花蘇芳【2】


部室に駆け込むと、珍しく引退した筈の豊西がいた。

「実習でパン焼いたんだけど、八軒、食べる? 他の人は馬に乗って、部室に戻ってきてから食べる予定なんだけど、たくさんあるから」

「あ、食べたいです」

「おせーぞ、八軒。お前が来るまではダメって、匂いだけ嗅がせた状態でお預けだったんだぜ。皆もぶーぶー言いながら馬房に行ったんだからな」

同じく引退した筈の大川がそうボヤくが、こちらは全然珍しくない。
豊西は、ビニール袋に包んだパンをどさどさと大きな紙バッグから引っ張り出して、テーブルに広げた。

「こんなに作ったんですか?」

「ウチの班で焼いて、その場で食べ切れなかった分、全部貰ってきたのよ。保存料とか使ってないから、あまり日持ちしないし。八軒がもりもり食べてるの見るの、すっごく楽しいから」

「稲田先輩のもあるの?」

保存料云々と聞いて反射的にそう尋ねてしまったのだが、豊西は「ああ、稲田君とは班が違うから」とあっさり答えた。

「それとも、稲田君からもパン貰ってきた方が良かった? 稲田君は八軒のこと、ほとんど赤の他人って言ってたけど」

え、なにそれ。いや、確かに学年も学科も部活も違うから、赤の他人で間違いないのかもしれないけど。
ぐらっと目眩がした。サーッと音を立てて、背筋へと血が流れ落ちて行くのを感じる。指先が冷たい。視界が反転し、胃の底がぐっと持ち上がった気がした。

「おい、八軒、大丈夫か? 今、モロに頭打ったろ。豊西、トイレットペーパー二、三ロールとバケツかなんか持って来い。吐いてるわ、こいつ」

「え、吐いてるって、大丈夫なのソレ。吐いたものがつまらないように、うつ伏せにしてやらなくちゃいけないんじゃない? 救急車呼ぶ?」

「ほとんど液体だから、詰まりはしないと思うわ、これ……つーか、牛乳のゲロってくせーから、これ始末するのにマスクした方がいいぞ。貰いゲロしかねん」

ふたりが何を話しているのか、一応耳には届いていたが、意味は伝わらない状態だった。大きな腕に抱きかかえられ、背中を撫でられている感触は心地よかったが、その温かさに身を委ねることへの(ホル部で感じたものと同じ種類の)恐怖もあった。遠のきかける意識を振り絞って、包み込んでいる腕を払う。

「大丈夫、すみません、大丈夫ですから。ちょっと貧血気味、みたいな?」

「そ、そうか? ソファで寝とくか? 肩貸そうか? まだ吐きそうならここに吐けよ」

「いえ、いいです。自分で歩きます……豊西先輩もすみません。パンは後で食べますから」

「いやいやいや、八軒、無理しなくていいからね。日持ちしないっていうけど、なにも今日中に食べなきゃ腐るっていうほどでもないから、明日でもいいし、明後日だとちょっと固くなってるかもしれないけど、焼いたらフカフカになるから」

やれやれ、カレシの話を聞くどころじゃなくなったな、と豊西は肩をすくめた。




「お目覚め?」

目を覚ますと、自室のベッドだった。枕元に相川が腰を下ろしている。

「うわっ、えっ、なに? ホル部こわい」

「何のこと言ってるの。なんか、部活で倒れたんだって? 馬術部の三年のひとが背負って連れて帰ってきてくれたんだってサ。無理せずウチでゆっくりして行けば良かったのに」

そう言われて、馬術部の部室で倒れたことを思い出す。
なんか、学祭で倒れて以来、すっかり倒れ癖がついちゃったな。周囲も慣れて救急車を呼ぶような騒ぎにはならなかったようだけど。

「そうだ……豊西先輩のパン」

「枕元のその紙袋じゃない? 八軒君を連れてきてくれたひとが、後で食べろってさ。晩ご飯の時間終わっちゃってるから、ちょうど良かったね」

「相川は、何しに?」

「忘れ物を届けにきたのと、お見舞い兼ねて」

「忘れ物?」

「机の上」

なんだろうとベッドから身を乗り出して覗くと、見るのも忌まわしい白い箱が鎮座ましましているのが見えた。
おおよそ要らねぇ、こんなのわざわざ届けてくれなくても良かったのに。さらに、封筒の束がふたつほど転がっているのも頭痛を促進させる。例のラブレターだ。

「あれ、全部捨てといて。薬も要らない。使わないし」

「使わないの?」

「西川となんか、しないし」

「そうなんだ。まぁ、カモフラージュだしね」

その言葉に微かな引っかかりを覚えながらも、吐いたせいで胃が空っぽのせいもあって、紙袋からパンを引っ張りだして貪ってしまう、己の食い意地が嫌だ。

「そういえば、西川は?」

「ん? カレシのことが心配?」

「そーいうんじゃないけど、これ全部一人じゃ無理だから、一緒に食べようかな、って。別府そこに居るのに、西川見当たらないから。いや、今全部一気に食べる必要性はないんだけど」

「カレシの職務を果たしに行ってるみたいだよ」

「職務?」

うん、としか相川は答えなかったが、どうやら八軒に横恋慕して部屋を訪問して来たヤツに引導を渡しに行ったらしい、ということはなんとなく分かった。逆恨みされてボコられる可能性があるって言ってたけど、大丈夫かな。まぁ、分かって立候補してるんだろうから、心配する必要はないのかもしれないけど……携帯電話が目に入った。ふと思いついて、八軒はポチポチとメールを打ち、送信した。




男の嫉妬はシャレにならないっていうけど、本当なんだなぁと、西川は変なところに感心していた。
冷やかし半分で事実関係を確認しにくるヤツはともかく、諦めるから一発殴らせろというヤツだの、勝負しろとか言うヤツだの……叩き潰せば潰すほど、逆に増えている気がするのは何故なんだろう。こういうの、害虫駆除でも有ったな。なんだっけ、農薬の3Pだか3Rだか。

「見たとこ、おめーらちっとも付き合っているふうには見えないんだがな。ほとんど別行動じゃねーか」

「そりゃ、同室だからサ。外でべたべたくっつく必要もねーべ」

西川にとっては「ホントは、中でもべたべたさせてもらえないんだけどな」という自嘲気味な台詞だったのだが、かなり挑発的な発言に受け取られてしまったらしく、拳が降って来た。体格差があったのが逆に幸いしたのか、リーチが伸びきって大振りになった動線は見切りやすく、辛うじて一発目を躱すことができた。二発目が飛んでくる前に、バックステップで相手との距離を取る。

「まぁまぁ。殴り合いの喧嘩なんてやらかしたら、停学になるっしょ。ただでさえ、寮を抜け出してるのバレたら厄介なんだから。おにーさん、落ち着いて、落ち着いて」

「落ち着けるか! ちょこまか逃げるんじゃねぇ!」

そうはおっしゃっても殴られる気は毛頭ないし、困ったな……と思っていたところで、相手の男がガクッと膝をついた。

「は?」

さらに山が崩れるようにドッと男が倒れ込み、その背後にはハンプティ・ダンプティが居た。なにそのアリス……と思ってよく見たら、稲田多摩子であった。

「やった、俺のカメハメ波が決まった!」

西川に背後には、いつの間にか常磐がいて、両手を突き出す「波ぁーっ!」のポーズを決めていた。

「そんな訳ないでしょ。私が蹴りと手刀を入れただけ。西川、怪我は無かった?」

そういえばこの二人は空手部だったっけ。助かった。
西川はホッとして脱力のあまり、しゃがみ込んでしまった。こんな理不尽な理由でおとなしく殴られるつもりはないが、やはり多少の怪我は覚悟していただけに、この助け舟はありがたかった。

「そうだよな。常磐、って手もあったよな。駒場は怪我させちゃいけないだろうし、相川はヒョロいし、別府じゃ説得力ないだろうとか消去法で色々考えたんだが……早まったな」

「え? 何が?」

「お前だったら、こーいうトラブルになっても、空手で相手を倒せるべや。カメハメ波でもペガサス流星拳でも、好きなの試し放題だぞ」

「ハチの恋人になれってこと? でも、俺、男よりおっぱいある子の方が好きだし」

「俺だって、二次嫁の方が好きだよ、畜生」

「えー? 西やん、ハチと何もしてないの?」

「するかボケ。それどころか、微妙に嫌われちまったっつーの。ハチのために一肌脱いでやったってーのに、この仕打ちだもんな。やってらんねー」

ぶつくさ呟いている西川に、多摩子がむちむちした手を差し出した。何かくれるのかと一瞬思ったが、守銭奴の多摩子に限ってそれは無い。断じて無い。そろそろ立て、というジェスチャーなのだと気付いて、遠慮なくその手を握り返した。ぐいっと凄まじい力で引き上げられた。

「そう捨てたもんじゃないわよ。八軒、アンタを助けに行ってくれってメールを、アタシと常磐に寄越したんだから」

メンツの中で一番腕力がありそうな駒場が『救助隊』から除外されているのは、やはり野球部のエースに怪我をさせるわけにはいかないという遠慮だろう。あるいは、駒場が御影アキと親しいので、微妙に捻じくれた感情があるのかもしれない。

「さて、さっさと撤収しましょう。殴り合いどころか、一方的にノシてしまいましたし」

「そ、そうだな。つーかコイツ、ここに転がしておいて大丈夫か? 風邪引くんじゃね?」

「でも私、活を入れて起こすの苦手なのよね。力加減間違えて、肩甲骨折りそうになるというか、折ったことあるし」

「俺も苦手。そーいうの一応、レクチャーは受けた事あるけど、やり方忘れた。うろ覚えでやろうとしたら、背骨折る気かって怒られた」

なんだこいつら、地味に殺人マシーンか。
ともあれ、無理に起こさずに草っぱらに転がして自然に任せておいた方が、彼の生存率が高まるということだけは明らかだった。




部屋に戻ると、八軒が「大丈夫だった?」と飛びついて来た。怪我が無いか確かめているつもりなのか、両手で西川の頬や肩、腕のあたりなどをパタパタと軽く叩いてくる。

「あー…うん、平気平気。多摩子と常磐がいいタイミングで駆けつけてくれて。メール送ってくれたんだって? サンキュな。すごく助かった」

「その、俺のせいで、いろいろ面倒なことになってるみたいだし、代わりに断りに行ってくれたりしてるのに、それで怪我とかしちゃったら、その、申し訳ないし……ごめん」

恋人として、というより、いつもの八軒らしいお人好しモードなのだろうが、それでも友人らの前でされるのは照れくさかった。

「大丈夫。何もなかったから。心配させて悪かったな。お前こそ馬術部で倒れたとか言ってたの、もう具合良くなったのか?」

頭を撫でてやると、八軒はこっくりと頷いた。その仕草がやけにあどけなく見える。

「あらやだ、ラブラブなんじゃないの。アンタ達、ホントにそのまま付き合っちゃう?」

本来、男子部屋スペースに女子が入るのは御法度(逆も不可)なのだが、多摩子はしれっと溶け込んで「残りどうぞ」と差し出されたパンをワサワサと胃に詰め込んでいる。

「その、これはカモフラージュだ、カモフラージュ。ハチの身辺整理のために、仕方なくやってんだよ。俺は二次元の方が好きだって言ってんだろーが」

つい照れ隠しで口走ってしまい、西川の服の袖を掴んでいた八軒の手がはらりと落ちた。

「あら、本当に違うの? 残念ね。じゃあ、御影さんには頃合いを見て、私から適当に取りなしておくわ」

「おっ、良かったな、ハチ」

だが、八軒はいまいち浮かない表情をしていた。




その夜、八軒は眠れなかったが、それを察せられるのが嫌で、音を立てないように慎重にベッドから抜け出していた。不眠を訴えれば抱き枕を借りるなり、気が鎮まるまで撫でてもらえるなりできるのは分かっていたが、今日に限っては、あまり西川の世話にはなりたくなかった。
先輩からは赤の他人呼ばわりされるし、ホル部は得体が知れなくて怖いし、散々な日だな、今日は……農作業や厩舎の掃除などで早起きする分には、いくら早くても構わないあたりが農業高校クォリティだ。もちろん、こんな時間じゃ馬も牛も寝ているだろうから、どこか夜露を防げるところで野宿するのがせいぜいだけれども。




朝、目が覚めたら八軒が居ないのは(馬術部での厩舎の掃除があるので)いつものことだが、朝食の時間になっても戻ってこないのは、異例だった。
八軒の分の朝食も平らげた別府は「馬術部じゃないの? もしかしたら、今日は土曜日で授業がないから、どっか行ってるだけかもしれないし」などとのんきなことを言っているが、昨日の今日では何かに巻き込まれたんじゃないかと西川は気が気でならない。

「そうだな。ちょっと馬術部のぞいてくるわ。あまり騒ぎを大きくしてもアレだから、ハチの行き先とか聞かれたら、なんかテキトウにゴマ化しておいてくれな」

「うん、分かった。誰かに聞かれたら、西やんとデートに行ったって言っとく」

「またそんな恨みを買うような言い回しを……ま、ともかく頼んだ」

寮を出たところで「八軒を探しに行くんだろ」と、駒場に呼び止められた。常盤、相川に多摩子も居る。

「多分、どっかの林にでも迷い込んだんだろ。アイツ、ナチュラルに迷子になるからな。入学早々やらかしてたし、夏休みんときもアキんちから俺んちに行く途中で迷ってたし」

「助かる。とりあえず、先に馬術部をのぞいてみるつもりだけど」

「馬術部に馬、出してもらうの?」

「それやると、先生とかにも知られるだろ……部活でしれっと馬や犬と遊んでるんだったら、それはそれでいいかなーって」

「なるほど」

厩舎に向かう途中で、スキンヘッドの生徒が歩いているのを見かけた。どこのクラスの誰かは知らないが、馬術部にそういうアタマのやつがいたっけな、と思い出せた。

「えーと、すいません、ちょっといいですか。馬術部の方、でしたよね?」

「はぁ、円山といいます」

頭を丸めてるから円山ですか、と口走ろうとした常磐の口を、相川が笑顔のまま手で塞いだ。いきなり喧嘩を売ってどうする。

「八軒、見かけませんでした?」

「さぁ? 朝の掃除も来てなかったし。なんか有ったん? つーか、カレシさんまで居場所も知らないの、ダメっしょ」

あれま……と、捜索組が顔を見合わせる。その様子に、円山もただならぬ空気を感じたようだ。ちょっと待ってろと言い残して部室に駆け込み、すぐに森林科一年の木野を連れて、戻ってきた。木野は何も聞かされていないらしく「え? 何? 何だよ一体」とキョトンとしている。

「こないだ、大川先輩が言ってたアレ。ほら、山小屋がどーのこーのって。俺は聞きかじりだけど、木野は詳しく聞いてるんだろ」

「え? ああ、言ってたね。不純異性交遊が禁止されたきっかけの事件ってハナシ。あれがどうしたの?」

促されるままに、木野は大川から聞いた話を繰り返す。

「うーん、可能性はあるね。かなり恨みを買ってるだろうし」

相川が呟き、誰の話、と聞き返そうとした木野もすぐに思い当たったらしく「あ……」と声を失った。
相川が「西川君が盾になって、代わりに殴られるなり蹴られるなりしておいてくれればいいのに」と、ぼそっと呟き、西川が「俺がよくねぇ!」と、喚く。

「でも、矛先が八軒君に向くのは、もっと問題あるよね?」

「それはそうだな」

「つまり、八軒がそこに拉致されているかもしれないってことかしら? 確かに昨日も、血の気の多そうなの、叩きのめしちゃったしね」

「つーか、それって地味にやばくね? 助けに行かなくちゃいけなくね?」

常盤の口調は軽かったが、内容はヘヴィーであった。男性陣は思わず顔を見合わせる。

「その山小屋の場所って、ご存知なのよね、木野……さんて言ったかしら、アナタ」

「あ、はい。森林科ですから」

「でしたら、皆を案内してそこまで連れてらして。そういう可能性があるんなら、散らばるよりも固まって行動した方がいいでしょ? 円山さんは馬術部で、ひょっこり八軒が戻ってこないか待ってて。ついでに御影さん達が心配して騒がないように、うまく取り計らっておいてね。見つけたら……森の中でも携帯電話は通じるのよね?」

「そうですね、ちょっと通じにくい場所もありますけど、一応」

「じゃあ、それで……私はもうひとつ心当たりがあるから、念のために確認しとくわ。何かあったら、電話なさい」

多摩子がテキパキと指示を出してから、くるりときびすを返した。

「じゃあ、俺達も行こうか……武器とか要るかな? スコップでいいかな」

「常盤。お前、なんか楽しそうだな。つーかスコップは、本気で格闘した時にシャレにならんらしいぞ。ロシア軍の特殊部隊の近距離用ウェポンだって……ソースは漫画だけど」

「じゃ、俺はバット持って行こうかな」

「駒場のバットもシャレになってねぇ!」




静まり返った図書室に、携帯の着信音が鳴り響いた。
参考書を広げていた稲田はギョッとして周囲を見回し、それが自分のだと気付いて余計に慌てた。しかもメールではなく通話だ。うっかりマナーモードにし忘れていた己の不覚を呪いながら、足早に廊下に出た。耳に押し当てる前にディスプレイに表示されている名前をチラリと見て、舌打ちする。

「なんだ、急に電話なんかしてきて」

「兄さん、どこにいらして? ちょっとお話が」

「図書室だが?」

「では、すぐ参ります。そうそう、八軒とはご一緒かしら?」

「いや……八軒に何かあったのか?」

それには答えず、ぷつりと通話が切れた。
すぐに図書室に戻るのもきまずいので、廊下の壁にもたれて待っていると、しばらくしてドスドスという軽快な(?)足音と共に多摩子が現れた。

「何の用だ?」

苛立ちを隠せずに詰問口調になったが、多摩子はカエルの面になんとやらの優雅な口調で「まぁ、兄さん、お怪我?」と尋ねていた。稲田の右の手指が絆創膏やらガーゼやらで覆われている。

「ちょっとしくじって火傷しただけだ。少し痛むけど、生活には支障ない」

「あら、お大事に。その様子だと、八軒がどこに居るかはご存じないみたいね。マンションにでも引っ張り込んでいるかと思ったけど」

「するか、そんなこと」

「いっそ、その方が良かったのに。エゾノー実習林の山小屋の伝説、ご存知?」

「いや。俺らはそんなとこ足踏み入れる機会もないしな。八軒が居ないのか? 俺はアイツとの接点はほとんど無いぞ」

「だって、兄さんのせいなんだから」

合理主義者で理路整然と話すのが得意な多摩子には珍しく、微妙に会話が噛み合っていない。妹は鋼鉄の心臓の持ち主の筈だが、なにか動揺するようなことでもあったのだろうか。

「ちょっと待ってろ。ちょっとカバン取ってくる。何か飲んで落ち着いてから、順序立てて話せ」

「そんなのんきなことを仰っている場合でもないんだけど……奢ってくれるなら飲むわ」

稲田は図書室に戻り、広げていた筆記用具をカバンに突っ込んだ。

初出:2012年12月12日
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