色男には色女


古い木の階段が軋む音。それが常より大きい時は、何かとお堅い絡繰家政婦が家賃を回収しに来る時だ。
「銀時様、家賃の回収に参りました」
「へいへい、今開けますよー」
引き戸を開いて中へ招くと汚れたソファーに座らせ、尻ポケットに入れた財布から嫌々金を抜き取って渋々渡す。パチンコ行く気だったのにと軽く薄くなった財布を机の上に放り投げた。
「確かに受け取りました。では、私はこれで」
「あー…ちょっと待て」
立ち上がるたまの肩を押して再び座らせる。確か台所の下にじーさんから貰ったオイルがあった筈と思い出した。別に特にこれと言って用事も無かったんだが、神楽と新八は定春の散歩に行ってしまい一人で退屈してた所だ。どうせババアの店も暇だろうし、一杯付き合ってもらおうじゃねぇの。
「お、あったあった」
黴臭い角の方に有る見慣れぬ瓶と内緒で買った安値の芋焼酎を手にソファーに戻る。テーブルに瓶を置いて戸棚から取り出したコップに先ずは焼酎を注ぐ。久しぶりのアルコールに唾液が沸いた。次はオイル。
「ん…あれ、あっ…かねぇ」
ワインの様にきつく閉められたコルク栓は固くなかなか抜けない。無理矢理引っ張っていると隣から妙な金属音が聞こえた。

見るとたまの指先が栓抜き状に変形している。何時の間にこんな機能まで付けたんだと小さく舌打ちをして瓶を差し出すと小気味良い音がして栓が抜ける。
「こ、これはっ」
「どうした?」
たまはオイルをコップに少しだけ注ぎくるくると回す。鼻を近づけて香りを嗅ぐとその儘一気に飲み干した。素肌に限りなく近い素材で出来た喉が嚥下の際にうねる。
「素晴らしい……これは年代物のオイル。ワインと同じ様に熟成されたとても高価な物です」
たまは常ならば無表情な顔を花も咲かせんと輝かせて笑った。その笑顔に見惚れた俺は一瞬だけたまが絡繰である事を忘れてしまい、時めきなんて言う甘酸っぱい青春の感動を味わう。
「銀時様は飲まないのですか?」
「え…ああ」
コップを手に取り焼酎を口に含む。アルコールが喉を滑り落ちてから割っていない事に気付いたのだが、不思議と胸が焼ける様な感じはしなかった。ちらりと横目でたまを見れば、オイルをちびちび飲んでいる。貰い物とは言えそんなに気に入ってくれるとやはり嬉しい。
「そろそろ戻らなければなりません。あの…これ」
「持ってけよ。そいつぁ俺には飲めないんでな」
手渡した瓶にはまだまだオイルが残っていた。このオイルが無くなる頃にはまたじーさんから無理矢理にでも貰ってきて、此処で一緒に飲めりゃあいい。出来る事ならワインなんて洒落た物を二人っきりで、なんて柄にもなく思った。


END

【後書き】
現在WJで連載中の一寸法師編(仮名)で萌えて「銀時×芙蓉っていいよね!」と盛り上がり、書き下ろして貰いました。普段はBLを書いている方なんで、ノマカプは恥ずかしいと照れていましたが、純愛っぽいふたりがカワイイです。
屍姫様との合作SS(銀時×芙蓉)もあります→こちら
初出:09年02月20日
当サイト収録:同月21日
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