当作品は「たまクエスト編」のアナザーストーリーですが、
同シリーズを扱った当サイト作品「ぱんどーらのねじ」との
設定及び物語上の関連性はありません。予めご了承ください。

納豆プリンだって食べられるんだからケーキラーメンだって実際にやってみたら美味いかもしれない人生やってみなければ分からない/上


『モシャス銀ちゃんの身体を治しに行くから、銀ちゃんも行くアルヨ』と神楽に無理矢理引きずられて、この世界にやってきました坂田銀時です、皆さんこんにちわ。俺ら万事屋三人組とドット絵たまは、白血球王の体内に巣食った獏の縮小コピーと闘って、見事に倒しました、ついさっき。


「いやあの、銀さん。誰に向かって独り言してるんですか、アンタ」

「だって、こういう唐突な展開には、ほら。必要でしょ、シチュを説明するナレーションとか」

「訳がわかりません」

訳がワカラナイのはこっちだと言いたい。
機械人形の体内に放り込まれてRPGごっこをしたと思えば、さらにその登場人物の体内で同じような冒険の旅をさせられて。

「これで、アイツは元に戻るんだよな?」

度重なる闘いで折れてしまったつまようじの剣を獏の屍骸の傍らへ放り捨てながら、溜め息まじりに芙蓉に尋ねる。だが、芙蓉はドット絵の首を、ドット絵なりに精一杯に傾げてみせながら『その筈ですが……おかしいですね』と呟いた。

『本来ならそろそろ、修復作業開始のお知らせが流れるのですが』

だが、まるで下水道のように鉄パイプがはり巡らされているその空間に、そのアナウンスが流れる気配は無かった。いくら耳をすませても、白血球王の体内に大量に住んでいる筈の白タイツ……セキュリティシステムの気配も、獏の手下である黒タイツの気配すらも感じられない。

「お知らせが流れて……どうすんの? 誰もいないからって、まさか、その復旧工事まで俺らにしろってんじゃないだろうな。冗談よしてくれよ、そろろそ帰してくれよ。せめて夕方のニュースには間に合わせてくれよ。俺ァ、結野アナの明日のお天気コーナー見なくちゃいけねーんだよ。ビデオセットして来てねーんだから」

『工事ではなく、子作りです。私の身体も、白血球たちが子作りをすることで、自己分裂と再生を促し、体内システムの秩序を取り戻すことで、ドット絵から本来のボディに戻ろうとしています。ですから、白血球王も同じステップを踏むことで、回復する計算だったのですが』

芙蓉がそこでしばらく黙り込み、トコトコとパイプや配線がドーム状に盛り上がっている部分に近寄った。
そこがメインシステムであるらしいことは、その形状からなんとなく想像がついた。そのドームの壁面に、ドット絵状の掌を押し付ける。一瞬、芙蓉の手指に絡むように小さな火花が走ったものの、すぐにまた沈黙してしまった。

『へんじがない。ただのしかばねのようだ』

「あの、たまさん。まさかとは思いますけど、さっきみたいな、美味しいケーキと美味しいラーメンを混ぜてケーキラーメンを作るなんて、頭の悪い計算してないでしょうね?」

新八がボソッと、そうツッコんだのに割り込むようにして、銀時が「ちょっ、子作りって……そーいえばさっきもオマエの体内でそーいう放送流れてたけどさ……え、具体的にどうすんの!? あいつらに雌雄あんの? 白タイツも黒タイツも、野郎しか見当たらなかったけどさ……あ、武闘家デスピガロは一応オンナか、ババァだけど。つーか、オンナノコって、ここにはメンス来てるかどうかも怪しい神楽と、からくり人形のオマエしかいねーよ? あのタイツ軍団って自己増殖とかすんの??」などと、機関銃のようにまくしたてた。
取り乱している銀時をキョトンと眺めていた神楽が、不思議そうに「新八、麺酢って何アルカ? ヌードルの仲間カ?」と尋ねた。新八も二の句が告げなくなる。

「ケーキラーメンでも何麺でもいいから、食べたいアル。そろそろお腹すいたアルよ」

神楽が不平を言うのも道理、そう言われてみれば、そもそも芙蓉の姿がおかしいから何とかしてくれとお登勢に頼まれた際に朝食を食べたきりだ。それもただじっとしていたのではなく、全力で闘い続けていたのだから。

『そうですね、神楽様のお手を煩わせる必要はありません。白血球王は元々、銀時様を観察しその情報を収集して私が再構築して作り上げた存在。つまり、必要なのは銀時様の情報なのです……ですから、神楽様と新八様は、先に元の世界にお戻りください』

「そうします。あの、銀さん、頑張ってください。行こう、神楽ちゃん」

「んじゃ、銀ちゃんバイバイネ。晩ご飯……北斗心軒のラーメンが食べたいアル」

新八と神楽は、手をひらりと振ってみせるや、薄情にもさっさと来た道を戻っていく。

「え? 俺は? てゆーか俺の情報ってどーすんの、何すんの、俺、夕方のニュース見たいって言ってんじゃん、俺もめっさ帰りたいんですけど」

銀時がそう尋ねるが、芙蓉はお構いなしにドーム壁面を撫でまわしていた。やがて、小さな扉のようなものを見つけてそれを開くと、コンセントの差し込み口があった。

「あのう、そういえば、獏のヤローもコンセントをおたくに差し込んで、おたくのシステムを支配してたようですけど、まさか」

「白血球王のシステムがダウンしているようなので、代わりに私を媒体にします」

帯に手を差し込み、腹からケーブルを引っぱりだした芙蓉は、それを差し込み口に突っ込んだ。数秒の沈黙の後、その奥が微かに光り始めた。エネルギー体に似たものが芙蓉の身体に流れ込むや、芙蓉の身体が輝きながら、ドット絵状態から徐々に人間型の滑らかなラインを取り戻していく。

「え。おまえを媒体って……この世界のアダムとイブになるってこと? それだったら悪くねぇっていうか、その、うん、まぁ、新八と神楽を帰して正解だったかもな。そういうことなら、この不肖坂田銀時、協力してやれると思うよ、ほら、銀さんのアレもしばらく使ってなかったしさ、いや、使ってないっていっても自家発電は男としてそりゃ、生理現象だから無かった訳じゃないけどさ、やっぱさ、セルフサービスとフルサービスは違うってーの? カネがなくてフ−ゾク行けねぇとか、それだけの理由じゃなくて、糖尿の影響もそりゃ多少はあるけどさ、俺だって一応その、さ」

照れたように、しきりに天然パーマの頭をもじゃもじゃと掻き回していた銀時だが、その光が徐々に収まっていくにつれ、口がぽかんと開いた。いや、顎がガクッと外れた、という表現の方が正しい。

「え? あの、その……た、た……ま、さん?」

「それを聞いて安心しました。では、心置きなく子作りをいたしましょう」

そこに立っていたのは『たま』と呼ばれている、ほっそりした美少女・芙蓉零號ではなく、銀時自身と瓜二つの剣士・白血球王だったのだ。






「前回までのあらすじ。白血球王のシステムを回復させるために、子作りをするハメになった坂田銀時です、皆さん如何お過ごしですか、銀さんは、予想斜め四十五度上をいく腐女子的展開にリタイア寸前、先ほどまで張り切っていた愚息もションボリです」

「貴様、何をブツブツ言ってるんだ?」

両手を大地について四つ這いになり、がっくりうなだれている銀時の隣に、白血球王が膝をついた。銀時は「いや、一応、ナレーション、みたいな?」と弱々しく答えるが、白血球王が肩に触れようとしたのを察し、思わず回転レシーブばりに身体を派手に反転させて、避けた。
勢い余って、頭を反対側の壁にぶつけてしまい、うめき声をあげてうずくまる。

「なんだというのだ、貴様?」

「いや、その……たまの姿なら大歓迎なんだけど、なんでオマエ? ホントにオマエはたまじゃなくて、白血球王になっちゃったわけ?」

「“白血球王”のシステムを再構築するのだから、この姿で当然だろう。たま様は、システムダウンしていた“白血球王”から、人格などの基本プログラムを吸い出して、このコピー体に移し替えてくださったのだ」

コピー体、という言葉で思いだす。
先ほどまで一緒に居たドット絵姿の『芙蓉』は、芙蓉本体のシステムの一部を写したコピーであり、芙蓉そのものではない。だから、その上に白血球王のデータを上書きしても、芙蓉本人が消えるわけではない。理屈としてはその通りだが、感情的には釈然としなかった。
ましてや、清楚系美少女と『子作り』する気満々であったところに、身の丈六尺の筋骨逞しい天然パーマ野郎と入れ替わって、コイツとがっぷり四つに組めと言われて、どうして『ハイそうですか』と言えよう。いくらその天パが己自身に生き写しであったとしても、いや、そうだからこそ余計に、全力全身全霊で『お断りします』と答えるのが、自然な男性心理ではないか。

「人格を吸い出してって……その、コンセントから?」

「そうだが? 携帯電話のデータだって、充電口から吸い出すだろう」

「いや、そういえばそうだけどね、USBケーブルみたいなモンだと思えば可能なのか? いや、でも、だからってさ」

「ごちゃごちゃ言うな。さっさと服を脱げ」

「脱げって……やっぱりアレですか、アレするのですか『お』で始まって『こ』で終わるアレですか、男同士で?」

「おしるこ?」

「そうそう、小豆の……じゃねーって! そこボケるところじゃねーから! つーかその、アレだって一応、野郎同士でやろうと思ってできないわけじゃないけどね『やろう』だけに……って、誰がそんなウマイいことを言えって言ったよ、コンチクショー!」

往生際悪く手足をバタつかせていた銀時にほとほと手を焼いたか、白血球王はやおらその胴にまたがったかと思うと、上着をめくって己の腹に手を突っ込んだ。銀時がギョッとして見守る中、腹を包んでいる人工皮膚を突き破りながら、その内側からズルズルとケ−ブル状のものを引っ張り出す。

「えっ? あの、えーと、白血球王さん?」

「これは予備ケーブルだから、活動に支障ない」

そういう意味じゃなくて、それを一体どうなさる気で……と、尋ねるまでもなく、白血球王はそのケーブルを使って、器用に銀時の両手首をまとめて括り上げてしまった。

「えっ、その、あの冗談でしょ、てゆーか、この状況でその気になれねーよ、俺! 襲われて燃えるとか、そーいう安っぽい企画モノAVみたいな趣味ないから、そういうあのドMストーカーくの一みたいな性癖ないから、無理ぃいいい!」

「案ずるな。こういう時には何を使えばいいのか、たま様は貴様との付き合いで、よくご存知だ」

白血球王は、銀時の腰にまたがった姿勢のまま、さらに片手を腹に突っ込んだ。その奥からカラフルなシリコン製の棒だの、ラテックス製の邪悪なチクワだのが引きずり出される。銀時は、これから行われるであろうことを予想して、血の気がひいて視界が真っ白くなっていくのを感じていた。

「ちょっ、オモチャ使うとか、それなんてエロゲェえええ!」

「イヤなのか?」

そう尋ねながら、ぬめりけを感じさせる滑らかなシリコンの棒を下腹部に擦り付けさせる。その冷たさにびくりと一瞬、身体が爆ぜた銀時であったが、それを押し隠すように「イヤに決まってるだろ!」と喚く。

「コレよりも生身がいいのか、貴様」

「いや、そういう論点でもないっ!」

「ワガママだな」

面倒臭そうに呟くと、カチリとスイッチを入れた。肌を這い回る微振動に刺激されて、萎えていたものに徐々に血が集まっていく。器官が反応してしまったのはただの生理現象といえども、銀時の呼吸が上ずっていくのは否定できない。思わず腰が浮いたところで、脚を抱え込まれた。

「やっ……だから、ヤメッ……!」

入り口に押し当てられたものは、先ほどのとは違い、むしろ熱いぐらいだった。めり込んでくる痛みから必死で逃げようとするが、楔を打ち込むように小刻みな動きで重なっていく。

「あ、あっ……あ」

徐々に痛みの中に快楽に似たものが混じり始め、吐息が熱を帯びていく。銀時は、その倒錯に流されまいと必死で足をばたつかせて暴れ、手首を縛めているケーブルがギシギシと鳴った。





「テメェと同じツラしたオッサンにすっかり汚されちゃった坂田銀時です、腐女子の皆さん、御機嫌よう……」

「ん?」

「いや、お気になさらず……ただのナレーションだから」

「ナレーション?」

白血球王は肩で息をしながら不思議そうに銀時を見下ろしていたが、やがて思いだしたように銀時の手首を縛っていたケーブルを解いてやった。さっそく銀時は起き上がって逃げ出そうとするが、どうやら腰が抜けているらしく、上体を起こすのもやっとの状態だった。

「で? これでオマエのシステムとやらは、元に戻る訳?」

切れて血がにじんでいる唇をの端を拳で拭いながら、銀時が皮肉っぽく尋ねる。必死の抵抗の跡は手首の擦り傷だけでなく、全身に残っていた。いや、銀時の身体だけでなく、それは白血球王の身体にも、噛み傷や蹴り上げられた痣の形で刻まれている。

「一応、その筈なんだがな」

白血球王は、べったりと手指を濡らしている、どちらのものともつかない体液を舐めた。舌をひらめかせるその仕草はどこか爬虫類めいている。そういえばいつの間にか、洞窟をうっすら照らしていた灯りは消えており、その暗闇にふたりの息づかいと、白血球王がピチャリと舌を鳴らす音ばかりが、反響を伴って響く。

「ちょっと、ちょっと。その筈って何。てゆーかこれ、さっきよか状況、悪くなってね?」

「たま様の計算によれば、データの採取に問題は無かった筈だ」

「また、ケーキラーメン的な計算だったんじゃねーの? あいつ、最先端のからくり技術だとかなんとか言いながら、実際んとこは、かなーりヌケてっからな」

いくら可愛くて従順な女の子であろうと、そんな計算ミスでこんな目にあわされたんじゃ、頭の一発も引っ叩いてやらないと割にあわねぇ……と銀時はひとりごちる。
腹具合から察するに(度重なるハードな『運動』によるカロリー消費量を差し引いたとしても)夕方のニュースはとっくに終わっている頃合に違いない。いや、下手をしたら一夜明かして『今日の星座占い』に間に合わない可能性だってある。なんてこった、丸一日結野アナの姿を拝めないなんて、酷いハナシだ。損害賠償ものだ。

「たま様に間違いがあるわけなかろう。少なくとも、ここはたま様が築かれた世界だ。実際、徐々に増殖は始まっているようだ」

増殖? と、銀時が首を傾げていると、不意に背後に何者かの気配が生じたのを感じた。身体をひねって逃げようとするが、一瞬早く肩を掴まれた。

「だが、この増殖スピードでは、世界の再構築どころか、崩壊を食い止めるのにも足りそうにない」

背後の人物の声に、銀時の顔がザァッと青冷めた。その声は、正面にいる筈の白血球王とそっくり、いやむしろ同一というべきであった。その気配は暗闇の奥からひとつ、またひとつと増えていく。

「増殖を加速させるために、今度は全員で子作りをしてみたらどうだろう、兄弟」

「それはいい考えだ、兄弟」

「では、さっそく皆を集めよう」

「だぁああああっ! 待って、ちょっと待って、それって俺が、増えたオマエラ兄弟とやら全員を相手するってこと!? 冗談じゃねぇよ、勝手に決めんなよ、俺の人権どーなってんの?」

必死で喚いて抵抗するが、わらわらと増えてくる気配と、何本となく暗闇から伸びてくる手指に絡み取られて、身動きすらままならない。

「方法は間違っていなかったのだから、心配は要らない。一度弾みがつきさえすれば、あとは幾何級数的に倍増する」

「キカキュー…何? それなんて電気ネズミ?」

「分かりやすい言葉に置き換えるなら、ねずみ算とでも言うべきかな」

「ああ、なるほど、それなら分かる……って、そんなんで納得してたまるか! 無理だから、それ到底無理だから、機械のオマエらと違って、銀さんかよわい生身だから、身体持たないから、しまいに赤玉も出ないから、あんまり無理したら腎不全で死んじゃうからね、銀さん!」

いや、その前に空腹と脱水症状で倒れてしまいそうだ。次第に、抵抗する手足に力が入らなくなってくる。
その身体に、自分とそっくり同じ姿の……芙蓉が姿を写し取ったオリジナルの白血球王か、それとも増えたコピーの白血球王かの判別すらつかないが、ともあれそのうちの一人が唇を吸いに来た。顔を背けて逃げようとしたが、その頭部も何本もの手で押さえ付けられている。ふにゃりと柔らかい唇の感触に肌が粟立ったが、強引に喉へとオイルくさい唾液を流し込まれる頃には、水分を求めて銀時の方から舌を絡めていた。

「そう、おとなしくしていたら、痛い目にも合わさないから」

小声で囁いて、髪を撫でてくる。だが、朦朧としている銀時には、その言葉も遠くのものに感じていた。





視覚がまったくきかない空間で、ざわざわと何本もの手が肌を這い回る。いや、じっとり濡れた感触も混ざっているから、舌や性器を押し付けている輩もいるかもしれない。陰茎を包んで扱き上げているのは、口なのだろうか。だが、銀時自身はもう何度も絶頂に達しており、もう一滴も出そうにない。さらに菊門は休む間もなく、次から次へと押し込まれ突き上げられている。

「も、勘弁して、無理、裂ける」

涙声で訴えるのも虚しく、もう何度めになるか分からない熱い迸りを腹の奥で感じ、それに呼応するように足の爪先にまで力がこもるほどに激しく、全身が痙攣する。射精を伴わない、雄を受け入れる器としての肉壷の喜び。だが、その屈辱的な絶頂の最中ですら、追い討ちをかけるように敏感な胸元に吸い付き、耳たぶや足指をねぶる者がいる。

「んあ……う……休ませて、マジで、もう限界」

今まで銀時を満たしていたものがずるりと抜け落ち、奥で放たれたものがビュクビュクと派手な水音を立てながら溢れ出た。ひしゃげたカエルのように股をだらしなく開げたまま、その余韻に茫然としている間もあらばこそ、激しいピストン運動に充血しめくれ上がった入り口をさらに押し広げるように、手指のようなものが数本、入り込んで来た。

「ちょ、これ以上は真剣にやめて、肛門括約筋キレちゃうから。あんまユルくなったら、銀さんダメだから、ウンコ漏れるから」

内一本が奥へと滑り込み、絶妙な一点を巧みにくじりながら快楽を掘り起こしてきたが、その感覚に身を委ねるよりもこれ以上好き勝手に身体を弄ばれることに対する恐怖が上回った。銀時は悲鳴にも似た声を上げて、下腹部に群がる相手を押し退けようとする。
だが、その手がずぶりと軟らかい肉にめり込んだ。

「えっ?」

暗闇の中とはいえ、敵方は自分と同じ姿をした男で、少なくともこんな妙な手応えではない筈で。
我に返って己に触れている『白血球王』に触れてその形を知ろうとしてみたが、その手指が探り当てたのはことごとく形の無い肉塊であり、しかも形をなぞり上げているまさにその部分が、じくじくと崩れてはミミズが這い出すように何かが伸びて来て、指に絡み付いてくる。髪の毛と思われるものを掴むと、ごそりと抜け落ちた。
かつては自分そのものであったという記憶と、今まさに知覚している形状とが結びつかず、銀時が悲鳴をあげようと口を開く。その喉の奥にまで、いや、口に限らず、鼻や耳や鈴口まで……ありとあらゆる穴目掛けて、生ぬるい肉の塊が雪崩れ込んで来た。






「遅いですね、銀さん。大丈夫かなぁ?」

「なんだい、銀さん、どっかに行ってるのかい?」

ラーメン屋『北斗心軒』を一人で切り盛りしている女将・幾松が、新八の独り言を聞き咎めてそう尋ねた。

「うん、まぁ、どこかっていうか、ここ、なんだろうけど」

新八がちらりと芙蓉に視線を流す。芙蓉はすっかりいつもの姿を取り戻しており、カウンター席に行儀よく座っていた。

「たま、お代わりヨロシ?」

「ええ、お金は十分ありますので、遠慮なくどうぞ」

「マジでか! じゃあ、大盛チャーシュー、ねぎだくで!」

幾松は「あいよ」と威勢よく答えると、熱湯が沸き立つ大鍋につけてあるテボ(柄付きの振りザル)に、生麺の玉を放り込む。

「そっちのお大尽は、何も召し上がらないんで?」

「はい、私のことはお気になさらず。先ほど、オイルを頂きましたので」

「オイル?」

「はい。私の活動に必要な燃料です」

「はぁ」

芙蓉が機械人形であると知らない幾松は、燃料とはアルコールのことだろうかと勝手に解釈して、自分を納得させた。目の前の小柄な少女が酒豪には到底見えないが、なに、人は見かけによらないという言葉もある。

「良かったら、酒とかどうだい? これだけ儲けさせてもらって水も要らないってんじゃ、こっちも居心地が悪いよ。酒代はいいからさ」

「アルコールですか。そうですね、純度が高ければ代替燃料として使えます」

「へぇ? 純度って、キツい酒の方がいいってこと? カワイイ顔して相当のうわばみなんだ?」

幾松は呆れたように呟きながら、酒を満たしたコップを芙蓉の前に置く。
その頃には麺も茹であがったため、幾松はそれ以上芙蓉に絡むことなく、大鍋へ向き直った。テボを引き上げ豪快に揺すぶってジャッジャッと水気を切り手早く丼に移して、その上にタッパーに用意されているメンマやチャーシューを載せ、仕上げにスープを注ぐと、神楽の前に置いてやった。

「はい、お待たせ」

「うぉい! 美味しそうアル! イタダキマース!」

神楽がさっそくパクつくのを横目に、新八は自分の丼の麺を箸で掻き回しながら「銀さんも、お腹空いてるだろうなぁ」と呟いた。一人芙蓉の体内に残された銀時のことを思うと、新八はどうにも食が進まないのだ。どうせすぐに戻ってくるだろうと置いて来たのだが、こんなに遅くなるとは思わなかった。

「そうですね。私も小一時間もかからないだろうと、計算していたのですが」

「計算って……またケーキラーメンですか」

「銀時様は、数学的な計算では計り切れない、不確定要素が多過ぎるのです。それも、一般の人間よりも遥かに。その不確定要素があるが故に、時には計算以上の攻撃力・防御力を発揮し、最強のセキュリティシステムのモデルに相応しい訳ですが」

芙蓉はコップの液体を恐る恐る、唇に運んだ。舌の上で転がして問題ないと判断すると、一気に喉を通す。

「それにしても、おかしいですよ。その、迎えに行った方がよくないですかね?」

「そうですね。白血球王のボディもまだ復旧しきっていないようですし……お食事が済んで落ち着いたら、複製を作ってお迎えにあがらせます。新八様はご心配なく」

「心配なくって言っても、なぁ」

新八は、すっかり伸びてしまった麺を箸で摘まみ上げて、啜り込んだ。





新八と神楽を万事屋に送り届けると、芙蓉は平賀源外の工房に戻った。源外はこれから晩飯の予定なのか、ごつい機械人形の装甲を椅子代わりにしながら、鉢の納豆を箸で練っていた。

「銀の字はまだ戻らんのか」

「はい。ですから、お迎えにあがろうかと」

「なるほどな。俺が手伝えることはあるか?」

「では、ご相伴させていただけますか?」

「ご相伴? からくりはメシなんぞ……ああ、充電か。コンセントはそこだぜ」

芙蓉は源外の指差した辺りに歩み寄って、その側に行儀よく膝を揃えて座った。帯の隙間に手を差し入れて電源ケーブルを引っ張り出し、コンセントにプラグを差し込む。

『新八様と神楽様は、お腹いっぱいラーメンを召し上がりました。私も今、充電を頂いています、たまです。銀時様は、如何がお過ごしですか? 白血球王の治療にまだ手間取っていらっしゃるのですか? 今、お迎えにあがります』

小声で呟きながら意識を『種』に集約し、体内の様子をスキャンする。まだ白血球王の四肢が欠けたままになっていることを確認すると、今度は白血球王の体内に入れるサイズまで縮小した人格データの作成に取り掛かった。


某SNS内先行公開(前半部):2008年08月16日
サイト収録:同年09月04日
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