以下の描写には、性的に非常に片寄った要素を含みます。 閲覧は、くれぐれも自己責任でお願い致します。 いちしの花〜思うはあなた一人/上
****** 「試したいプレイ……だと?」 土方の引きつった声が響き渡った。洞窟? さっきまで自室に居たと思っていたのに。いや、ここはどこでもない。意識の底にある仮想の世界の筈だが、いくら『これは夢だ』と分かっていても、目を覚まして逃げることができないのは、どうしてだろう。 浣腸用の注射器など、土方も見たことはなかったが、アイツが手にしてるシロモノは多分そうなのだろう、ということは見当がついた。自分が深層意識でそんなものに興味があったとは、到底思われない。だが、トッシーはさも嬉しそうにビニール手袋を嵌めると、その巨大な注射器に牛乳を吸い込んで準備を始める。 全裸に手袋というそのマニアックなところに萌えがあるとか……いや、違うな。靴下は聞いたことあるが、ビニール手袋は無い。というか『全裸に靴下姿』に萌えるような特性も自分には無かった筈だが……ぼんやりと布団……いや、それは地下牢に敷き述べられていた筵だ……その上に寝そべって、そんなことを考えていた土方は、膝を掴まれ押し広げられる感触に、我に返った。 「ちょっ、てめっ、マジでそんな悪趣味なことすんのかっ!」 ちょっと前までトッシー自身を受け入れて、熱く蕩けていた部分に、冷たく硬い感触を感じる。ゾクッと肌が粟立ち、それだけで声が出そうになった。 「悪趣味? そう、非常に悪趣味でござるよ。土方氏。君はいつも愛され求められる存在で、妖しくも美しくあり続けることを無意識に己に課している。菊座を抉られ、男根をねじ込まれ、乳首に吸い付かれて、女のように善がり狂っている、そんな醜く無様な姿を晒して軽蔑されることを恐れ、見捨てられることを怖がり、己の魅力を失うことに怯えている」 その間にも、トッシーは注射器のピストンをじわじわと押している。内側に冷たい液体が雪崩れ込む感触は、熱い精液が粘膜を刺激する感触よりも鋭く、その質量は快楽よりもむしろ、別の苦痛を誘った。注ぎ込まれたものが腹の中をぐるぐると駆け回り、たちまち脂汗が滲んだ。 「ダメだ、こんなん……で、出ちま……うっ!」 「出すでござるよ。そのためにしているのだから」 「そんなっ、無理だっ! そんな姿っ……!」 「大丈夫、僕はあなた自身だから、軽蔑されることも見捨てられることもない」 それを聞いた土方は、どこか頭の奥で吹っ切れたのを感じていた。 ああ、そうだ。コイツは俺自身だから、俺を捨てない……だが、自分はコイツを、トッシーを消し去ろうとしていたのではないか? だから同様に、コイツも俺を破壊して精神の主座から引きずり下ろし、肉体を乗っ取ろうとしていないと、なぜ言い切れる? ふと沸き上がった懐疑心を察したのか、トッシーの表情は陰りを帯びた。 「どこまでも人を信用しないのでござるね。その用心深さこそが君の野生動物のような勘を育み、頼るものもない流浪時代や日々白刃の下をかいくぐる激務を支えてきたのでござろうが……そのために何人に愛されても、心のどこかでは完全に受け入れることができず、常にそれを失うことばかり考えて」 腹の痛みに圧倒されて、ともすればトッシーのその呟きが意味をなさない呪文のようにすら聞こえ始める。朦朧とし始めた意識の中で、粗い筵に爪を立てて必死に己を保ちながら「し、知ったような口をきくじゃねぇか、テメェ」と罵った。いや、罵ることで己を奮い立たせていた、というべきか。 「知っているさ、君自身だからね」 つぷりと、太い注射器が抜かれるが、解放されるはずだった穴はトッシーの細い指で塞がれた。 「もう少し待って。もう1パックは入ると思うし」 「ちょ、そんな大量に無理だっ!」 顎を引いて己の下腹を見下ろすと、ぷっくりと妊婦か何かのように膨れている。まさかそこまで大量に注ぎ込まれているとは思わなかったので慌て、肩を揺すって背中でいざって逃げようとするが、トッシーは長い脚を伸ばすと、土方の胸元を踏み付けるようにしてそれを拒んだ。 「付き合ってくれるんだろう?」 二本目を用意すると、指を抜く。プシッと中身が僅かに吹き出しかけたが、トッシーは躊躇せずにガラス管を押し込んだ。 「ねぇ、どうして自分の中に、オタクな人格が生まれたのか、考えてみたことがある?」 「んだよ、そりゃあ、あの妖刀が、オタクの呪いを……」 「そもそもオカシイと思わないかい? 僕が、君自身であるということが。妖刀に宿っていたはずのオタク本人の人格がここには居ないということが。つまり、君は本来そのような要素を持っていたんだ」 「んなわけがっ……!」 怒鳴り返そうとする声が、震えた。さすがに腹の痛みで意識が途切れそうになる。だが、気絶することもできなかった。ピストンを押し込みながら、時折、トッシーが我が子を宿した女を愛撫するかのように、変型していく腹を撫でる仕草もブッ飛ばしたいぐらいにムカついたが、それを実行する余力が無い。 二次元だったら、愛しても裏切られることがないと、そう思ったことは無かった? 仮想の世界で、疑似恋愛を楽しむ近藤さんが羨ましいと思ったことは無かった? 生ぐさく、時に醜い肉欲を絆に契る現実の恋愛に疲れて、どこかに逃げ場を探してなかった? そして、君……いや、僕は気付くでござるよ。 例え現実には結ばれないと分かっていても遠い世界の存在を愛さずには居られない彼らの熱意、キモイウザイヘタレと罵られながらも立ち向かって行く彼らの強さ、そんな彼らの姿を目の当たりにして、逃げの姿勢でオタクの道に踏み込んだ己を恥じ、ただでさえ社会的地位が認められぬオタクの中でも、さらに下層を彷徨うことになるのか、と。 「でも、僕はこのままで終わりたくはなかったでござる。最後まで逃げた挙げ句に、そのまま何も成さずに消えてしまうなんて真っ平だ、と。僕も何かを掴み取りたいと、地べたを這いずり回り、血反吐を吐いて、この身が泥にまみれても、何かを……だからまず、僕は心身共に穢れてみたいと思った。土方十四郎という男を汚してやりたいと思った」 だが、そのトッシーの呟きは、とうに土方の耳には届いていなかった。 苦痛に表情は歪み、汗はべっとりと全身を濡らし、限界が近いのか、びくびくと脚の先が痙攣している。 「頼む、もう勘弁してくれ、出させてくれ」 「出したい? 鬼の副長さんが、人前でウンコしてみたい?」 「なっ……んなことできるわけがっ!」 「まだそんなことを言う余裕があるんだねぇ」 ピストンを最後まで押し込むと、さらに奥へと流し込むように、注射器をぐりぐりと押し付ける。だが、そこで勘弁してやる気にはなれなかったのか、お道具入れにしている洗面器から、赤ん坊のおしゃぶりのような形の器具を取り出した。 「んだよ、それ」 「もうちょっと我慢した方が、後でたくさんキモチイイでござるよ」 土方の説明には直接答えず、トッシーはそれを菊座に押し当てた。注射器を抜き、その感触に『これで終わりだ』と気がゆるんだところで、手早くそれに差し換える。 「やっ……めっ……外し、て……出さ、せ……てくれっ!」 「ダメ。まだ楽になんか、してあげない」 アナルプラグが抜けないか、リングに指をかけた状態で、ぐりぐりとそれを押し付けたりかき回したりしていたトッシーだが、やがてしっかり嵌まっていることを確信できたのか、ゆっくりと手を離した。 「こんなオナカ恋人に見られたら、きっと嫌われちゃうねぇ」と揶揄するように呟きながら、膨らんだ腹をぺたぺたと軽く叩くと、苦痛の呻きがあがる。 「ねぇ、こんなことされて、まだこんなに硬くなってるでござるよ。土方氏、もしかしてこのプレイに興奮してる? そんな性癖があるって知れたら、皆に嫌われちゃうねぇ」 ふと、気付いたように屹立しているものを握り込む。土方は思わず悲鳴をあげたが、その部分への刺激を欲していたせいか、その声にはうっすらと艶めいたものが混じっていた。トッシーは熱いその男根を少しく摩り上げていたが「これでは、僕じゃなくて君を満足させてあげているみたいでござるね」と、つまらなそうに呟いた。 「ねぇ、次はこれ、イイ?」 トッシーが続いて取り出したのは、細いゴム管のようなものであった。先になにやら小さなポンプ状のものがついている。 「んだよ、それ……どこに何しよーってんだ?」 下腹部の感覚に半ば朦朧としていた土方だったが、その異様な器具に片頬を引きつらせた。一瞬、そのゴム管で根元を縛るのかと想像したが、トッシーが小瓶を傾けてトロリとした透明の液体を垂らし、その先端に塗り付けるのを見て、そうではないと気付いた。 「おい、テメェ、なんのつもりだ!」 「暴れると、痛いかもよ?」 片手に男根を握ると、露を吹き零している先端にゴム管を押し当てる。 「やっ、そんなとこっ……無理ッ!」 こうして間近で眺めると、そこは人体の一部というよりは別個の生き物のように見えた。怯えたように震えているのが、余計に小動物のように思わせるのかもしれない。ビュクビュクと体液を吐き続けるその黒々した『口』に、直径数ミリはある管が思ったよりもすんなりと飲み込まれていく。 「うぁっ、や……めっ……助けっ」 思いがけない部分が押し広げられて感じる異物感に、土方は腹の痛みも忘れそうになった。射精感が掘り起こされるような、もどかしい感触。 「すっごい。こんなに深く入っちゃったでござるよ」 “こんなに”というのがどれだけの長さなのか、土方には自覚もできない。ただ、その先端が最奥と思われる部分に達しコツコツと突く頃には、腰の奥から別の感覚も込み上げて来た。さらにトッシーがそれを弄って、刺激を加えてくる。 「やっ、ちょ……で、出ちま……」 慌てて腰を引いて逃げようとするが、本人の意志とはまるで関係なく、湯のようなモノが吐き出された。大腸が限界まで膨らんでいたのだから、必然的に膀胱も圧迫されていたのだろう。排泄することで少しだけ腹が楽になった気がするが、それと同時に垂れ流してしまったことを自覚せざるを得ない。 「気持ち良かった? でも、こんなふうにお漏らししてる姿を沖田氏に見られたら、軽蔑されるでござるねぇ。坂田氏はオトナだから、口先では『気にするな』って言ってくれるかもしれないけど、目は嘲笑ってるに違いないでござるよ。次の日から何食わぬ顔をして会うなんて、絶対にできない」 「くっ、い、言わないでくれ」 「山崎氏なら平気かもしれないでござるね。でも、さすがの山崎氏も、これはどうかな?」 トッシーが、土方の脚を抱え、腰を高い位置に持ち上げた。腹が大きく揺さぶられ、慣れ始めていた痛みがぶり返す。苦悶に歪む顔を見下ろしながら、トッシーは菊座に生えている輪に指をかけた。二、三度左右に揺さぶってから、一気にズボリと引き抜く。 「あ、ああっ、あああ……や、だぁ……!」 ようやく出口を見つけたとばかりにそこに殺到するのを、意志の力で止めることができよう筈もなかった。真っ白い液が噴水のように吹き上げて大きく弧を描き、地面だけでなく、そこに倒れている土方自身の顔にまで飛沫が叩きつけられた。 「あ、あ、ああ……あ」 とめどなく排泄し続ける土方は、惚けたような表情だった。それはようやく苦痛から解放されるという安堵ばかりではない。むしろ、意識を封じでもしないと、この屈辱的な状況に精神が耐えられないのだろう。 「ちぇ。案外、キレイなもんなんだな。これだったら無花果浣腸とかの方が、もっとドロッドロになって良かったかな」 勝手なことを言いながら、トッシーが手を離す。 土方は地面に倒れ込むと、丸太のように転がってうつぶせになる。飲み込まされたものはほとんど吐き出されたが、まだ中身が残っているのか、それとも内臓を傷つけたのか、下腹が波を打つように痙攣している。倒れた際、硬い地面に腰をしたたかに打ち付けた筈だが、打撲の痛みに構っている余裕もなかった。 両手でその腹を抱え込んで土方が唸っていると、やがてトロトロと残滓がひり出され、太股を伝って流れ落ちた。 土方がようやく落ち着いた頃には、周囲は牛乳と糞尿と精液の入り混じった悪臭で、吐き気がこみ上げるほどになっていた。いよいよ耐え切れずに、土方は褥にしていた筵から這い出すと、地面に向けて口を大きく開いた。たちまちくぐもった音が胃の底から押し出される。 「ちくしょう……テメェこれで満足か、コラァ」 吐瀉物混じりの唾液を、手の甲で拭いながら呟いた。だが、いつもの土方ならそこで振り向いて相手をにらみつけるところだが、その気力は無く、代わりに涙がこみ上げていた。 立て続けに施された屈辱的な行為の連続に、自尊心はとうに砕け散っていたのだ。これは自分自身だから、他人じゃないから、だからいくら恥ずかしい姿を見られてもいいのだから……その一点だけが、心の支えであった。それが無かったら、とうに舌を噛んでいる。 「そうだね。満足なんだと思うでござるよ」 背中越しに聞いたトッシーの声は、なぜか嗚咽交じりであった。 「土方氏が僕のためにできることは、これが精一杯だと思うから」 なんでコイツが泣くのか分からない。泣きたいのはこんな目に遭わされた、こっちだ……そう思うとついカッとして、土方は振り向きざま、トッシーの肩を掴んでいた。 「土方氏が、僕のために“現実に”何かしてくれることなんて、期待していないから……だから、僕はこれで満足しなきゃいけないのでござる」 殴ろうと振り上げた拳が止まった。 いや、逃がすまいと掴んでいた肩の感触も、どこか頼りなく希薄になっていく。あっと思う間もなく、指は肩を突き破り、その質感はみるみる失われて、トッシーの姿は半透明の、まるでホログラムのようになってしまった。 「オイ、成仏しようってのか? ひとをさんざっぱら酷い目にあわせておいて、本当の望みは違いましただと? ふざけんな、これがオマエの望みだっていうから、最後まで付き合ってやったんだ。なんの代償か知らねぇが、そんな理由でこの仕打ちは割にあわねぇ!」 「忘れたのかい? 君は僕を外の世界に出すことを恥じ、僕の存在を消そうとしたんだ」 トッシーの姿が徐々に薄れていく。 「消えるな! 消えるんじゃねぇ! 戻って来い! 戻ってくるんだ!」 叫びながら、手を差し伸べる。その手が……握り返された。 |
某SNS内先行公開:2008年12月10日 加筆修正&サイト収録:同月14日 |
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