銭を投げて一礼二拝したところで煙草一本分の暇もつぶせそうにない。神様がダメなら観音様でも拝もうかと思ったところで、曲輪(くるわ)も、こんな朝っぱらは店を開けてはいない。一方で、早々に店を開けているような店では、福袋を買い求める浅ましい女共の阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられており、興醒めすること甚だしい。
結局、町中を当てもなくブラつき、小腹が空いて飛び込んだ蕎麦屋『北斗心拳』でぱったりハチ合わせたのが、寄りに寄ってコイツとはね。
「疲れたな。どっかで休みてぇな」
「何、オーグシ君、それ縄文式のナンパ? キモーイ、江戸っ娘はそんなのには引っかからないんだゾ、ハゲ、死ねば?」
「誰がハゲだ。お前が死ね。変な誤解すんな。純粋に横になりてぇだけだ」
昨夜は朝まで仕事でよ……と続けようとしたが、己のあくびに遮られてしまった。
「横に、ねぇ? 今流行のネット喫茶でも行く? 漫画もネットもあるから暇つぶしできるし、居眠りだって……って、そのガタイで手足伸ばして寝るんだったら、ちぃと狭いかな」
「ビジネスホテルでもねぇかな」
「高いよ、ビジネスホテルは。大体、ここいらは色街だから、そんなもんねぇ」
「じゃ、何があるってんだ。カプセルホテルもなさそうだし」
「消去法で、ラブホテル?」
「てめぇとか? 最悪だ」
顔をしかめて、懐を探る。出て来た煙草入れに、銀時は『一本頂戴』といわんばかりに手を差し出したが、華麗にスルーされた。土方はテメェでくわえると、ライターを閃かせて悠々と燻らせ始める。
「万事屋、てめぇどっかで女物見繕って来いや」
「は? 銀さんが女装すんの? まぁ、お互いこの格好じゃ気まずいとは思うけどさ」
「テメェ、オカマのナリしたことあんだろ。俺はイヤだ」
「銀さんだって、新年早々そんなキモチワルイ格好したくねぇよ」
かといって、既に『ホモ疑惑』をかけられている身、ここで野郎と一緒にホテルに入ったなんてことが知れたら、何こそ言われるか知れたもんじゃない。
「カマっ娘倶楽部でパー子の衣装、借りてくっかな」
諦めかけたところで「おーっ、金時ィ!」と声をかけられた。間違っている呼び名にツッコみを入れるまでもなく、そこにいたのはヒョロリとした長身に鳥の巣アタマとサングラスがトレードマークの坂本であった。
「んだ、万事屋。知り合いか?」
「まぁ、ちょっと……坂本、地球にけぇってきてたのか。助かった。コイツ、快援隊って商船の社長でよ。なぁ、おめぇの船に遊びに行っていい? こいつぁ、正月早々セレブ気分を味わえそうだぜ」
「アッハッハー! わしは別にかまわんぜよ。なぁ、陸奥?」
防寒用に羽織っていたらしいインバネスに隠れるように、小柄な女がひょっこりと顔を出した。こちらは白キツネの毛皮の首巻きに鶴亀の柄も艶やかな晴れ着姿。小梅をあしらったかんざしで髪を結い上げた姿は日頃の男勝りな装束とはまるで別人であったが、その鋭い目付きは間違いようが無かった。
「げっ、一緒だったのか、鬼畜女」
銀時が鬼畜女と呼んだのは、以前、坂本と陸奥のデートを偶然邪魔してしまったために、かなりこってりと陸奥に絞られたという苦い経験があるからだ。※
「誰が鬼畜じゃ、この萎え魔羅野郎が。わしらは今、船の商売繁昌の祈祷をして来たところじゃ。副官のわしが一緒で、当然じゃろうが……邪魔しよったら、今度はその珍宝に梅の花を咲かせることになるぜよ」
かんざしに指を触れて、紅い唇を吊り上げながら、嫌ァな記憶を掘り起こしてくる。
一方坂本は、そのやり取りを聞いていたのかいないのか「なんじゃぁ、おんしら、仲が良いのぉ。じゃったら、客人の応対は陸奥に任せようかな。わしは、おりょうさんに新年の挨拶に行っちょくるき」などと、無邪気に言い放った。
その言葉に、銀時の顔が青冷めた。ちょ、それなんて死亡フラグぅ!?
一方、陸奥の柳眉もキリリと吊り上がる。
「誰があのアバズレんとこに行かすか、モジャモジャア!」
「じゃあ、金時と姫初め……といっても、金時にもツレが居るようじゃしなぁ、まぁ、わしは3Pでも4Pでも、一向に構わないぜよ?」
「ちょ、バカモトっ! 論点がちがーぅっ!」
そんな事を言えば、この雌豹の怒りを煽るじゃないかと、必死に喚いている銀時をシレーッと見やりながら、土方が他人事のように「んだよ、万事屋。こいつ、おめぇの情夫(イロ)か? 新年早々、痴話喧嘩に巻き込むんじゃねぇ」と呟いて、生あくびを噛み殺す。
「大体、先ほどのハナシでは、おんしら二人でどこぞに泊まるちう話をしちょったろうが」
「あ? ああ。連込み宿に野郎二人じゃ締まらねぇから、万事屋に女装させて、な」
「じゃったら、着物ぐらい貸しちゃるから、とっとと去ね。わしと頭(かしら)の逢瀬を邪魔したら、初対面であろうと容赦せん。腰が立たぬぐらいに玩具にしてやるぞ」
「ああ、俺はそんなつもりはねぇよ。馬に蹴られて死にたかぁねぇからな」
「ふん、賢明じゃな」
言うや、陸奥が勢いよく帯を解いた。
あっと思う間もなく、着物を脱ぎ捨てて襦袢姿になると「返して要らん」と言いながら、土方に差し出した。
「いつものことながら、見事な脱ぎっぷりじゃのう。アッハッハー!」
坂本はそれを咎めるでもなくインバネスを脱ぐと、まるで手品でもするかのような鮮やかな手付きで女の肩に羽織らせてやった。坂本には膝にも届かぬコートだが、陸奥の踵まですっぽりと覆ってしまう。陸奥は目尻の涼やかな瞳を見開いたが、すぐに『してやったり』の笑みを浮かべた。
いくら考えなしのモジャモジャ頭でも、この状態の女を町中に放り出したまま、キャバクラ『すまいる』に行けまい。
「あ、その……どうも」
まだ女の温もりの残る着物を手にした土方と、陸奥の殺気に気押された銀時が茫然としている間に、坂本と陸奥は何事も無かったように歩み去ってしまった。
「おい、万事屋。せっかくだから着るか、これ」
「あの女のだと思うとケッタクソ悪いけどな」
だが、捨てるにも惜しい上絹の着物だ。銀時はドテラと甚平の上着を脱ぐと、その晴れ着に袖を通してみた。かなりの身長差があるため、丈が短くスネがにょっきりと飛び出したが、甚平の上着を頭巾に見立ててかぶると、それなりに形になった。
「フロントからは足までは見えねぇし、これでいいか」
「……でけぇオンナ」
「提案したのは、そっちだろうが!」
「ま、そりゃそうだな。さっきの空き地に戻ってみようや」
「え? なんで?」
「花のひとつも挿しておけや……イヌのキンタマでも」
オーグシ君ってば意外と優しいかも、と思った瞬間に、おちょくられただけだということに気付いて、銀時はがっくりと肩を落とす。正月に寛ぎたいだけなのに、なんだってこんな目にあわなくちゃいけないんだ? なんか銀さん、悪いことした? いや確かに、日頃の行いがいいとはとても言えないけどさ。
とにもかくにも、耐え難きを耐え偲び難きを偲び、無事にホテルに辿り着いたら、熱い風呂にでも浸かって、冷蔵庫のビールでもキューッと飲んで……そんで、テレビで正月駅伝でも見ながら昼寝をしよう……そう思うことで、なんとか己を奮い立たせる銀時であった。
山登りは八合目を以って半ばとす、とは言うが。
「アレ、銀さんじゃね? どしたの、そんな格好で」
目前だと思われたゴールは、瞬時に千里の彼方へすっ飛んでしまった。ラブホテルのフロントで、壁一面を占める防犯カメラのモニター画面のひとつを正月番組に切り替えて、手持ち無沙汰そうに煙草を吹かしていたサングラスの男は、また今年も堕落人生を歩む男、マダオこと長谷川であった。
「あっ、その……いや、銀さんじゃなくて、その、パー子でぇす」
「いや、どう見ても銀さんでしょ。男同士でこんなとこ、何しに来たの?」
「なんだ、また顔見知りかよ、万事屋」
いっそ、オーグシ君に女装をさせておけば、まだゴマ化しがきいたかもしれねぇのに……銀時は両手を地につけてうなだれた。いわゆる「失意体前屈」の姿勢だ。
「ねぇねぇ、銀さんってば」
よっぽど退屈していたのか、話し相手を見つけた長谷川はしつこく絡んでくる。銀時は頭を抱えて聞こえないふりをしながら、ふと、アザミの花言葉を思いだしていた。
----- 私 に 触 ら な い で 。
結局、ただ町中をぶらついただけで、万事屋銀ちゃんの看板が見える場所に戻って来た頃には、土方は今から戻って支度をすればちょうど出勤という時間になってしまった。
「この着物、どうしよう」
「俺は山ノ神がうっせぇから、持ち帰れねぇぞ。返さなくていいって言ってたんだから、捨てるなり売り飛ばすなり、好きにしたらどうだ?」
「そうだな。うちのガキどもへのお年玉の足しにでもすっか」
じゃあなと、ヒラリ手を翻して土方が背中を向ける。
その広い背中に、ホテルに行けなかったのはちょっと惜しかったかなと、ふと思う。
「ようやく戻って来たかい、このヒョーロク玉が」
振り向けば、お登勢とキャサリンが重箱を抱えていた。
「どうせアンタのこったから、ガキ共にお節のひとつも食わせてないんだろ」
「オ登勢サン、コンナヤツニ、正月モ盆モアリマセンヨ。アタシラガ恵ンデヤルカラ、アリガタク食ライヤガレ、貧乏人」
「ババァの手作りじゃゾッとしねぇな……店落ち着いたんだったら、芙蓉でも寄越して、お屠蘇の酌でもさせてよ」
「アンタみたいなロクデナシに、うちの看板娘を汚されたくないんでね。あの娘に店させてんだイ」
「オ登勢サン、ダッタラ、アタシモ用心シナクチャデスヨ。コノ猫耳ガちゃーみんぐナ看板娘ノ貞操ガ」
「間違ってもそらァ無いわ」
思いがけず、お登勢と銀時がハモった。
「それにしても、銀時、その着物どうしたんだイ。えらく高級そうな」
「キット、ドッカカラ盗ンデキタデスヨ、オ登勢サン。同ジ穴ノオカマ、アタシノ勘ガ、ソー告ゲテマス」
「ちょ、ちげーよ、これはその、知り合いが……その、脱いだのをくれてさ」
銀時がへどもどしているのを見て、お登勢の額の皺が怪訝そうに深くなる。
「脱いでって、道ばたで? だったらその娘は素っ裸で帰ったとでもいうのかイ。怪しいもんだね。新八、念のため通報しといで。まったく、正月早々、ろくなことをしないねアンタは」
「銀さん、女性から追い剥ぎですか? 見損ないましたよ」
新八も、汚物を見るような視線を投げかけている。
まぁどうせ、オーグシ君が証言してくれたらすぐに疑いが晴れるだろうとタカを括っていた銀時であったが、良く考えれば夕方から仕事だと言っていた。それも副長職の男がたかが窃盗犯ごときのために時間を割くとは思えない。いや、万が一捕まったとして『男同士でラブホを探してウロついていました』なんて証言をしてくれよう筈が無いではないか。
絶対絶命、万事窮す。
脂汗が額を伝い始めた銀時の耳に、パトカーのサイレン音が届き始めた。
【後書き】明けましたね今年もよろしくお願いします等々、月並みなことを言うのもナンですので、代わりに1本、勢いで書き下ろしてみました。
今日、初詣に行く途中で、空き地にアザミに似た花を見つけたのは実録なんですが、タイトルにした『ミルクシスル』という別名に相当する種類だったのかは不明。
某SNSにて先行公開していたら「どうせなら、ホテルに行って欲しかった」というリクエストを頂きましたので、書いてみました→こちら。
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