掃除機にも穴はあるじゃんよ★上


スペース・ダンディは、宇宙のダンディである。
その日は、ミャウが故障したQTを連れて街へ出かけ、ダンディはアロハオエ号の船内で留守番をしていた。

「あのボンクラとポンコツ、おっせぇなぁ。小腹が減ってきたじゃんよ。先にブービーズに行ってようかなぁ」

なにしろ、ここエストラーベン星は、ご大層な名前の割には、これという産業も見るべき観光地もなく珍しいエイリアンがいる訳でもない、ごくごく平凡でつまらないクソ田舎なのだ。QTの修理という緊急の用事がなければ、立ち寄ろうという気にもならなかったろう。せっかく独りきりなのだから秘蔵のエロビデオでも鑑賞しようかと引っ張りだし、それにも飽きてきた頃に、ようやく「ダンディ、ただいまァー」というミャウの声が届いた。

「よーし、じゃあ行くぞ」

「行くって、どこへですか?」

「そんなん、ブービーズに決まってんじゃんよ。QT、さっそく出航準備……って、QT?」

細長い猫のような姿のベテルギウス星人・ミャウにしがみつくようにして立っていたのは、いつもの黄色い掃除機ロボットではなく、華奢で小柄なヒューマノイドであった。透き通るような白い肌に整った顔立ち。淡い色の髪を肩まで伸ばしているうえにヒラヒラした丈の長い衣装のせいで、性別は男女どちらにも見えた。ミャウに腰を支えてもらいながら、よろよろとした足取りでダンディの隣まで辿り着き、へたり込む。

「おい、ボンクラ。誰だコイツ。ウチのポンコツはどうした?」

「一応、コレがQTっすよ。部品が旧式すぎてメーカー取り寄せになるっていうんで、その間、QTの人工知能をアンドロイドに載せ替えたって言ってましたよ。修理のオッサンが」

「へぇ、アンドロイドねぇ。その割にコイツ、動きトロくね?」

「無料の貸与品だから、古くから使い回してるオンボロなんだってサ。そのうえ、制御するQTの人工知能ソフトウェア自体のバージョンも低いから、どうやら歩くのが精一杯みたいで」

「あー……いつだったか、古過ぎてアップデートできねぇって言ったもんな。コイツ、ただでさえ、使えねーポンコツのくせに」

面倒くさそうにジロリと見下ろすと、アンドロイドQT、略してAQTが『ダ……ンデ?』と、ぎこちなく呟いた。その挙動に思いがけずドキッとしたダンディは、それ以上怒れなくなり「ま、直るまでは、しゃーねぇか」と呟いて、その頭を撫でてやった。AQTは一瞬、ビクッと体を固くしたが、すぐにヘナヘナとダンディにもたれてきた。

「ここまで歩いてきて、疲れたんですかね?」

「どうせ、日頃から大したことしてねぇポンコツだしな。おい、QT。疲れたんなら、当分そうやって座ってろ」

「あれ、妙に甘いんですね、ダンディ。てっきり、役立たずは倉庫にでも放り捨てておけ、とか言うと思ったのに」

「ハァ? ダンディでジェントルな俺様が、そんな野暮なことするかよ。つーか、そんな目に遭わせるつもりでコイツを連れ帰ったのか、ミャウ?」

「そういう訳じゃないですけど、ちょっと意外だなぁーって」

後から考えれば、この時点でダンディも無意識下では『あること』に気付いていたのかもしれない。だが、それに気付いたところで「ブービーズに行く」というこの日の行動予定が覆されることは無かっただろう。





「オイルとか電気とかの方がいいのか? それとも人間の食いモン、食えるのか?」

俗にいうお姫様だっこの格好で連れてきたATQを、ボックス席のソファに抱き下ろす。ほんのり温かい体温と柔らかい肌の感触から、いわゆる工学的な金属製ロボットではなく、人造細胞などによる生体タイプのアンドロイドであることは、既に見当がついていた。

「お店から預かった取説、ありますよ。えーと、なになに? 搭載AIは、ソーラー電池で動けるみたいですね。あと……ボディのエネルギー源として専用フードの他、一般的な食べ物も食べます。エネルギーの搾りかす……ウンコのことみたいですね……の処理が面倒な方は、補充しなくても一週間は動けます。その場合は、適当に水分を与えてください、だって」

「そっか。いくら人造人間でも、食ったら出るのは自然の摂理だもんな。まぁ、いいや。QT、どれ食う?」

ダンディがメニューブックを開いて、膝の上のAQTの手に持たせてやり、注文をとりに来たブービーズガール(セクシーウェイトレス)のハニーには「コイツの分は後で追加するから、とりあえずテキトーに……パフェとポテトフライでも頼むわ」と囁いた。

「ねぇねぇ、ダンディ。なぁに、その子」

「いつもの掃除機だよ。ちょい、事情があってな」

「ふーん」

ハニーが顔をしかめる。それに気付いたダンディが慌てて「んだよ、コイツは女じゃねーよ。見ろよ、パイオツがねーじゃんよ」と、取り繕いながらAQTの服に手を突っ込み、薄い胸を揉んでみせた。AQTはびっくりしたようで、メニューブックを取り落とす。それを拾い上げようとしてフワフワと手指をイソギンチャクのように漂わせているので、見かねたミャウが「ハイ」と拾い上げてやった。

「でもォーだってェーこの子ってばァー」

「なに、妬いてくれてんの? パイオツもおヒップもぷりんぷりんのハニーちゃんの方が、1億2千万倍はヨユーで可愛いじゃんよ」

「やだァ、ダンディ。そーじゃなくってェ」

ハニーが何かを言い募ろうとしたタイミングで、ATQがダンディの耳たぶをつまんで、軽く引っ張ってきた。見下ろすと、メニューブックのエナジードリンクを指差している。

「んだよ、コレが飲みたいのか? 食いモンは注文しなくていいのか? ま、ポテトフライあるしな。つーか、エナジードリンクって言っても、ロボット用のエネルギーオイルじゃなくて、人間用だぞ? 分かってんのか?」

こっくりと頷いたのを見届けてから「ハニー。これも追加で……コイツ手元が危なっかしいから、ストローもつけてやってくんね?」と告げた。





それから数日。
アロハオエ号の船内は、見る見るうちに無残なゴミ屋敷と化した。

「アンタ、今まで掃除洗濯一切合切、QTに任せきりだったんでしょ」

「そりゃ、掃除機は掃除が仕事だしな。文句があるんなら、ミャウがしろよ。俺はこれでも全然気になんねーし」

「イヤですよ。だって汚してるの、ダンディの方が多いですもん」

そう言いながら、かじっていた生魚の骨をポイと床に投げ捨てるあたり、ミャウも大概だ。ダンディの隣に寝そべっていたAQTが、ソファからずるずると這い降りると、片手を差し伸べて掌をその骨に押し付けた。ポカンとその挙動を見守っていたダンディとミャウであったが、やがて、ふたりほぼ同時に思い当たって「いやいや、吸い取れないし」とツッコミを入れていた。AQTはぺたりと床に座ったまま骨と己の掌を見比べた後、小首を傾げながらガラス玉のような大きな瞳でふたりを見上げる。

「ああああ、じ、自分で捨てます!」

「だ、だから、オマエは今、掃除機じゃねーじゃんよ。いいからおとなしくしてろっつーんだ。役立たずのポンコツ野郎が!」

ダンディがAQTを抱き上げ、ソファに座らせた。ミャウは慌てて骨を拾ってフロアの隅に転がっているパンパンのゴミ袋にねじ込む。

「このゴミの山も、なんとかしなきゃですよね、ダンディ」

「エンジンの燃料代わりに燃やせるだろ。あ、しまった。分別してねーや。いつもQTが分別してくれっから……いやいや、今そのカラダでやらなくていい。つーか、すんな。触んな、手ェ出すな。そのうち、どっかのブラックホールにでもまとめて投げ込むからよ」

まだ理解できていないのか、きょとんと自分の手の平を眺めているAQTの頭を、ダンディがポンポンと叩いてやった。早く部品が届けばいいなと思う一方で、何故かいつまでもこのままでいたいような気もしてくる。
なんでだよ、掃除機よりも使えないじゃんよ。第一、情報収集や宇宙船のオペレーションも担当しているコイツがこんな状態じゃ、エイリアンハンティングも満足にできやしない。カネが稼げなきゃ、おまんまの食い上げだ。なのに、なんだろう? このモヤモヤ感は。
こんな時には……そうだ、ブービーズだ。人生、ブービーズに行けば、全てうまくいく。そう決まってるんじゃんよ。

「ミャウ、まだカネあったよな? 晩飯にブービーズ行こうぜ、ブービーズ」

「は? またですか?」

「今、QTが飯作れねーからな。それともオマエが料理すっか?」

「自分で作るって選択肢は、ハナから無いんすね。アンタ、どんだけQTに依存して生活してたんすか。いくら相棒ったって、限度ってもんがありますよ。僕は別に良いですけど……それに、なんか最近のハニーさん、あのカッコのQTに妙に冷たくありません?」

「ヤキモチ妬いてんだろ。ハニーちゃんったら、カワイイんだから……でも、ハニーに嫌われるのは困るな。んじゃ、リトルアロハで行って来るから、QT、留守番いいか? お前の分のエナジードリンク、テイクアウトしてきてやんよ」

留守番は不満なのか、AQTは唇を歪めていたが「な?」と畳み掛けると、コックリと幼児のように頷いた。そのいとけない姿に、ダンディはついフラフラと釣り込まれるように手を伸ばしかけ……ハッとして手を引っ込めた。





ブービーズで、いつものようにポテトとドリンクを頼む。ホットパンツからはみ出そうなお尻をふりふりバックルームに向かうハニーを見送り、ふと視線がフロアに設置されている大型モニターに流れた。ニュース報道番組らしく、女性アナウンサーがなにやら原稿を読み上げている。

「いい乳だな」

ダンディにとっては、宇宙を揺るがす大事件や政治情勢よりも、美女のパイオツの張り具合の方が重要なのである。ミャウも鼻の下を伸ばしながら「ですねぇ」と呟いた。

「でもよぉ、一番大切なのはケツなんだよ、ケツ。そこが惜しい」

「でも、さすがに、お尻出しながらニュース読み上げる訳にはいかないっしょ」

「そこなんだよなぁ。残念だよなぁ」

「アレ、スカーレットさんだ」

「は?」

あのヒステリー女が客として来たのかと、ダンディが周囲をキョロキョロと見回す。ミャウはそのジャンパーの袖を引っ張って「違う違う。ほらほら、アレ」と、モニター画面を指差した。

『そのエイリアンの純血種は大昔に一度、登録された記録があります。自らの意思で遺伝子を操作し、男にも女にも姿を変えられることからカメレオン星人となんらかの関連があるのではと考えられていた時代もありましたが、過去の記録によれば、遺伝的には全くの別種です。繁殖力が旺盛なため、他の種族との混血化が進んで、純血種はほぼ絶滅したと考えられています』

どうやら、宇宙人登録センターの検査事務員・スカーレットは、未登録エイリアンのスペシャリストとしてテレビ局に招かれ、解説をしているらしい。

『では、今、そのエイリアンの純血種が捕獲された場合、賞金はどうなるのでしょうか?』

『新規登録としての賞金は出ませんが、遺伝子操作能力が医療に大いに貢献する、学術的にも非常に貴重な種族です。生体の場合に限りますが、政府はこのたび、特別報奨金として5千万ウーロンを予算計上しました』

「は? 5千万ウーロン!? おい、ミャウ、なんていうエイリアンだ? どんな奴だ?」

「全然聞いてなかったす。だって、そんなエイリアンのニュースだと思わなかったし、オネーちゃんのおっぱいデカかったし。つーか、アンタだって一緒に視てたでしょーが、テレビ!」

「んだよ、使えねーニャンコロだな! 待てよ、つーことはスカーレットに聞いたら、詳しいことが分かるんじゃね?」

いかにも名案! と言いたげにダンディは指をパチンと打ち鳴らしたが、ミャウは長い頬ヒゲを垂れさせながら「あの人、そんな親切なタマじゃないっしょ」とボヤいた。

「だってよォ、QTが今ロクに使えねーんだから、ヨソのチカラを借りるのもアリじゃんよ」

そこに、ポテトを山盛りにした皿を掲げてハニーがやって来た。そうだ、注文してたっけなと思い出し「それ、包んでテイクアウトにしてくんない?」と告げる。

「はぁ? 容器代取るわよ」

「頼むわ。あと、エナジードリンクのテイクアウトも追加で。ストローもつけてくれよ」

「やだァ、ダンディ。来たばっかじゃない」

ハニーが甘ったれて鼻を鳴らしたが、いつも思い立ったが百年目のダンディを引き止めることはできなかった。





「オイ、QT。今から船を出すから、シートベルト締め……」

ダンディの声が途切れたのは、リビングの床に四つん這いになっているAQTのヒップがドドーンと視界に入ったせいだ。小さいが柔らかそうな丸いお尻を左右に揺らしながら、のろのろと雑巾掛けをしている。その腰から桃尻への曲線と、長衣の裾から覗く小さな素足の裏に、ダンディのジュニアがピクンと反応した。
いやいや、落ち着け俺。相手はQTだぞ、QT。見た目は可愛いアンドロイドちゃんだが、中身はいつもの掃除機だぞ、掃除機……と己に言い聞かせるが、どうにも親の心子知らずだ。
自分でも気付かないうちに、ブービーズのテイクアウトの紙袋がドサリと床に落ちていた。コロコロとハンバーガーが転がるのを、AQTが四つん這いのまま追いかけようとする。

「このポンコツ! 何もしなくてもいいって言ったのが、わかんねーのか?」

ダンディがワザと乱暴な口調で喚くと、雑巾を持つ手首を掴んだ。その骨はあまりにも細く、握りつぶしてしまいそうなほど、儚く頼りない。

「オソ……ジ」

「あン? 掃除? こないだ役立たずって言われたの、気にしてたのか。あんなん、俺が本気で言う訳ないじゃんよ」

こいつはただの掃除機じゃないかと思う一方、ウチのポンコツがこんなに健気で可愛い筈がない、という気もする。そのまま掴んだ腕を引き寄せ、その柳腰を荷物のように小脇に抱えた。その姿勢のまま、AQTはブービーズの紙袋へ手を差し伸べてパタパタさせていたが、ダンディは有無を言わさず自室に引っ張り込み、後手でドアに鍵をかける。

「……ルト」

「ああ、シートベルトは、後だ。登録センターに行くつもりだったが、ちょいと気が変わった」

AQTをベッドに放り投げ、強引に衣服を剥ぎ取る。QTの人工知能は男性人格だったので、てっきりアンドロイドのボディも男だと思い込んでいた。秘所を隠そうとする両手を払いのけ、両膝を掴んで力任せに押し広げると、なめらかな薄紅色の丘とその奥に一筆すっと紅を引いたようなクレバスが露わになった。ダンディはごくりと生つばを飲込む。
こんなにもトロくて歩くのも覚束ないアンドロイドが何の役に立つのかと不思議に思っていたのだが、よく考えてみたら、この広い宇宙には、寝転がっているだけでも可能なオシゴトが無くもない……性交を主な職能とするロボット、俗にいう『セクサロイド』だ。ハニーが露骨に嫌な顔をしていたのも、その用途に気づいたからだろう。よく見ればバストもぺったんこではなく、うっすらと膨らんでいる。いや、もしかしたら、徐々に膨らんできたのかもしれない。

「QT、今からすることが嫌なら、省エネモードで思考回路、切って寝ておけ。つーか、頼むから切ってくれ。躯体だけ使わせてもらうぞ」

脱皮でもするかのように一気に服を脱ぎ捨て、仰向けに転がされたAQTの腹の上へ、のしかかっていく。AQTはそれを拒む仕草をみせるどころか、逆に緩やかに両手でダンディの前髪をかきあげて乱し、そのまま指で梳くように背中へと流してきた。お互いの顔の距離が近づき、吸い込まれるように唇が重なる。

「ダ……ンデ……ィ」

やべぇ、カワイイ。ホントはコイツも男なのに。
頭の片隅ではそう思いつつも、下半身の暴走は止まらなかった。セクサロイドならこれぐらいは慣れっこだろうと決めつけて、硬く閉じている蜜壺をほぐしもせず、そそり立つモノを強引にねじ込んだ。柔肌に指の跡が痣になるほど、強く腰を掴んで手荒く突き上げ……堪らず、一気に登りつめて、奥の奥へと熱の塊をぶちまける。
てめぇの左手やシリコン製の玩具とは断然違う、まだ内側がビクビクとわなないている感触が惜しくて、根元まで深々と差し込んだまま、恥骨をおしつけてみたりして、ぐだぐだと快楽の余韻に浸った。

「マジ、ヤバいよコレ。こんなに貧相なパイオツなのに、なんで尻はこんな可愛いんだよ、畜生め。どっぷりハマっちまうじゃねーか。どうするよ、QT。もう掃除機辞めちゃう? もう、それでもいいよ、俺」

小鳥のように華奢な胸元な首筋を撫で回し、時々、小さな茱萸の実に似た先端を舌で転がしたり、キスの雨を降らせたりしながら延々と口説くダンディの腰には、まるで精を零さぬよう蓋をするかのごとく、AQTの脚が絡みついて密着していた。
そのまま眠ってしまいたかったが、ミャウがドアを叩きながら「ダンディ、結局、登録センターに行くんすか? 行かないんすか?」と騒ぎ出したので、不承不承ながらも起きざるを得なかった。さすがにこの室内を見せるのは憚られたので、ドア越しに「シャワー浴びてから操縦室に行くわ。ちょっと汗かいちまって、よぉ」と答えた。実際、汗が流れて頭から水をかぶったようになっているのだ。髪の先から、ボタボタと大粒の滴が滴り落ちている。

「汗って、一体何してたんすか? 空調壊れてんすか? QTも見かけないんすけど、ダンディと一緒なんすか? つーか、あんたら最近、べったり一緒だよね」

「そーいうワケじゃねーんだけど……えーと、その。ホラ、コイツも今は生身だから、風呂入れてやんなきゃじゃん?」

とりあえずパンツ、パンツ……どこにワープアウトしたんだ、俺のパンツ。ズボンと一緒に脱いだ筈だから、近くにある筈なんだけど。まぁ、いいや。
全裸のまま、まだボンヤリと横たわっているAQTを抱き上げて、バスルームへ運ぶ。まだジュニアを食い足りないのか、手を伸ばしてちょっかいをかけてくるのをなんとか躱しながら、体を洗う。湯上りでほんのり上気したAQTの頬を見ていると、もう1ラウンドやらかしたい気分になる……のを、グッと堪えて服を着せてやった。

「お待たせ」

ビシッとセットをキメたダンディと、ターバンのように濡れ髪にタオルを巻いたAQTが、仲睦まじく連れ立って操縦室に入る。ミャウはすっかり待ちくたびれた様子で、ふたりに視線をやりもせず、携帯情報端末で何やらポチポチ打ち込んでいた。

「まぁ、僕自身は、登録センターなんてどうでも良かったんですけどね……あ、メッセの返事、来た」

「俺もぶっちゃけ、半分ぐらい面倒になってきてるんだけど、やっぱ優秀なエイリアンハンターとしては、最新情報は抑えておきたいしな」

ダンディは白々しくそう言い切ると、操縦桿を握りしめた。

「それに……トイレットペーパー切らしてるから、ついでにショッピングエリアに寄るじゃんよ!」





今日は獲物を持ち込む訳ではないので、いつもの審査エリアには向かわず、登録センター入口の総合窓口で直接、スカーレットを呼び出すことにする。

「ダンディさん、ですか」

「おうよ。宇宙一の伊達男、スペース・ダンディとは俺のことさ。ところで、まばゆい極彩色のウロコがお美しいお嬢さん、お仕事の後で、俺と一緒にディナーとか、どう?」

ダンディが受付嬢をからかっていると、猛烈な勢いでハイヒールをカツカツと鳴らしながら、スカーレットがやってきた。

「お仕事中、悪いね。ちょいと聞きたいことがあって、さぁ」

「偶然ね、私もあなたに聞きたいことがあって、是非お会いしたいと思っていたところなのよ。ところで、最近あなたが連れ歩いてるっていうカワイ子ちゃんは、どこ? あなたの行きつけのハンバーガーショップから通報があったんだけど」

「ン? QTのことか? アイツなら、アロハオエ号で留守番させてるけど」

「そう……ダンディ。今すぐ武器を捨てて、その場で腹這いになって、両手を頭の後ろで組みなさい。その空っぽのオツムを吹っ飛ばされたくなければね」

「は? スカーレットもQTにヤキモチ? それにしちゃ物騒な……」

険しい表情で光線銃を向けられ、シャレにならないと青ざめて投降ポーズをとる。せっかく風呂に入ったばかりだっていうのに、こんな姿勢、埃まみれになるじゃんよ、畜生。その隣でポカンとしていたミャウは、ダンディとスカーレットをキョロキョロと見比べ……やがて、ぴょんと飛び上がると、慌てて床に伏せた。
スカーレットは、ダンディを見据えたまま、無線機を取り出して耳に当て「ダンディ容疑者、確保しました……いえ、ダンディとベテルギウス星人だけ。マリオン星人は、アロハオエ号の船内にいるらしいわ。遠慮なく蹴破って突入して」と、物騒な指示を出していた。

「マリオン? 誰だ、それ」

「あら。この状況下で盗み聞きなんて、余裕ね、ダンディ……えっ? 船内のどこにもいない、ですって?」

スカーレットの視線が、ダンディの後頭部にグッサリ刺さっているのを感じる。多分、銃口もまだ、ダンディを狙ったままだろう。このまま後30秒も彼女に睨まれたら、多分、禿げる。毛髪が物理的ダメージを受ける。そんな気がする。

「いやいや、ちゃんとアロハオエ号に置いてきたぜ。さっきまで一緒だったんだよ、嘘じゃねぇ。アイツ、留守番させてても、チョロチョロ出歩くことがあんだよ。どっかの部屋に入り込んで、床でも磨いてんじゃね? つーか、アイツがどうしたってんだ」

「質問してるのは、こっちよ。あのアンドロイドの入手先は?」

ダンディはそれに答える代わりに、首を捻じ曲げて隣のミャウを見た。その動きにつられるように、スカーレットが銃口をミャウへ向け直し、ミャウの全身の毛が逆立つ。

「エ、エストラーベン星の商店街の外れの、なんでも屋っすよ! 家電屋じゃ旧式過ぎて手に負えないっていうし、なんでも直しますって看板出してたから! んで、QTの修理が終わるまでって、貸してもらったんだよゥ!」

「預かり証とかは、ある?」

ミャウは床に転がったまま、モソモソとポケットの中を漁り……ふと思い出して、大きながま口財布を引っ張り出した。小さく折り畳まれた紙切れを、スカーレットに差し出す。

「ふぅん、エストラーベン星、ね。そっちにも捜査官を派遣させるわ」

ダンディが、恐る恐る顔を上げる。見る気はなかったのだが、ミニスカート姿のスカーレットの下着がばっちり見えてしまった。

「うわ、ベージュのガードルって、ババァかよ……じゃなくって。なぁ、スカーレット。もしかして、QTってゆーか、あのロリボディちゃん、なんかヤバいシロモノだったの?」

確かにあのカラダはちょっとヤバかったかもなァ。なんせ、気持ち良過ぎたもんなァ……などと、ボンヤリ考えていたら「誰が上を向いていいと言った のかしら?」と、光線銃の銃口で、後頭部をゴリゴリされた。



初出:2015年06月26日
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