もしもこのまま焦がれて死ねば/3
「なんだ、万事屋。腹減ってるのか? モーニングで良けりゃ、俺も食って帰る予定だが」
土方はそういうと、近くの喫茶店を親指で指した。通りからやや奥まったところにある、深いチョコレート色のレンガが煙草のヤニですすけているような、古臭い店だ。銀時は既に、半ば朦朧としてその言葉の意味を理解できない状態に陥っていたが、本能的に頼れる相手だと判断して、こっくりと子供のように頷いていた。
「どうした、歩けないのか?」
銀時がぼんやりしているのを訝りながらも、拾い上げた『味な素』の小瓶をなにげなく掌に乗せてやる。その途端に、パチッと静電気に似たものが走った。
「よ、万事屋!?」
「あんがと、助かった……ああ、フクチョーさんか」
「フクチョーさんかって、なんだ。さっきまで誰か分からずに返事したのか」
「まぁ、色々、事情があってね」
小瓶に触れている掌が火傷のようにヒリヒリと痛むが、実際には赤くなっているどころか、血の気が失せて青白いほどだった。
「なんで『味な素』? どうせ赤い蓋にするんなら、マヨにしとけ、マヨに」
「蓋の色で決めたわけじゃないんだけど。ついでだから、手、貸して」
銀時が片手を差し出すと、土方が面倒くさそうに舌打ちして、その手を掴み肩に担ぎ上げる。
「おいおい、どうしたよ。やたら身体が冷てぇじゃねぇか。風邪ひくぜ? こういうときは熱いコーヒーだな。サ店じゃ、ブランデー落としてくれとも言えねぇが」
「ココアか、ホットチョコがいいな」
「そんな甘ったるいもん、よく飲めるな。その『味な素』でも振るつもりか?」
文句を言いながらも、そのまま引きずるように喫茶店に連れ込む。カウンターにはコーヒー豆が詰まったガラスの筒やミルなどがディスプレイを兼ねて並んでいる。空いている壁際のテーブル席を陣取ると、奥側のソファに銀時を座らせ、自分は椅子に腰掛けた。黒服に蝶ネクタイ姿のウエイターが、お冷やのコップとアルマイトの灰皿を運んでくる。戻ろうとするところで「にーさん、モーニングふたつ」と、土方が呼び止めると、ウェイターは尻ポケットから小さな伝票バインダーを取り出した。
「モーニングはA、B、Cのセットがございますが?」
「俺はトースト、こいつは……ホットケーキにでもするか? ドリンクはホットとココア……飲み物は、先に持って来てやってくれや」
ウェイターが戻ると、土方は内ポケットから煙草入れを取り出した。己の分を唇に挟んでから、ふと思い出したように「吸うか?」と煙草入れを差し出す。
「フクチョーさん、なんだかんだ言ってやさしーのな。それがモテる秘訣?」
「茶化すんなら、このまま蹴り出すぞ。いらねーのか?」
「今、煙草吸ったら、吐きそう」
そこにウェイターがカップをふたつ、銀の盆に載せて運んで来た。土方が「ココアはそいつの」と指示したが、ウェイターはオーダーを予め覚えていたようで、カップをテーブルに置く動きに淀みは無かった。銀時はその甘い匂いの湯気を吸い込みながら、温かいカップを両手に包む。自分の体が確かに冷え切っていたことを自覚できるようになり、徐々に落ち着いてきた。
「そんで? 色々な事情って、何だ」
まだ半分ほど残っている煙草を灰皿に押し付けてから、懐から取り出したマヨネーズをむりむりとホットコーヒーにひり出し、土方が尋ねる。マヨネーズは黒い液体の中で黄色いとぐろを巻きながら沈んでいき、それがやがて固形物のまま水面にぽっかりと浮かび上がってきた。
「なんて説明すればいいかな。その、人助けのつもりが助けてもらいたい事態になったってゆーか……人じゃなくて霊、だったんだけど。それを助けようとして逆に憑かれて、困っちまったってゆーか」
「ユーレェ? テメェ、そんな非科学的なもん信じてるのか」
『非科学的じゃない。ちゃんと存在しているんだ』
女の声が割り込んだ。土方が瞬きをして、周囲を見回す。だが、店員にも客にも若い女など居ない。銀時がおもむろに襟元を広げると、土方が切れ長の眼を見開いた。そこには、少女の顔が『生えて』いたのだ。
やがて、モーニングの皿も届けられる。たっぷりメープルシロップがかかったホットケーキは、手作りケーキも扱っているという店だけに、生地自体もかなり甘くて濃厚な味がした。
指についたシロップを紙ナプキンで拭おうとすると、胸元のレイが唇を微かに動かして、鳥の雛のようにねだった。恐る恐る、銀時が胸元の人面疽の口元に指を差し出すと、チュッという小さな音を立てて、吸い付いてくる。一方、土方は、トーストに添えられていたゆで玉子をテーブルでコツコツと割り、卓上塩の代わりに持参のマヨネーズを塗り付けていた。
「で? つまり、そいつを成仏させようっていうんだな」
あっさりと土方が理解したのは、自身も『トッシー』という別人格を抱え、そいつを成仏させるために奔走した経験があるからだろう。
銀時のホットケーキに添えられていたのは、フルーツヨーグルトだ。サクランボの柄を指でつまみあげると、レイに差し出してみた。だが、さすがに固形物は飲み込めないらしい。モゴモゴと苦戦しているのを見かねた土方が「一度、テメェが咀嚼してやったのを食わせてやれ」と、教えた。
「せっかくなら、望みを叶えて気持ちよく消えてもらった方が、こっちも後味がいいものな」
「そう言ってくれるのはありがたいな。あのアバズレ巫女は問答無用で消しちまおうとかしやがったからな。でもフクチョーさん、今日はお仕事じゃね?」
「言ったろ、夜勤明けなんだ。今日は非番になる。多少眠たいが……テメェにゃ、色々と借りもあるしな。これでチャラにしようや」
「なんかあったっけ? 京女じゃあんめーし、貸し借りなんぞネチネチネチネチ覚えてねーや。まぁ、チャラになるんだったらいいか。いてっ、レイ、指噛むんじゃねぇ」
噛み潰した果物を舐めさせていると、幽霊を相手にしているというよりも、手乗りのペットのような気分になってきて、妙な感覚であった。人面疽の割には顔立ちが可憐なせいもあるだろう。こうして見るとカワイイもんじゃねぇか……と、そんなことをぼんやりと考えていると、土方がやおら『味な素』の赤いキャップを外すや、パラパラと銀時の頭に振りかけた。
「あぢぢぢぢっ! 何しやがるっ!」
「熱い?」
「あ」
単なる調味料が熱い由がない。そう感じるのは、レイの影響を受けているからだ。つまり、また意識を乗っ取られかけていたらしいと気付かされて、銀時は唖然とする。
「なるほど。こいつぁ、トッシーんときの煙草と同じ効能があるみてぇだな」
土方が、しげしげと『味な素』の小瓶を眺めてキャップを締めると、銀時の手に握らせた。
「お、おう。サンキュ」
「さて、正気に戻ったところで、店出るか。万事屋に戻るか? それともどこかで休むか?」
土方が、筒状のアクリル製の伝票入れに丸めて突っ込んであった紙切れを拾い上げ、立ち上がる。
「どこかで休むっていってもなぁ。カラオケボックスや健康ランドって訳にもいかないだろうし。そもそも、コイツをなんとかしてやらなくちゃいけねぇからなぁ」
「なんとか、ね」
ノイズキャンセラの原理で電磁波を科学的に打ち消すのでも、巫女の力で霊力を封じるのでもなく、唯一、彼女を満足させてやれそうな「女の体を借りる」という方法も適当な「候補」が見つからないのでは、どうしたものか。
「そうだ、お嬢さん。代わりに、俺ではどうかな?」
土方がレイの顎を指ですくいあげるかのように、銀時の胸元に手をついて囁きかけた。
「ちょ、副長さん、それって」
「お嬢さんは、満更でもないようだぜ?」
『味な素』を浴びた影響か、レイの顔は先ほどよりも皮膚に埋まり、ただのイボのような状態になっていたが、それでも頬と思われる辺りがポウッと赤らんでいる。そのほてりを、指で「の」の字を書いて弄びながら、土方はニヤリと唇の端を上げてみせた。
「そうかもしれねぇけどさぁ、だからって……そりゃ、他に方法も考えつかないけど」
「じゃ、決まりだな」
土方はさっさとレジに向かって歩き出し、銀時は着物の衿を合わせて胸元を隠すと、慌ててその背中を追った。
さすがに連れ込み宿は、朝っぱらからのチェックインを受け付けてはいない。代わりにビジネスホテルを探して、ツインの部屋を取った。真っ白いシーツにシンプルなサイドテーブル、オフホワイトの壁紙に木目調のクローゼットという内装が、いかにも明るく爽やかなイメージを漂わせている。
「眠気覚ましも兼ねて、先にシャワー浴びさせてもらうわ」
土方は頓着なしにそんなことを言いながら胸元のスカーフを緩めて上着をクローゼットにかけているが、銀時は自分が場違いな所に来たような気がして、妙に落ち着かなかった。
「オマエさ、こういうトコ使うの、慣れてんの?」
「慣れてるってこたぁねぇんだが、たまに、な」
「お偉いさんになると、出張とかあるんだろうしね」
銀時の相槌で、土方は相手のいう「こういうトコの使い方」が、自分が言おうとした「慣れている使い方」と微妙に異なっていることを察し、苦笑いで飲み込んだ。もちろん銀時のイメージの方が、ビジネスホテルとして正しい。土方がシャワーを浴びて部屋に戻って来ると、銀時はベッドに寝転んでテレビのリモコンをカチャカチャ弄って寛いでいる様子だった。
「エロいのは有料なんだけど、見ていい?」
「俺のカネでか? いいわけあるか、ボケ」
「だってほら、雰囲気作んなくちゃでしょ」
自分が「間違った使い方」を教えられた時には、もう少しこう、ウブで殊勝な態度だったと記憶しているが。土方は苦笑いを浮かべると「いいから、テメェもちっと風呂浴びて来い」と、追い出した。
風呂から上がってきた銀時は、気まずそうにバスローブの前を両手で押さえていた。少女が恥らうような仕草に土方は「柄でもない」と苦笑いしたが、銀時がはらりと襟元を広げたのを見て、ウッとうめいた。
銀時の体にめり込んで消えかかっていた少女の存在が、再び浮かび上がっていたのだ。胸元に生えている顔だけでなく、うっすらと盛り上がった胸乳のある細い胴体までもが、銀時の腹の皮一枚下にある。手足は銀時のそれに重なるように沈んでいた。
「テメェ、可愛がってもらいたくて、出てきたのか」
少女が男の薄い皮膚越しにこっくりと頷いてみせる。なんともグロテスクな眺めであるが、それもひとえに自分に抱かれるためだと思えば、不思議といじらしく感じた土方は、少女の顔の辺りに唇を寄せる。
「うわ、ちょっ、おまっ…」
「テメェの野太い声聞いたら萎えるわ。黙ってろ」
声よりもむしろ、この異常な体を見て奮い立つものだろうかという素朴な疑問が沸いたが、徹夜明けのくせに(あるいは徹夜明けだから、か)その心配はなさそうだった。少女ごと押し倒された銀時は、背中に薄いマットレスの下のスプリングの弾みを感じる。頬を、首筋を掃く土方の漆黒の前髪が、まだ微かに湿り気を帯びている。唇に妙な違和感を覚えて、銀時は唇に触れた。土方が形の良い唇にはさんで弄ぶように吸っている唇は、胸元に生えたレイのものであるはずなのに、まるで銀時自身の唇に触れているような錯覚がする。いや、錯覚ではない、どうやらレイは銀時と感覚を共有しているらしい。
「あ……ンッ」
「気持ち悪い、オマエがアンアン喘ぐな」
「だってぇ」
「だってぇ、じゃねぇ。鼻声で喋るな、サブイボが立つわ」
そうは言われても、愛撫されている身体は銀時のものなのだから、ゆるゆると触れられる指の感触に妙な気分になってしまうのは、如何ともし難い。歯を食いしばって声を堪えていると、不意に足首を掴まれたようだった。だが、それがヒョイと持ち上げられた感覚が妙だ。膝を立てた状態の両足の裏には、確かにシーツの冷たい感触が感じられる。不思議に思い、顎を胸元に埋めるようにして己の下半身へと視線をやり……思わずゲッと声が漏れた。自分の太股の辺りから、白いほっそりした女の足が文字通りに「生えて」いる。男の逞しい手指に掴まれているのは、その三本目の足であった。持ち上げられた下肢は、わななきながら宙を切っており、それをさらになぶるように、舌がなぞり上げていた。
「ちょ、やめろ、くすぐってぇ」
「オメェの足じゃねぇだろ」
「だから、感じるんだって言ってるだろーが。くすぐってーんだよ」
「お嬢さんはお気に召したご様子だぜ?」
銀時からはレイの表情は見えないが、途切れ途切れながら艶っぽい吐息が漏れているのが聞こえることから、銀時と同じ触感を共有していることは察せられる。足が生えているということは、その根元には……考えたくないが、腰の奥が熱く、むず痒い感触から、受け入れるための器物が存在しているのは間違いないようだった。
「ちょ、まさかと思うけど、ホントに挿れちゃう気? 正気?」
「最初からそういうハナシだろうが。今さらぐちゃぐちゃ言うなよ。大体、お前じゃなくてお嬢さんのカラダだろ」
「いや、レイの体だけど、俺も感じちゃうとか、これなんてエロゲー?」
「知るか。俺は近藤さんと違って、エロゲーなんて知らねーよ」
つぷりと、何かが入り込む感触。銀時は歯を食いしばって耐えたが、少女は甲高い声で喘ぎ始めた。
「大丈夫か? 指1本だけだぜ? お嬢さんが欲しいモノはもっとでけぇんだが」
クスクスと笑いながら、土方は銀時の胸元になる少女の耳元に息を吹き込んだ。その感触を自分の耳元と錯覚した銀時が、片手で己の側頭部に触れる。自分の体なのに自分の体のように感じず、自分の体じゃないのに自分の体のように感じる……気が狂いそうだなと、銀時はぼんやり考えていた。このまま、破瓜の痛みまで共有するんだろうか。フクチョーさん相手に? 冗談じゃない。いっそ、気絶してしまいたい……後頭部が引っ張られる感覚がした。水中に引き込まれるような。
胸元から浮き出てくるように「レイ」の部分が広がっていくが、決して本体の銀時から分離するのではない。レイの広がりと共に、銀時が内側に押し込められているようだ。それは、ゴムボールか何かを裏返すような、そんなイメージを抱かせる光景であった。唖然としながら見守っているうちに、腕の中に在った裸体は痩せぎすの女性そのものに入れ替わっていた。
ただ、胸元に大きな黒い染みがある。いや、よく見るとそれは黒いのではなく、肌が透明に透けて、身体の内側が暗く透けているのだ。さらに眼をこらすと、そこには銀時と思しき人体が詰まっている。窮屈そうな姿勢だが、まぶたを閉じている表情は眠っているようだった。
「そうやって、前の宿主も飲み込んだのか?」
さすがにそんなグロテスクな姿を見せられてまで勃ち続けるほど、土方も若くはない。だが、その女……レイは上体を起こすと、白い腕を柔らかく巻きつけて「抱いてくれる約束じゃないの」と囁きかけてきた。
「確かに約束はしたが、おめぇ、こいつァ」
「でも、この体の方が、しやすいでしょ」
ニィッと赤い唇の端を吊り上げたかと思うと、ちろりと爬虫類のように舌を閃かせた。肩にかかる蓬髪を振り乱しながら、男の腰に屈み込む。ぬるっとした、しかし冷たい感触のものに包まれて、悲鳴が漏れそうになった。だが、その異様な感触に肩の辺りは肌が粟立っているのにも関わらず、吸い付かれた部分は(まさに「親の心子知らず」とやらで)再び熱を込めて芯を作り始めている。
「ねぇ、昇天させておくれよ」
隆々と起ち上がったモノに、狂おしく呼気を吹きかけるように囁きかけた。
一瞬、意識を失っていた。目を開けると、白く濁った空が見えた。 ビジネスホテルにいた筈なのに。そういえば背を預けているのもベッドではなく、固い石がごろごろと転がっている地べたのようだ。幼い少女が心配そうに自分を見下ろしている。
「おきゃくさま?」
「は?」
「おきゃくさま、じゃないの?」
「アタシ、やどのおきゃくさま、あんない、してるの」
起き上がって改めてみた少女は、どこか見覚えがあった。
「もしかして、オマエ、レイなのか?」
ううん、と首を振って少女が答えた名前は「レイ」ではなかったが、その面影はあの仙望郷の女性従業員によく似ていた。今にも雪がちらつきそうな空模様だというのに、少女は木綿の単衣で麻縄を腰帯にし、足は裸足といういでたちだ。いや、それをいえば自分もビジネスホテルのつんつるてんの浴衣を羽織って、スリッパを突っ掛けただけの姿なのだが。
「宿って、アレか? 成仏し損ねた幽霊を温泉に入れる、ボロっちいとこか」
「ボロじゃないもん」
「でも、女将がすげぇババァだろ。名前が確か、ロックだかなんだか」
「女将はロックじゃないよ、お岩だよ」
ビンゴ……ということは、自分は過去の世界に入り込んでしまったのだろうか。あるいは、レイの心の中の世界か。
「おきゃくさま、あんないしなきゃ」
少女はそう呟くと、くるりと身を翻してパタパタと走り去った。だが、呼び止める間もなく立ち止まると、虚空に向けて「おきゃくさま? アタシ、やどのおきゃくさま、あんない、してるの」と尋ねている。見たところひなびた宿場町のようだが、通りにはまったく人気がない。いや、犬猫の気配すら感じられなかった。
少女はそんな廃虚の中を駆け回りながら、壊れたからくり人形のように何度も何度も「おきゃくさま?」と繰り返している。
「おきゃくさま? あのね、アタシ、やどの……」
「オイ、チビスケ。俺を宿に連れてけ。オマエ、誰か案内するまで宿に帰れねぇんだろ」
銀時は、その姿を見ていられなくなって、背後から少女を抱き留めて、無理矢理動きを封じた。案の定、全身が冷えきっている。あの女将、こんな小さい子供に客引きをさせるなんて、とんでもない業つくの鬼ババぁだ。
「チビスケ? それ、アタシの新しい名前?」
「新しい名前っていうか……いや、呼び名だから、新しい名前でいいのかな。チビスケは、男みたいで嫌か?」
「ううん。新しい名前、嬉しい」
「そっか。じゃあ、案内してくれ、チビスケ」
「アタシ、チビスケ。あなた、おきゃくさま?」
「ああ、そうだな。お客様だ」
「いらっしゃいませ、おきゃくさま」
チビスケと呼ばれた少女は、にっこり笑うと、銀時の指を小さな手で握って、歩き出した。
深々と挿し貫かれ、女の身体が仰け反った。爪先まで力がこもって、脚全体がびくびくと痙攣する。
「あ、あ、あ」
内壁がうねり、搾り取ろうとするのを、逆に突き上げてやる。奥の一点に先端が当たると、嬌声が高くなった。
「ここか?」
「ああ、あ、ん」
刺激が強すぎるのか腰を引いて逃げようとした。それを許さずに身体を抱き留め、しつこくその一点を責め立て続ける。
「いや、い、い、ああ」
「どっちだよ」
しまいに泣き出したようだが、さらに畳みかけるように、硬く膨らみ起ち上がっている胸元の果実に歯を立てた。
「や、いや、いやだ」
「嫌? イイんだろ? テメェを気持ちよくしてやるって企画なんだから、遠慮せず善がり狂っておけよ」
髪を振り乱してかぶりを振るのを、抱きとめて囁きかける。だが、そのうちに女の表情があまりにも虚ろで、どこか遠くを見ている様子なのが、気になった。もちろん、そもそもが普通の人間じゃないのだから、オカシイのは当たり前なのだが。
「ダメ、そっちはダメ」
「そっち?」
「そっちは行かないで、ギン」
「ギン?」
万事屋のことだろうか。そっち、とはどこのことだろう?
「いや、あ、あ……アッ」
悲鳴のような声を長く上げて、女が全身を引き攣らせた。
これで本当に良かったのだろうかという迷いはあった。銀時の身体は、女に取って代わられたままだ。 だが、失神した女の顔を眺めているうちに、睡眠不足と肉体疲労が重なって、土方もフッと引き込まれるように寝入ってしまった。
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