おっぱいはアレ脂肪が詰まってるんじゃない人類の夢と希望が詰まってるんだ/1


「なんじゃこりゃ」

帰宅した銀時は部屋に積んである黒い棒の山を見て、眉をしかめた。

「ナニて、巨乳巻きヨ。太巻きを恵方に向かって丸かぶりすると、ナイスバディになるって聞いたヨ」

「おーい。新八。通訳してくれや」

「えーとですね」

「んだヨ、白髪ァ! ちゃんと説明してるのに通訳って失礼アル! 花野アナもこれで乳育てたってテレビで言ってたヨ!」

「俺は、花野アナよりも、結野アナ派だからなぁ」

面倒くさそうに呟きながら、ソファに腰を下ろして放り出してあったジャンプを広げる。なんだよコレ、先々週のじゃねぇかとボヤいてカレンダーに視線をやり、そういえば、今日は節分だったなぁと思い出した。

俺らがちっこい頃は、節分といえばもっとアクティブに豆まきなんぞしたもんだ。
そうそう、松陽先生んとこの寺子屋の悪ガキども皆して、鬼役の子目掛けて豆ぶつけて泣かせて……誰が鬼の役してたんだっけ。俺じゃない。確か……高杉だ。豆が目に当たったとか大騒ぎして、マジ泣きしてたっけな。アイツ、それで性格歪んだのかな。まさか。
一応、豆まきの後は掃除を……俺はサボってたが、真面目なヅラがほうきで掃き集めて……それでも数日後にはまだ残っていた豆が部屋の隅のあちこちから転がり出てきて。

後片付けが大変なせいか、今日びは一般家庭で豆なんぞ撒かないらしい。

そういえば『落花生だったら後で拾い集めても食べられる』と誰かが聞いてきて、実行したこともあるが……後に殻ごと踏み砕いて、足の裏を怪我して泣いてたヤツがいたっけ。あれも確か……高杉だった気もする。あれ? まぁ、記憶違いだろう。
代わりに、天人が持ち込んだ、無言で太巻きを丸ごと食うとかいう奇習が全国的に広まりつつあるらしい。多分、神楽はそれをどっかで聞き違えてきたのに違いない。

「おい、これ1本ぐれぇ、食ってもいいよな?」

「駄目アル。小遣いハタいてわざわざ銀河系外から出店して来たっていう名店『拝乙屋』で買ってきた本場の巨乳巻きアル。そこいらのシャバい巻き寿司と一緒にしないで欲しいアル」

神楽が机ごと巻き寿司を引き寄せて、銀時から遠ざける。

「なんだよ、そのパイオツ屋って……確かにご利益ありそうな名前だけどな」

「男の人は、アレが大きくなるらしいですよ。だから、江戸中のモテたい連中が店に詰め掛けて、物凄い行列だって……神楽ちゃんは姉上とふたりして、近藤さんに国家権力で交通規制かけて貰ったから、余裕で買えたらしいんですが」

「アレが? マジでか」

それまでハナシ半分で聞いていた銀時がむくりと起き上がった。
本人いわく『謙虚なサイズ』であるせいか、これをサイズアップしてくれると聞いては放っておけない。神楽が抱え込んで死守している巻き寿司を強引に1本奪い取り、高々と持ち上げた。神楽がそれを取り返そうと、銀時の傍でぴょんぴょんカエルのように飛び跳ねる。

「恵方ってどっちだ、新八」

「えーと、女性は北北東、男性はその反対みたいですね。だから、こっちかな?」

「よっしゃ」

銀時はその太巻きを構えると、一気に口に詰め込んだ。





ドクン。





心臓が跳ね上がるような異様な感触に、銀時は思わず膝から崩れ落ちる。

「銀ちゃん!?」

「大丈夫ですか、銀さんっ!!」

両手を床に付いて辛うじて身体を支えながら、腰の奥から込み上げてくる熱の感触に耐える。身体の芯が膨れ上がり、爆発しそうな……脂汗が吹き出して、顎を伝って床にぽたりぽたりと落ちた。

「銀ちゃん大丈夫カ!? 銀ちゃんに何かあったら、ワタシ拝乙屋許さないヨ。バラバラにしてストラップにしてやるアルよ、コンチクショー!」

「吐き出しますか? 洗面器、持って来ましょうか?」

だが、その発作は急に引いた。
身体を起こして汗を拭うと、先ほどまでの苦しさは消えていたその代わりに、下半身が妙に重たい……恐る恐る視線を下ろして「げぇええええええっ!」と悲鳴があがった。

「ぎっ……銀さ……ん?」

「銀ちゃん、ナニあるカ? ズボン破けてはみ出てる、座ぶとんみたいなでっかいドラ焼き、ナニあるカ?」

「ぱっ……ぱっつぁん……宇宙人ってさぁ、殺しても罪にならないよね!?」




顔面蒼白になっている銀時の下半身は、まるで信楽焼の狸のようになっていたのである。




「まっ、まさか銀さん、ソレ……金魂が…?」

「え? ナニあるカ? 男だけで分かってて、ワタシ分からないヨ。キンt……?」

「だめぇえええええええええっ! 神楽ちゃん、オンナノコがそんなこと口走っちゃだめぇえええええ!」

どうやら『大きくする』という効果だけは、効能通りにあったらしい。
ただ、天人らには適度な部位の適度なサイズアップに貢献するだけのものでも、体質の違う地球人には、思いもかけない過剰効果をもたらしてしまったようなのだ。

「そうだ、姉上! 姉上もあの巻き寿司を食べてしまっているかもしれないっ! そういえば貧乳に悩む九兵衛さんと食べるって……大変だ!」

「ちくしょう、パイオツ屋め。ギッタンギッタンにしてやんなきゃ気がすまねぇ! せっかくドライバーから元に戻ったってぇのに!」

しかし、このままでは歩くこともままならない。

「台車にでも乗せて、押して歩きますか?」

「その状態で、どうやってアクションシーンしろっていうんだ。『銀魂』はギャグとアクションが売りだろぉ!? 人情と恋バナは展開に詰まったときに適当にちりばめておいたら、読者が勝手に妄想膨らませて補完してくれるだろぉ!? 銀さんカッコよく闘ってナンボだっていうのによぉ!」

銀時が半泣きになりそうな状態で喚いた時に、天井からカッチンカッチンと音が鳴り響いた。





「まぁ、銀さん素敵ね。それだけの子種を貯えてくれているなんて。それでアタシの全身を雄ミルクまみれにしようっていうのね。いいわ、乗ってあげるわ。ソレが重くて腰が振れないというのなら、アタシが乗って動いてあげるから!」

「やめてくんない? 一応、神楽ちゃんも居るんだから、そういう過激発言やめてくんない?」

見上げると、猿飛あやめが忍者服姿でぶらさがっていた。
だが、いつもの姿とはどこかちがう。どこか違和感がある。それは、胸元から伸びる白い尾のような、蛇のような物体であり、その先端にぶら下がった桜色の球が揺れて、アメリカンクラッカーのようにぶつかりあって音を立てていたのだ。

「おい、ドMストーカー、そいつは……」

「ああん、見ないで、こんな醜い姿のアタシを見ないで、いやむしろ見て? 隅々まで見て、見下してぇ! 銀さんの視線で胸を舐め回されるなんて、アタシったら、アタシ……こっ、興奮するじゃないのぉおおおおお!」

だが、万事屋一行は、発情している猿飛をサラリと無視して顔を見合わせる。

「まずいぞ。おまえのネーチャンもアメリカンクラッカーになってるぞ」

「でも、花野アナはフツーに巨乳に……?」

「伸びた乳を、丸めて乳当てに収納してただけかもしれないアル」

「そうか、そうすれば……って、そうじゃない! 姉上と九兵衛さんがブラジャーでとぐろを巻いてるなんて……なんとかしなくちゃ!」

「よし、とりあえずその拝乙屋に殴り込みかけっぞ! 神楽! ぱっつぁん!」


「アイアイサーアル!」

「お登勢さんに、台車借りてきますね!」





5分後。万事屋の3人は騒がしく駆け出していき、万事屋の事務所にはカッチンカッチンという音だけが響いていた。その音に眠気を誘われたのか、ペットの巨大な白犬、定春が大きなあくびをした。





地球人というものは、食よりも性に重点を置く生物らしい。

商品に「モテる」とか、セクシーな身体になるという売り文句を添えるだけで、これだけ売り上げが伸びたのだから、いかに彼等が繁殖することに熱心で、そのパートナー探しに必死になっているのかが、分かろうというものだ。
そのこと自体は、拝乙星人らにとっては、さほど珍しいことでもなかった。殺戮と戦闘本能が何よりも勝っている夜兎族のような奴らもいれば、仮想現実の世界に遊ぶことを生き甲斐としているゲーマ−星人だって居る。宇宙は広いのだ。

「しかし、我々の信じる『食』こそが真理だという自信はある。排泄器官を重ね合わせるような不衛生な行為で愛を語るよりも、食することで相手と細胞レベルで一体化し、全世界が体内を通り抜けていくこの感覚こそ、真実の『愛』だ」

「その本能のおかげで、愛する対象を食らい付くし、餌を求めてこの最果ての田舎星にまで流れ着いた、ということかね」

目深に菅笠をかぶって顔を隠している長身の男が、ボソリと呟いた。

「あなたにはあなたの信じる『真実』があるでしょうから、我々の思想を押し付けはしませんし、理解してもらおうとも思いませんよ。少なくとも、我々はあなたを食べない。食べるよりも有効な利用価値があるのですからね。出店許可ありがとうございました、黒夜叉様」

ゆるりと頭を下げた相手は、男とも女ともつかないなだらかな肩の上に、卵型の端麗な顔を乗せていた。頭髪は他の種族よりも細いらしく、半ば透けながら、グラスファイバーのようにキラキラと光を放っている。
菅笠の男は、呼び掛けられた名を気に入ってはいないのか、チッと軽く舌打ちをした。

「しかし、あの商品は出来損ないじゃないのかね? 身体の変化に怒った連中が押し掛けて来ても、儂は責任をとらんからな」

「とってもらう必要はありません。あれこそ完成品ですよ」

その人物は、唇の薄い口元にしなやかな手指を当てると、コココ、と喉を鳴らして笑ってみせた。






「姉上ぇえええええええ! おっぱいは無事ですかぁああああああ!?」

取るものもとりあえず我が家に駆け戻った新八は、なりふり構わず喚いた。

「なぁに? 新ちゃん。そんな大声ではしたない」

ちょうど『丸かぶり』の最中だったらしく、新八の姉・お妙は片手にかじりかけの太巻きを握っていた。その背後から、同じく太巻きをくわえたお妙の幼馴染み・柳生九兵衛がひょっこりと顔を出している。

「姉上、その太巻きは危険です。胸がアメリカンクラッカーになってとぐろを巻くハメになりますよ!?」

「何を言ってるの、新ちゃん。これを食べるとバストアップするって、テレビでも言ってたのに」

「まだ無事なんですね。その太巻きは捨てましょうね。代わりに普通の巻き寿司、買ってあげますから」

「普通の巻き寿司じゃ、バストアップしないわ! そのためにわざわざ買ったのに」

「実際に食べて、銀さんが大変なことになってしまったんですよ。さっちゃんさんも、胸がアメリカンクラッカーになって」



新八が必死で状況を説明し、ふたりは顔を見合わせた。



「そんな危険な食べ物なら、仕方ないわね。卵焼きとバーゲンダッシュでも食べて、口直ししましょ?」

「お妙ちゃんがそう言うのなら、僕もそうする」

ふたりが部屋に戻ったのを見送り、新八はハァとため息をついてしゃがみ込んだ。とりあえず、これで姉は無事か……だが、いつまで待っても障子の向こうがやけに静かなのが、気になった。

「姉上? 僕ら、これから銀さんの身体を元に戻しに、拝乙屋に行くつもりですけど……姉上、ご無事ですか?」

そっと障子を開けて室内の様子を伺うと、そこにはお妙と九兵衛の着物が脱ぎ捨てられたというには不自然な状態で畳の上に放り出されており、その襟元にチョコンと黒ずんだパンのようなものが乗っていた。

「ま、まさか、姉上が……!?」

「どうやらそのまさか、らしいぞ、新八君。俺も見ていたのだが、卵焼きを食べた途端に、お妙さんの身体が縮んでしまってな。思うに、この太巻きとダークマターが体内で融合して、何やら未知の化学反応を起こしたらしい」

「そうなんですか、近藤さ……って、居たんかいいいいいいいっ!」

「若のお姿も同様です。しかしこの東城、若がパンになろうと、心底お慕い申し上げまするぅ!」

「お前もかぁあああああああ! このストーカーがぁあああああ!」

「俺だって、お妙さんがパンになろうと、いや、ウンコになっても愛し続けるもんね!」

「私の方が愛している。ウンコになっても愛するどころか、それを食べることだってできる!」

「だったら、俺だって食えるもんねっ! なんなら今ここで食べてやろうか!?」

なぜかストーカーっぷりを競い合って、今にもそのパンを食べてしまいそうなふたりを制し、新八は慌ててそのパンを拾い上げて自分の懐に突っ込むと、屋敷を飛び出した。





「新八ぃ、どうだった? ネーチャンの乳は無事だったか? アメリカンクラッカーになってなかったか?」

銀時は子連れ狼よろしく台車を押し歩いているせいか、敷地には入ったものの、屋敷にまでは上がり込まなかったのだ。だが、新八の表情を見て『どうやら無事ではなかったらしい』と察することができた。

「遅かったのか?」

「遅くはなかったんですが……止められませんでした。姉上と九兵衛さんは、ここです」

新八が、己の胸をそっと押さえる。まるで少女が膨らみかけた己の乳房に触れるような仕草であったが、さすがの銀時や神楽も、それについて無神経なツッコみを入れるのはためらわれた。
そのパンは妙に生温かくて、かすかにモコモコと動いているのが、着物越しにも感じられる。

「姉御……仇は取るアルヨ」

「いくぜ、ぱっつぁんよ」

涙を堪えて、新八がこっくりと頷いた。






お妙がパンのような物体に変化してしまったので、拝乙屋への道案内は神楽がすることになった。
確かこっちだったと思うアル、あ、違ったアルと町中振り回されるハメになり、殴り込みをかけるゾというモチベーションがダダ落ちに落ちた頃、三人は路上に見覚えのある人物の姿を見かけた。

黒地に銀モールの縁取りの制服と、腰にたばさんだ大小の刀が幕府関係者であることを示している、すらりとした長身の男。涼し気な切れ長の目尻にすっきり整った唇から顎へのラインは確かに、真選組副長・土方十四郎であった。だが、それと認めることに違和感を感じたのは、彼の胸元のせいだろう。

腕組みをしてさりげなく隠してはいるが、そこには男性にはあり得ない筈の豊かな膨らみがあった。

「うわ、まさかフクチョーさん、あの変な巻き寿司食ったの?」

「変な巻き寿司?」

「巨乳になるってぇヤツ」

そう言いながら、銀時はフラフラと誘い込まれるようにその膨らみに手を突っ込む。その途端に、ガリッと激しい痛みが走った。

「いでぇえええええっっ!」

喚きながら胸の谷間から引き抜いた手には、ソーセージのようなものがぶら下がっていた。それがただのソーセージではない証拠には、先端が裂けて細かい尖った歯が密生しており、銀時の指に噛みついている。

「んなっ、なにこれっ! 気持ち悪ぅう!」

とっさに地面に叩き付けて振りほどこうとしたが、土方がその手首を掴み阻んだ。

「ザキ、離してやれ」

土方そう話しかけて、びちびちと暴れているソーセージを握ると、ウソのようにポロリと剥がれ落ちる。

「ザキ? なにそれ、ジミー?」

「どうやら、そうみてぇだな……おめぇら、何かあの寿司について知ってるのか?」

「まぁ、多少。その前に、そっちの状況について説明してくれや」

「そうだな。説明というほど込み入ったことじゃねぇが」

その生きたソーセージを再び胸の谷間に収納してやりながら、土方が語り始めた。





それはほんの二、三十分ほど前のこと。
山崎と一緒に市中見回りに出てうろつき回っていると、山崎が「ね、お弁当食べましょう、お弁当」と言い出したのだ。

「ピクニックじゃねぇんだぞ、ボケが」

「だって、せっかくのデートじゃないですか」

「何がデートだ。仕事だろうが。どこで弁当なんざ広げる気だ」

「そういうと思って、巻き寿司、包んできました。これなら歩きながらでも食べれるでしょ? これね、今、江戸でとっても評判の巻き寿司なんだって。これをね、南南西に向かって食べるといいんだって、沖田隊長から聞きました」

「アホか。南南西なら後ろ向きだろ」

「副長、一緒に食べましょうよぅ」

「勝手にしろ」

竹の皮に包んだ太巻きを受け取る。気配からして、山崎は本当に立ち止まって後ろを向いたらしい。それを放っておきながら、土方は無言でその太巻きにかじり付いた。途中で「副長、おいて行かないでくださいよぉ」と山崎が声をかけてきたが、すぐに追い付いてくるだろうと、食べ終わるまで振り向かなかった。
異変は、食べ終わってからだった。
突然、胸の辺りが熱くなり、立っていられないほどの目眩が襲って来たのだ。辛うじて電信柱にもたれて堪えていると、唐突に脂汗が引いた。

「ザキ、大丈夫か?」

振り向くと、山崎が居た辺りには、黒い布がわだかまっているだけであった。
慌てて駆け寄ると、それはファスナーもボタンも留めたままの状態で、まるで中身が蒸発したかのような不自然な形に脱ぎ捨てられている隊服であり、その衿元には15センチほどの長さの、ソーセージのような物体が転がっていた。

「……山崎?」

拾い上げると、妙に生温かい。

「確かに、お侍さんでしたよ。たまたまあっしが見てたら、お侍さんが振り向いた途端に、急に身体が縮んでしまいやして、へぇ」

たまたま目撃していたという団子屋の主人が、恐縮したように声をかけてきた。

「そうか。どうしたもんかな」

紙袋でも借りようかとも考えたが、隊服だけでなく、下着や靴、腰の大小に背負っていたミントンラケットまであっては、持ち帰るのも面倒だ。

「オヤジ、コイツの服一式、ちぃと預かっておいてくれねぇか。後で隊士に取りに来させる。少ねぇが、これは手間賃だ」

千円札を握らせて、荷物を預けることにした。念のために山崎の財布と警察手帳だけは、自分の上着のポケットにしまい込む。ついでに、この『本体』と思しき物体をどうしたものか……迷った挙げ句、懐にでも入れておいてやろうとして初めて、土方は自分の身体の変化に気付いたのであった。
よく似た症状には聞き覚えがあったので、土方はとっさに己の股間に手をやったが、そちらは変化していなかったらしくお馴染みの感触が返って来た。

だったら……どういうことだ?

一瞬パニックに陥りかけたが、そこで「沖田隊長から聞きました」という山崎の言葉を思い出した。多分沖田がまた、くだらん呪いか何かかけたんだろうと決めつけると、肝が据わった。とりあえず仕事は放り出せないから、市中見回りだけは済ませよう。屯所に戻ってから、総悟をシメあげれば済むハナシだ。

「それまでは、テメェもその格好で不便だろうが、仕事は仕事だ」

そういうと、土方は衿を緩めて、胸元にその『本体』を突っ込んでやった、という次第。


某SNS内先行公開:2009年02月03日
大幅加筆&サイト収録:同年10月11日
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