アニメ版では一国傾城編が先に放映されましたが、原作では
山崎お見合いは第三百八十四訓、傾城編は三百八十六訓からです。
当作品は原作基準の時間軸となっています。予めご了承ください。
どこかでアナタを見ている人がいることも忘れないでくださいねって誰だよウチの看板娘ちげーぞ多分そこのタコだろそのV字ヘアー抜いてハゲちらかすぞオラ【1】
「ヲイ」
渡り廊下で呼びかけられた。はい、と返事をして振り返ろうとした山崎の顔面に、封筒が叩きつけられる。
「ぐぁああああ! 目がぁ、目がぁあああああ! 取れた目玉がまた落ちるぅうううううう!」
板の間をのた打ち回って苦しんでいるところを、さらにトドメを刺すように「股も玉も勝手に落ちてろ。これ、テメェの給料から天引きしておくからな」と、無慈悲な宣告が言い渡された。
「ちょっ、何の話ですか。ただでさえ薄給なのに、さらに削る気ですかっ!」
「天引きが嫌なら、今すぐ耳ィ揃えて払え。勘定方に言って、引き落とし処理を停めさせてくるから」
「だから、何の話ですか。え、何? 請求書?」
ひらひらと舞い落ちた封筒を手探りで拾い上げ、ぺったり座り込んだまま、目をしょぼしょぼさせて中身を取り出す。そこに記された五桁にも及ぶ高額な数字に、山崎は眼球がリアルにポーンと飛ぶかと思った。
「え? コレ何? クリーニング代?」
「こないだの見合いで、お姫様の振袖が汚れたから払え、だとよ」
「ええええええっ! こんなに? メダマドコー?」
「ドコーじゃねぇよ、そこについてるのは節穴か? ついでに、俺と近藤さんの紋付にも変な匂いがついちまったから、それのクリーニング代も上乗せしてあるんだ」
「ああ、なるほど……って、なんで、アンタらの分まで! 変な匂いってなんですか。ソレ、アンタら自分のゲロでしょ」
涙でにじむ目をこすりながら、必死で明細を読む。確かに振袖一式と二人分の紋付袴のクリーニング代が請求されていた。ご丁寧にも、それぞれの領収書の写しがホチキスで留めてある。原紙は証拠隠滅されぬよう、勘定方に回しているに違いない。
「ううっ、鬼上司……沖田隊長の分は?」
「さぁ? 何も言われてねぇから付けてねぇが、総悟の分も払うんだったら、書き直してやるぞ」
「いえ、払いたいわけじゃありませんから……つーかそれを言ったら、万事屋の旦那やガキ共の分もあるでしょ。なんで、ちゃっかりアンタらだけ便乗しようとしてるんですか」
「そうか、万事屋の分は払えて、俺と近藤さんの分は払えないのか。そうだよなぁ、万事屋はもうテメーの身内だもんなぁ。今度から、お義父さんって呼ぶのか? 愛しい嫁のお義父さんのクリーニング代は進んで払っても、鬼上司の分は払えないってぇんだな?」
「そういう意味じゃないです! なに拗ねくってるんですか!」
万事屋の張り込みをしていた山崎が、家政婦型機械人形の『たま』に惚れてしまい、その恋を仲介しようと沖田の提案で見合いの席を設けたのは、先日のこと。その席で出されたもんじゃ焼きに多少(?)問題があって、見合いそのものはグダグダのうちにお開きになってしまっていた。
ぎゃあぎゃあ喚いていた山崎の悲痛な叫びを、ハイエナのように聞きつけたのか、そこに沖田がひょいと顔を出して「心配ありやせんや。俺の分は仕立て直しすることにしやしたので、金額が出てくるのは、もうちっと先でさぁ。そうですね、フルセットで30万弱ぐれぇですかね」と、爽やかに言い放つ。
「えええええっ! ちょ、そんなの天引きされたら、俺の給料なくなるじゃんか! つーか、主役の俺の白紋付がぶら下がりのレンタルもんだったのに、なんでアンタの分仕立てなきゃなんだよ!」
「そりゃ、俺の私物だったからに決まってんじゃねーか。どーしても払えねーってんなら、土方コノヤローの給料から天引きしてもらいやしょ」
「なんで俺! 冗談じゃねーぞ。なんでコイツの尻拭いを俺がしなくちゃいけねーんだ。コイツのタレ目でも肝臓でもケツの穴でも、好きなだけ売り飛ばして回収しやがれ」
「あんたら、どこまで鬼畜なんですか。つーか売りませんよ、ケツなんて!」
クリーニング代だけで済ませてくれた分、鬼の副長の方がむしろ『仏の対応』だったとは、世の中下には下があるものだ。それよりも、たまさんの振袖こそ、仕立て直すべきじゃないだろうか。だが、あれだけの振袖のセットとなると、紋付袴の比ではない費用がかかるだろう。下手すれば七桁の大台に乗る可能性もある。七桁か……とても無理だ。いくらたまさんのためでも、そんな金額おいそれと出せるものではない。山崎は、両手を床についてがっくりうなだれた『失意体前屈』の姿勢でため息を吐いた。その尻に、思い切り何かがぶつかる。
「いでぇっ! 副長ですか? カネにならないからって、なにも蹴飛ばすことないでしょう!」
弱り目に祟り目とはこのことだ。半べそをかきながら見上げるとタコ入道が突っ立っていた。十番隊長の原田右之助だ。その隣に、痩せぎすの副官が大量の書類を抱えて従っている。
「ゴメン、見えてなかった」
「てめっ、ザキちゃんになんてことするんだ」
「見えてなかったから仕方ないじゃないですか。ちゃんと謝りましたよ? 文句があるなら半分持ってくださいよ。人任せにするからですよ」
しれっと言い放つと、原田が山崎を抱え起こそうとするのを遮って、ドサッと紙束を押し付けた。
「あー…その、ザキちゃん、わりーな。後で、な」
後で、なんだというのだろう? 山崎が唖然として二人を見送ると、土方と沖田も、十番隊コンビに毒気を抜かれたようで、ポカンと口を開けていた。
「どーせなら、クリーニングじゃなくて、新しいのを仕立ててもらえば良かったのにサ」
お登勢が、洗い張りから帰って来た着物を前に、苦笑いした。
「いいえ、これでいいんです。お登勢様に甘えて思い出の振り袖を借りなくて良かった。銀時様がご一緒だから汚すかもしれないって、キャサリン様が仰ってた通りでしたね」
「よかぁねぇよ。我慢して安もん選んだんだろ? 遠慮しないで私の若い頃のんを着てってくれても良かったのにさ。汚したら、それこそ問答無用で仕立て直しさせたのに。まぁ、いいか。キャサリンが見合いにでも呼ばれることがあったら貸してやんよ。アンタも私の娘みたいなもんだからね。そんでうまいこと汚しておいで」
「ババァノ振リ袖ナンテ、何十年前ダヨ。流行遅レダシ、トックニカビガ生エテルヨ。モッタイナイカラ寄越セヨ。売リ飛バシテ来テヤンヨ」
「んだとコラ! まったくアンタってヤツァたまとは違って、娘は娘でもどーしようもないドラ娘だぁね!」
そんな女の争いを横目に銀時はカウンターに座り込んで、気が抜けたように手酌を重ねていた。いつもなら、すぐに芙蓉が小首を傾げながらすり寄って来て「どうしました?」などと尋ねて来るのだが、今日に限って芙蓉は少し離れた位置で表通りばかりを気にしているようであった。
「そろそろ、お店を開ける時間ですね」
「ああ、そうかい。じゃあ、支度でも始めようかね。どうせ開店すぐに来る客なんか、タダ酒狙いぐらいしかいないんだがね。おい、銀時。邪魔だからそろそろ上に戻っておくれでないかい?」
「ん。ああ」
のっそりと立ち上がり、店を出るついでに、ちらりと芙蓉の視線の先を辿る。
あのV字ヘアーでもいるのだろうか。だったらストーカー行為するんじゃねぇと一発ぶん殴ってやろうと思ったのだが、夕闇に染まり始めていた表通りに人の気配は感じられなかった。
確かに視線を感じるが、いつもの張り込みのそれではなかった。
それをどう説明していいのか、機械人形である芙蓉には分からなかったが、彼女が人間であれば「虫の知らせ」とでも表現しただろう。
『温かい』を通り越した暑苦しい視線で見守る山崎の張り込みとは明らかに違う、肌にべっとり絡みつくような、ひどく冷たくて嫌な感じ。
銀時様や万事屋を見つめているんだろうか。
それとも、私を?
せめてそれぐらいは突き止めてから報告しないと、皆に無駄な心配をかけてしまうと考えていたので、芙蓉はあえてその違和感を誰にも伝えなかった。だが、ちらちらと戸外を気にしているのは周囲に勘付かれていたようで、何度か「待ち人かい?」とからかわれた。
「いいえ、なんでもありません」
「そうなんだ? そうだよねぇ。たまちゃんに彼氏ができたら、寂しくなるよ」
「また、お上手を」
「そういえば、お見合い、散々だったんだってね。ポリ公のとこにお嫁に行かずにすんで、良かったじゃないか。たまちゃんはやっぱりこの店に居てくれなきゃ」
「褒めても何も出ませんよ?」
「つれないこと言うなよ。俺らァ、たまちゃんが店に来たばかりの、何も覚えてねぇ生首だった頃から知ってるんだぜ。いわば、可愛い娘みてぇなもんさ。それをポッと出てきて掻っ攫うなんて、よぉ」
酔っ払いの繰言かと思ったが、周囲も「そうそう」と頷いている。
お登勢までタバコの煙を鼻の穴からもうもうと噴き上げながら「どうせお嫁に出すんだったら、もっとイイ男じゃないと納得いかないね。辰五郎みたいなさ、二枚目で気風が良くって、こう、芯がピィンと一本通った男の中の男、ってぇヤツじゃないと」などと言い出した。
「おっ、出た出た。お登勢姐さんの十八番、旦那の惚気話!」
「たまには、次郎長の親分のことも思い出してやってくだせぇ!」
「ちょっと、なんだい、アンタ達。私はその、辰五郎は例えで挙げただけでね。今は私じゃなくて、たまの話だろイ」
常連客達の冷やかしに、お登勢は年甲斐もなく真っ赤になりながら喚く。
芙蓉はターゲットが移ったのを察して、空いたグラスを引っつかみ「お下げしますね」と言い残すと、早々にその場を離れた。カウンターの陰に隠れるようにしてグラスを洗い、水きりカゴに並べる。
酒やつまみの注文も一段落しているようだと見てとると、芙蓉はそっと裏口から店を出た。
きっと、銀時様も私の様子に気付いていたに違いない。
だったら、先ほど、わざと黙っていたことを、銀時様に謝りたい。
外はすっかり暗くなっていたので、芙蓉は視覚センサーを通常モードから暗視スコープに切り替えようとした。長い睫毛を伏せるように視線を落とす。だが再び目を開く前に、背後から首筋に冷たいものが当てられた。パチッと接触面から火花が飛び散り、機械の身体が崩れ落ちる。
「おいこら、この穀潰し。たまをどうした」
いきなり枕を蹴り飛ばされ、銀時は眉をしかめた。ついカッとして殴り返そうとしたが、相手の顔面にヒットする直前に相手がお登勢であることに気付き、辛うじて拳を止めた。
「んだよ、ババァか」
銀時が気まずそうに握り締めた手指を開いてブラブラさせていると、お登勢はまったく動じた様子もなく「ババァで悪かったね。そんで? たまはどうしたよ」と、寝巻き姿の銀時をねめつけて畳み掛けた。
「どうしたって、どうしたんだよ。今日はアイツ、こっちにゃ来てねーぞ」
「今日は、ってなんだイ、今日はって。いつもなら来てんのかイ」
「そこに食いつくの? 怒るポイントそこなの? つーか、たま居ねぇの? いつから?」
「仕事中にふらっと店を出たらしくて、気付いたらそのまんまさ」
その台詞を聞くか聞かないかのうちに、銀時はお登勢を残したまま、寝室を飛び出した。デスクの上から愛車のキーを拾い上げる。
「アンタ、心当たりでもあるのかい」
「心当たりっつーか。夕方、様子がおかしかったけど、どっか調子が悪かったのかもな。じーさんとこ見てくるわ」
「風邪ひくから、ちゃんと着替えていきな」
「めんどくせぇ。すぐけぇるよ」
そのまま玄関から飛び出し……1分もしないで駆け戻ってきた。呆気に取られているお登勢の存在を無視して堂々と寝巻きを脱ぎ捨てると、普段着に着替えて赤いマフラーを首に巻いた。
「やっぱ、外さぶかった。あと、かーちゃん千円貸して。俺のべスパちゃん、ガス欠なんだわ」
「誰がかーちゃんだ! てめーなんざ産んだ覚えねぇよ!」
大声で罵りながらも、お登勢は帯に手を突っ込んで分厚い札入れを取り出す。
「ちっ、こんなときに限って細かいのが無いんだから。ホレ、ちゃんと見つけて来るんだよ」
「うほっ、万札? こんなに? ありがとう、ババァ!」
「てめぇコラ、なんで『かーちゃん』から『ババァ』に格下げされてんだよ! つーかそのカネ、貸しただけだからね! 必ず返せよ!」
だが、それに対する返事はしないまま、銀時は再び弾丸のように出て行った。
「あれ? ババァどうしたアル? 銀ちゃんは?」
神楽はヘッドフォンをしたまま眠っていたようだが、さすがにお登勢の喚き声で起きてしまったらしい。目をこすりながら、押入れから降りてくる。
「いやね、ちょいと野暮用でね。アンタはまだ寝てな」
「銀ちゃん出かけたアルか? ドコ? ワタシ置いてきぼりアルか?」
「朝には帰ってくるといいんだけどねぇ。神楽アンタ、銀時がいなくて寂しかったら、下に寝に来るかい?」
「いつも別々に寝てるから、銀ちゃん居なくても関係ないヨ」
「そうかい」
お登勢が玄関を開けて出て行く。だが、階段を半ばほど下りたところで、神楽が血相を変えてパジャマのまま追いかけてきた。
「やっぱ、下で寝るアル」
「なんだい、急に」
一人取り残されて寂しくなったのか、それとも怖くなったのか。
子供のように腰にすがり付いてきた神楽の頭を、お登勢は苦笑しながら撫でてやった。
叩き起こされて不機嫌な平賀源外が「たまは来てねぇぞ」と吐き棄てた瞬間、銀時は頭の中が真っ白になった。だったら、こんな時間にどこに行ったのか。機械人形は眠らないとはいえ、人間が睡眠をとるように充電するための時間が要る。しかも、充電には専用の枕が必要だ。何か、事件か事故に巻き込まれたのでは……と思った瞬間には、スクーターのスロットルを全開にしていた。
「おい、なんかあったのか、オイ、あの嬢ちゃんが居ないのか?」
状況を飲み込めない源外が喚いていたが、銀時の耳には届かなかった。
それからどのぐらい経ったのか、ふと我に返ると、スクーターのままどこぞの武家屋敷に突っ込んでいた。己を取り囲む白刃と、それを構える黒尽くめ軍団を見て「ああ、真選組か」と他人事のように呟く。
「てめぇコラ、派手に表門ブチ抜きやがって。弁償しろよ。あと、何人か隊士轢いたのも、医療費請求すっからな。で、どうしたんだ」
「ああ、お義母さん」
「誰がお義母さんだ」
仕事を終えて休んでいたところを侵入者の報告で起こされたのだろう、半ばよれた黒の着流しにくわえ煙草で不機嫌そうに眉をしかめていたのは、副長の土方であった。
「お義母さんだったら話が早いや。うちの看板娘がいなくなったんだけど、お宅の地味息子に心当たりない? フラれたけど諦め切れずにストーキングしてるとか、逆恨みして誘拐したとか、そーいう感じの」
「地味息子ぉ? ザキんことか。お宅の女中とのアレ、破談になってチャラじゃねーのか」
そう言いながらも、そういえば昨日、山崎にお見合いの席で汚れた着物のクリーニング代を請求したことを思い出した。カネの恨みと可愛さ余って憎さなんとかで、元凶であるお姫様に何かやらかした可能性は……無いとも言えないか。懐から携帯電話を取り出して、アドレスを呼び出す。
「おい、ザキ。てめーのお舅さんが来てんだが、心当たりねーか? あるんだったらウチから犯罪者を出す前に切腹しろ」
山崎はこの騒ぎにも関わらず寝ていたのか、最初は『シュート? サッカーじゃないですよ、ミントンですミントン』などと、回らないろれつで意味不明の発言を繰り返していたが、土方が「じゃあ、あのお姫さんの失踪とは関係ねぇんだな?」と念を押されて眠気も吹っ飛んだのか『お姫さんって誰? たまさん? たまさんのことですか!?』と喚き始めた。
「おめぇは何も知らねぇんだな? だったら、いいんだ」
『よかぁありませんよ! 副長どこですか! 今、そっち行きます!』
まだガラクタ相手に熱を上げてんのか、このバカ犬……と、土方が露骨に眉をしかめ「めんどくせーことになるから、来なくていーぞ」通話を切ろうとしたが、横からヒョイと出て来た手が携帯電話を取り上げた。
「もしもーし。V字ヘアー君? 今、銀さん中庭。アイツの身に何かあったら、承知しねぇからな」
『アレ? 旦那? 万事屋の旦那ですか? 分かりました! 男山崎、責任とってたまさんを幸せにします!』
「ふざけんな、死ね」
毒づいて通話を切り、土方に携帯電話を投げて返す。
「副長さん。ホントにたまに何かあったらアレ、殺していい?」
「好きにしろ」
そんな凶悪な密約が結ばれているとは露知らず、山崎は器用にも上着のファスナーを引き上げながら駆け込んで来た。
山崎と銀時は、手分けをしながら一晩中、血眼で江戸中を走り回ったが、東の空が白みかけた頃になっても、結局何の手がかりも得られなかった。疲労と空腹で倒れそうになった銀時と山崎は、橋の下に屋台があるのを見つけると、店じまいを始めているのも構わずに「一杯くれ」と、ヤケクソ気味に喚いた。
「おやまぁ、万事屋の旦那じゃねぇですか。ちょうど良かった、コイツを奉行所に返してやっておくんなせえ」
暖簾も見ずに飛び込んだのだが、どうやら顔なじみのオヤジの店だったらしい。
オヤジが指さした先には、ダンディな黒眼鏡にモミアゲの中年男が酔いつぶれている。
「なにやら不始末をしでかしたとかで謹慎中の身だっていうのに、毎日毎晩、ここでグチグチとね。長い馴染みなもんで通報こそしねぇでやってるが、他の客が鬱陶しがるから迷惑この上なくて」
「ハードボイルドぉおおおお! アンタ乾いてるよ。アンタ、すっげぇハードボイルドだわ」
「よしておくれ。あたしゃ、ただの屋台のオヤジさね。ああ、酒手は要らないよ、コイツの面倒を見てもらう、手間賃みてぇなもんさ」
そういうと、屋台のオヤジはコップに酒をなみなみと注ぎ「つまみになりそうなモンはさっき片付けちまったよ。すきっ腹にはちとキツいかもしれんが、いい酒だから悪酔いはしねぇと思うぜ」と、銀時と山崎の前に出した。
「俺にもカミュを、カミュをくれ」
「アンタはさんざっぱら飲んだろ。それにこれはカミュじゃねぇ、焼酎だ」
モミアゲ男を叱りつけた後、オヤジがふと思い出したように「あんたら、人探しでもしてたのかい? そういや、最近、行方不明になる若ぇのが多いらしいぜ」と、言い出した。
「そうなのか? オヤジ、どこからそんな話を?」
「なぁに、コイツの弟分のハジって娘っこから聞いた話さ。コレと届けに行くついでに、本人から聞いてご覧よ」
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