ナゾノヤクソウ
何でも無い日の昼過ぎ。
金も無けりゃあ仕事も無く、暇で暇でしょうがねぇからと、ババアの店に昼飯をたかりにやって来た。神楽は卵掛けご飯。俺と新八は茶漬けを平らげ、カウンターでだらけている。
「最近、頭いてぇーんだよ」
「風邪じゃないとすると、頭の使い過ぎかい?」
「無い頭使うからアル」
「うっせ、てめーに言われたかーねーよ。つか、なんで風邪じゃないって決めつけるの? もしかして馬鹿は風邪引かないって言いたいの、ねぇ?」
「そうだねぇ、馬鹿にはつけるクスリも無いしねぇ」
「マジっでか! 銀ちゃんはお医者様でも草津の湯でも治らないアルカ!」
「勝手なことぬかすな、コラァ!」
煙草を吹かすババアと神楽に馬鹿にされ怒鳴ると、掃除をしていたたまが懐から何かを取り出した。
「頭痛でしたら、この薬草をどうぞ」
明らかに毒を持っていそうな謎の植物をカウンターに置かれる。なんか見覚えあるぞ、この感じ。この前ジャ〇プに載ってたよねぇ?
「良かったアルな、銀ちゃん」
「いや良くないよ、神楽ちゃん。なんかあれヤバそうだよ?」
「さあ、銀時様。ぐいっと一気にどうぞ」
まるで酒かなんかみたいに言われても、こんな草食える訳がない。だって図鑑にも載ってなさそうな不気味ぃな色してるもん、ほら。
「か、可愛い顔して見つめたって……ちょっとこれは」
「効きますよ?」
「何に効くの? ホントに頭痛に効くの?」
小首傾げて言われても、まだまだ死ぬ気にゃなれない。渋っていると謎の草……って、ポケモンにそんな名前あったな……を千切って俺の口元へ。
あーんしろって事か、そうか。よし、銀時いっきまァーす!!!
そいつは見た目だけでなく匂いや味までヤバくて、思わず吐きだしそうになったほどだが、それをつまむ白い指先ごとくわえて、その草を強引に飲み込んだ。
「……銀時様? 残念ながら、私の指はお召し上がりになれません。ご賞味になるのでしたら、今度源外様に頼んで、食用の材質で作ってもらいます」
「コラァ! この穀潰し! うちの看板娘に何しやがるぅ!」
「ぎっ、銀さんっっっ!」
各々の声がステレオ多重放送状態で耳に突き刺さる。だが、それにツッコみ返す余裕は俺には無かった。胃の底がグッと持ち上がったかと思うと、腹の底がぎゅるぎゅると鳴り始め、脂汗が吹き出す。今まで生きてきた中で、便所までの数メートルがこれほど長く感じたことは無かったし、上の口と下の口のどっちを優先して便器とデートさせるべきかは、究極の選択であった。
結局。
便器と俺との長い蜜月は夕陽が落ちる頃まで続いた。そろそろ店を開けるから出て行けとババアに追い出され、ニ階の寝室に倒れ込む。腹を抱えて唸っていると、たまが部屋に入ってきた。
「申し訳ありません。源外様の話では、頭痛に効くという話だったのですが」
「ジーサンの話?」
「頭が痛いのが続く時はどうしたら良いのでしょうと尋ねたら、この薬草をくれました」
「俺がずっと頭痛してたの知ってて、わざわざ聞いてくれたのか。でもよ、まさかとは思うが、ジーサン、おめぇが頭痛いと勘違いしたんじゃねーの?」
たまは「あ」と小さく呟いた。やっぱりか。道理でアレは人間の食うもんじゃねぇと思ったんだ。だが、その失敗にしょげ反っているたまを見ていると、それを責める気にはなれなかった。頭を撫でてやると、かんざしがシャラシャラと愛らしく鳴った。
「そういえば、腹がいてぇのにまぎれて、頭いてぇのはどっかに行っちまったな」
「本当ですか? 少しはお役に立てましたか?」
「ああ、立った立った」
それを聞いて、たまの表情がパアッと明るくなる。こんな表情を見せられては怒れる訳が無い。こんだけ酷い目にあわされたというのに、彼女の笑顔がこんなにも嬉しく感じてしまうのは、何故なんだろう。これはアレか、お医者様でも治せないっていうあの病気なんだろうか。
「もうひとつお役立ちついでに、俺の財布取ってきてくれや。腹ン中が空っぽだ。オイルおごってやるから、メシ食いに行こうぜ」
「はい」
財布を受け取って、中身を確かめる。これじゃ、ハイオクは無理だな。レギュラーなら……と胸算用していると「それは、デートのお誘いですか?」と尋ねられる。そうだな、と答えようとした俺の目の前で、障子が開いた。
「銀さん、僕らもお腹が空きました」
「晩ご飯まだアルヨ、銀ちゃんとたまだけ外食、ずるいヨ」
訂正。俺の不治の病は、金欠病であるらしい。がっくりうなだれた俺の両手に、ガキどもがぶら下がった。
(了)
【後書き】現在WJで連載中の一寸法師編(仮名)で萌えて「銀時×芙蓉っていいよね!」と、屍姫様と盛り上がり「書いてみたいけど、力つきちゃった」と、SSの欠片をメールで貰いました。可愛いハナシだったので、仕上げてみましたので、これは合作ということで。
その後、別のSSも頂きました→こちら。
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