どこかでアナタを見ている人がいることも忘れないでくださいねって誰だよウチの看板娘ちげーぞ多分そこのタコだろそのV字ヘアー抜いてハゲちらかすぞオラ【5】

銀時は呼吸を整えながら、モニターを眺めていた。角度や解像度が調整できるパネルも盲滅法に弄ってみる。最初は牢のようなところに押し込められているのだろうと考えてそれらしい施設を探していたのだが、いくつものカメラがひとつの広間に集中してるのに気付いた。透き通った柱のようなものを角度を変えて映しており、その柱の中に何かが浮かんでいる。「何か」は人間の形をしていることに気付いて、銀時の表情が歪んだ。
紅桜という禍々しい妖刀が複製されていた培養槽に似ている……その連想から、この研究所の「肝」はこいつなのだろうと見当がついた。何重にもカメラが取り巻いているのは、防犯と研究記録を兼ねているのだろう。ハジがいるかどうかは賭けに近かったが、コイツを潰してしまえば、この研究所がオシャカになることは確実だった。
さて、木刀も折れたことだし、何か代用できそうなものは無いかね。まだ呻き声をあげている天人の警備員の側にしゃがみ込み、ベルト回りやマントの内側をまさぐる。山崎を狙ったレーザービーム銃も床に転がっていたが、使い捨て式なのか、先端が赤く焼けてただれているうえに妙に軽くなっていた。

「ち、使えねーな」

あまり余計な体力を使いたくないんですがとボヤきながら、壁を這っている鉄パイプを掴む。暖房スチーム用なのか、動力としての蒸気が通っているのか、あるいは単に配線を保護しているのか、見た目では分からない。蒸気が吹き出すのは勘弁してください、三百円あげるから……と祈りながら、力を込めて引き剥がした。ジョイント部分が軋み、やがて折れる。中は空洞で、凄まじい勢いで空気が吹き出して来た。反射的に蒸気かと思ってのけぞって避けたが、熱くはない。多分、エアシューターの類いだったのだろう。

「あー…爪割れた。逆剥けできた。今に始まった親不孝じゃねーけどな」

直径一寸、長さ四尺ほど鉄パイプを担いで、足を引きずるように廊下に出る。朝に全蔵の屋敷で朝食を食べたっきりで、そろそろ体力の限界だった。たまとハジを助けるという動機がなければ、とっくに逃げ出していたに違いない。

「停まれ、貴様は完全に包囲されている!」

その宣告通り、廊下の前後には黒装束の警備兵がぎっしりと詰めかけていた。まだこれだけ生き残っていたか、蟻のような連中だ。山崎は無事なんだろうか、とぼんやりと考える。

「君らどいてくんない? そろそろ限界でさ、俺」

「多勢に無勢だ。貴様に勝ちめは無い。武器を捨てておとなしく降伏したまえ。今なら命だけは助けてやる」

「だからさぁ、血糖値が限界なのよ。邪魔しないで欲しいんだけど」

鉄パイプはだらりと下げた右手にぶら下がった状態であった。警備兵がじわりと包囲の輪を縮める。次の瞬間、握り直された鉄パイプが翻り、横殴りに警備兵らの頭部を次々に薙いでいた。

「俺さぁ、血糖値が下がると頭がモーローとしちゃって、手加減できないの。分かる?」

「ば、化け物!」

天人のくせに。化け物はどっちだよ、とツッコみたいところであったが、包囲している連中が怖じ気づいて逃げ腰になるのは都合が良かった。そのまま鉄パイプを振り回して脅しながら、ずるずると歩を進める。だが、このままではいずれ体力の限界を見透かされて、再び包み込まれるだろう。いっそ降伏した方が楽になれるんじゃないだろうか、と絶望的な気分になっていたところで、向こうからより重装備の鎧を着込んで槍を手にした男が、黒いマントを翻して歩いて来るのが見えた。多分、こいつが筆頭格だろう。万事休すだな、と銀時は額を伝う汗を拭った。




「たまさん!」

呼びかけると、箒を手にしていた女性はぎくしゃくと振り向いた。

「だぁれ?」

「俺ですよ、俺! 山崎! 山崎退ですってば! えーと、あなたの恋人の」

「コイビト?」

「ええ、そうです!」

どさくさに紛れてろくでもないことを口走りながらも、山崎は無事に再会できた想い人の手を握った。

「助けに来ました。一緒に行きましょう」

「一緒に? どこへ?」

「どこへでも。その、安全な場所へ!」

「安全な場所? そこでお掃除はできますか?」

「掃除? ええ、もちろん!」

「お掃除ができるなら、ご一緒します」

どこか会話がちぐはぐであったが、舞い上がっている山崎はそれに気付かない。





「今度は何?」

レポートから視線をあげた白衣の女は、迦楼羅族の首領がぐったりした白髪の侍を連れているのに気付いて、眉を吊り上げた。侍の装束は、自身の血と思しき赤や迦楼羅族の返り血らしい青の体液で汚れており、殴る蹴るの暴行を受けたらしい顔は腫れ上がっている。

「そいつが、例の侵入者ね」

「連れもいたようなので追っているのですが、なにしろコイツがキチガイのように暴れて、手に負えなくて」

「そう。好きに処分してくれていいのに」

「あまりに凄まじい戦闘能力だったもので、ただ殺すのが少し惜しくなりましてね。それに、コイツにやられた連中の補充もタダじゃないんで」

「なるほどね。洗脳用の培養槽はそこよ」

記憶を抜き取るところまでは、ほぼ技術が確立している。外界との接触をまったく断った環境で、電気ショックと薬によるコントロール。人間の脳なんて脆いものだ。そしてまっさらになった脳は、空白であることに耐えられないのか、与えられた情報を(それがホンモノであるかニセモノであるかなど判別することもなく)スポンジのように吸い込んでいく。

「では、失礼いたしまして」

服を脱がすのも面倒だとばかりに、首領は朦朧としている侍を培養槽に放り込んだ。一瞬、我に返った侍は培養液に沈むのを嫌って浮かび上がろうと足掻いたが、外部から電気ショックを与えると、全身を引き攣らせて沈んだ。これで溺死することはない。漬かりながら呼吸ができる特殊な液体なのだ。

「二刻も漬けておいたら、立派な木偶人形が出来上がるわね。うまく躾けたら、いい戦力になりそうじゃない」

「そうなってくれればいいんですがね。その間に、逃げたもう一人を探して参りましょう。芙蓉零號の躯体を持ち出したようですし」

「躯体は処分してくれていいわ。必要な情報は吸い出してあるし」

「了解しました」

首領が研究室を出て行く。
白衣の女は、白髪の侍に興味が沸いて、培養槽に近づいた。普段の検体は女子供が多いので、これだけ体格の良い男性は物珍しかったのだ。体格に応じて、少し薬品の量を増やした方がいいのだろうか。いずれ、男性も対象にしなければならないのだから、今回はいい実験材料を得たというべきかもしれない。もっともモデルにする人物は、こんな筋骨逞しい大男ではなく、中背で痩身の、あまり恵まれていない体格なのだが。
培養液が、口や鼻から、耳から、全身の穴から、そして着物越しの肌からも浸透していく。肉体的な刺激を封じて、精神をコントロールしやすい状況に導くのだ。彼は今、胎児に戻ったかのような感覚に包まれている筈だ。
洗脳する前に少しだけ玩具として貸して貰えないかしら、と女が不埒なことを考えたのは、培養液の影響で傷が癒えていく過程で、思ったよりも男が端正な顔をしていることに気がついたからだ。白髪のせいで勝手に年寄りだと思い込んでいたが、実際にはかなり若い男であるということにも。これぐらいの役得はアリよね、と培養槽のガラス壁面を撫でる。その瞬間、本来有り得ないことであるが、男の目がカッと見開かれて、女と視線があった。




水中のふわふわした感覚は心地よく、傷の痛みも和らいでいき、そのまま眠ってしまえば楽になるような気がした。それでも意識を手放せなかったのは、家に置いて来た神楽や新八の存在はもちろんだが。

(ぎん、ときさ、ま)

切れ切れに呼びかけて来る声のせいだった。それはこの空間においては単なるノイズであるらしかったが、銀時にとっては聞き覚えのある大切な仲間だった。

たま、どこにいるんだ?

(わたしは、ここよ)

銀時を包んでいる液体がそう答えた気がした。いや、その声は芙蓉そのものではない。劣悪なコピーの群れだった。それでも、その一滴一滴が銀時に再会して歓喜しているのが分かった。

(ぎんときさま)

オリジナルはどこにいる? たまを返せ。

(ぜんぶ、わたし)

いや、違う。
とろりと閉じかけていた目を見開くと、ガラス越しに驚愕している白衣の女が見えた。コイツが芙蓉零號のモデルになったという流山の娘か? 痩せて目ばかりがギョロリと大きい女の容姿は、芙蓉には似ても似つかない。いや、芙蓉は死んでいる筈だ。ならば、コイツは誰なんだ?
壁面を殴りつけようとして、力が全く入らないのに気付いた。いや、液体の粘度がかなり高くて、全身に重くまつわりついているために、思ったように動けないのだ。ならば、水から出ればいい。床を蹴って、上に浮かび上がった。液体の水面と培養槽の上部に、ほんの一尺ほどではあるが、空間があった。検体を放り込むために、容量に多少の余裕が設けられているのだ。液体から顔を出すと途端に重力を感じた。ほんの短い間でありながら、体が浮力による無重力状態に慣らされてしまっていたらしい。振り上げた腕が重たく感じるが、構わず拳を作って振り下ろした。二度、三度と殴りつけてもビクともしない。女もそれを知っているのか、口元に笑みすら浮かべていた。

「畜生ッ! たま、いるんだったら、ここ開けやがれ!」

やけくそになって喚いた。返事があるとは思っていなかったが、どろりとした培養液が(それは、ごめいれいですか?)と答えた。

「ああ、命令だ、俺をここから出せ」

(はい、ぎんときさま)

次の瞬間、培養液の嵩が急に減った……ように思えた。生き物のようにうねったゾル状の液が、培養槽の継ぎ目に猛烈な圧力をかけ、やがて内側からブチ破る。
つまり、芙蓉零號の電気パターンが残留していた電解液だったのだろう。機械人形である芙蓉零號の記憶も意識も、所詮はプログラムの上のものであり、容易にコピーし得る。そして、それは多分、オリジナルと寸分違わぬものなのだ。床に飛び散り放電しながら、芙蓉零號の意識が消えていく。

(ぎ、んときさま、わたし、おやくにた、てまし、た?)

ああ、役に立ったよ。おめぇは本当にいい女さ。そう囁いてやると(う、れし、い)と呟いて、肌を滑り落ちていった。
銀時が厳しい表情で視線を巡らせると、今度の事態は想定外だったらしく、白衣の女が愕然とした表情を浮かべながら、後ろ手に手探りしながら非常ベルを鳴らそうとしていた。もちろん、それを押さなくとも、培養槽が破裂したことで警報アラームが響いているのだが。

「洗脳、とか言ってたな。そういう研究をしてんのか」

「化け物、化け物……誰か」

「俺からすりゃ、生身の人間を弄ぶアンタの方が化け物だぜ」

殴り殺したい衝動に駆られたが、恐怖のあまりに腰を抜かして泡を吹いているひ弱そうな女を一方的に嬲るのは、ただの虐待であり弱いもの苛めであって、真のドSとは言い難い。せいぜい頭スレスレの壁を殴って「ヒッ」と悲鳴をあげながら失禁させる程度にとどめてやった。

あれだけ低血糖症状で朦朧としていた頭がスッキリしているのは、培養液に浸った効能だろう。全身から点滴をしたようなものだ。ぐっしょり濡れて重たい着物の袖を絞りながら、いくつも並んでいる培養槽を見て回る。そのひとつひとつに人間が浮かんでいるが、それら全部を助けるだけの余裕はない。
やがて、銀時が足を止めた。そこに全裸で浮かんでいる少女には見覚えがあった。ハジだ。時折ビクビクと痙攣しているのは、頭部に填められたヘルメット状の器具から伸びる電極からの刺激を受けているせいだろう。銀時は培養槽の周囲をぐるりと回って、ケーブルの先を辿った。大きな電算機に繋がっているのに軽い失望を感じるが、その電算機に差し込まれている楕円形の機器を見つけた。

「ぶっこ抜くけど、びっくりすんなよ?」

さらにケーブルも引き千切って、ハジの浮かんでいる培養槽に戻る。どこかに開閉装置があるに違いないと見回す。その頃になって、警備兵らが戻って来たらしい足音や怒声が聞こえて来た。女もヒステリックに喚いている。慌てて、調整槽に備え付けられている調整パネルのようなものをめちゃくちゃに叩く。どこかおかしなところを触ったのか、ハジが狂ったように体をうねらせて暴れ出した。

「げっ、やべぇ。たま、なんとかしてくれ」

囁くと、パネルの一番端にあった赤いボタンが光った。それに導かれるように、そのボタンを押すと、培養槽のガラスがゆっくりと崩壊した。唖然として見守る中、ねっとりとした液体が緩やかに地面にこぼれ落ちていく。それと共に、ハジの体もぬるりと滑り落ちて来た。慌ててその体を抱き取ると、他の培養槽も次々と割れ出した。いや、建物の壁や柱も音を立てて崩落し始めていた。

「おいこら、ちょっとこれはやり過ぎだろ、少しは自重しろ、このポンコツ!」

どこへともなく喚きながら、ハジの体を抱き上げ、落ちて来る天井を避けながら走り出す。確かにこの混乱の中なら追っ手の心配もないが、それ以前にこっちが事故死したらどうしてくれるんだ。




培養槽にブチ込まれずに体力が消耗したままだったら、危なかったろう。走り詰めに走り抜いて、やがて割れた壁の向こうが宇宙空港であることに気付いた。すでに今日の運営が終わっているであろう滑走路を駆け抜けて空港を囲む塀を越え、路地に入り込んでようやく一心地つき……そこで、腕の中の少女が裸なのに気付いて焦った。銀時の服にまとわりついていた培養液は、とっくに乾いており、手で払うと黄色い粉となってパラパラと落ちる。その上着を脱いで、少女の体を包んでやった。

「ぎんときさ……いや、違、えっと……?」

「どっちでもいい。洗脳されたっていうハナシだから、まだ混乱してんだろ。んなこと考えるのは、後でいい」

「はい」と呟いて男の首に腕を回し、安心しきったように胸にもたれている仕草から察するに、ハジは芙蓉零號の記憶を移植されたらしい。

「さぁて、どこへ逃げたもんかね。この状態で奉行所に連れて帰ったら、さすがにハードボイルド野郎に怒られるだろうし、かといってウチに連れ込んでも、ガキ共がうるさいだろうしなぁ」

「私はどこでもいいですよ、銀時様と一緒なら」

「だから、そういう問題じゃねぇんだよ。早いとこ元に戻ってくれよ」

「ふふ。おかしな銀時様」

「おかしいのはテメーだ」

あのV字ヘアー君がボディを回収して芙蓉を復活させたら、更にややこしいことになりそうだなぁ……と、銀時は溜め息を吐いた。




「ここまで来れば、安心ですよ。たまさん」

安心な場所まで逃げたというよりは、単に走るのが体力的に限界になっただけではあるのだが、ともあれ研究所があった地域の警察管轄区は離れている。

「坂田の旦那の家まではちょっと遠いから、駕篭(タクシー)でも呼びますか? それとも、どこかで休みますか?」

何気なくそう話しかけてから、まるでホテルに連れ込むような言い回しだったことを自覚し、山崎の顔がカッと紅潮した。

「あ、いや、その、休むっていっても、アレですよ。純粋に身体を休めるという意味であって、男山崎、ヤマシいことは全くその、ええと、寝るだけですからね。寝るっていっても、そういう意味じゃなくて、だから、あの、うああああああああ!」

「アタクシは機械(からくり)ですから、疲れませんの。でもアナタはお疲れのご様子ですから、休んだ方がいいと思いますの」

こんな時まで俺の心配をしてくれるなんて、やっぱりたまさんはなんて優しい女性なんだ……と、山崎は感激で胸がいっぱいになった。口の中がカラカラに乾いているのを、無理矢理にツバを飲み込み「で、でしたら、休みましょうか。ちょうどそこにホラ、ホ、ホ……ホテルが」と告げた。
派手な蛍光ピンク色の電飾看板を掲げた、いかにも安っぽい連れ込み宿だが、機械人形の女は表情を変えずに、こっくりと頷いた。

芙蓉の手を引きながら狭い階段を登り、フロントで告げられた部屋に着くと、扉の上で部屋番号が書かれたプレートが点滅していた。ドアを開けてベッドルームに入ると、芙蓉が不思議そうにキョロキョロと左右を見回している。

「まぁ、汚い場所ですの」

「安いから仕方ないよ。高級なトコはそのうち……その、今度ボーナスでも出たらね。とりあえず、休むだけだから勘弁してよ」

「ここは、お掃除のやり甲斐がありそうですの」

「いや、たまさんが掃除をする必要はないんだよ」

「お掃除しちゃ、いけませんの?」

「しなくていいんだよ」

納得がいかないのか首を傾げている姿すら小鳥のように愛くるしく、山崎は不審がるどころか「どこまでも家庭的な女性なんだなぁ」と感激していた。

「落ち着いたところで、俺はちょっと風呂でも入って来るよ。すっかり汗だくになっちゃったから……その、たまさんは?」

「アタクシは機械(からくり)ですから汗をかきませんの」

「あ、あははは、そ、そうだよね」

「お身体をお流ししましょうか」

「ええっ? いいの? その、ちょっと嬉しいけど、俺たちまだそういうのは早いかなーとか、でもこういう宿に一緒に泊まるってことは、その、そういうこともアレかなーとか思っちゃったりして、でもほら、休むだけって、さっきも」

一応、形ばかりの遠慮をしてみせながらも、据え膳食わぬは男の恥だ。故郷のお父様、お母様、如何がお過ごしですか。山崎退は今日、男になります。じゃあさっそく、と脱衣場に飛び込んで、服を脱ぎ捨てる。

「まぁ、汚い棒ですの。お掃除しなくちゃですの」

「えっ? 棒?」

そんなものどこにあるのだろうと周囲を見回して、機械人形の視線が男の股間に注がれているのに気付く。やだなぁ、冗談キツイよ、と笑おうとしたところで、腕をガッシリと掴まれた。

「キレイキレイにするですの」

いつのまに持ち出したのだろうか、機械人形のもう片手には亀の子タワシが握られていた。振りほどこうとしても、生身の人間が機械人形の馬鹿力に勝てる由もない。

「君、誰? たまさんじゃないよね?」

「タマサン? 誰ですか? ホクロビーム?」

抵抗空しく床に押し倒され、機械人形が馬乗りにのしかかって来る。必死で抵抗を試み、指に触れたスリコギ状の物を握る。だが、トリガーを引いて放たれたのは、なぜか醤油であった。

「アタクシは、芙蓉似−参丸伍號ですの。くりん、って呼んでくださいなの」

鋼鉄の清掃屋(ころしや)は、芙蓉零號の顔でにっこりと笑ってみせながら、すっかり萎えて縮んでしまったモノを握り込んだ。


初出:2012年12月25日
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