08年12月08日発売の『少年ジャンプ』(09年01月08日号)掲載の
『第二百四十訓 友達がケガしたらすぐに病院へ』のネタバレのうえ、
次号以降のストーリー展開とは一致しません。予めご了承ください。

いちしの花〜思うはあなた一人/序


奴を満足させてやれば……つまり、奴がこの世に生きた証を作り思い残すことが無いようにしてやれば、成仏してくれるという。
勝手なことを言うなと思った反面、そういえばあの憎たらしかった故・伊東鴨太郎だって、似たようなことを常々言っていたなと思い出した。僕が生きた証を残すのだ、僕という存在を世の人に知らしめるのだと……当時は単なる鼻持ちならない功名心や自己顕示欲の現われだろうと思い、反吐が出そうだったが。

だが、生きるということは案外、そういうものなのかもしれない。

自分だって「真選組」というものを護ることを生き甲斐としているのは、それを率いる近藤への思慕はもちろん、この組織が自分の作品のようなものであり、それを支えることこそが己の存在価値だと思っているから、なのだろう。もちろん、自分はそれを自覚したことなど殆ど無かったが。

『 だったら、美少女侍トモエちゃんと、でっ、デート……』

「二次元はよしてくれ。実現可能な方向で」

『じゃあ、ロリロリの美少女と……』

「俺に児ポ法および猥褻罪で捕まれとゆーのか? 犯罪も勘弁してくれ。真面目に実現させてやろうというんだからよ」




話し合った結果が、これだった。
テメェと同じ顔に抱かれるというのは、倒錯的というよりはどこか幼稚で滑稽なナルシシズムすら感じられたが、自分に自分の身体を差し出すのだから、手軽なもんだ。少なくとも幼女(あるいはロリ系の少女)を調達しようと犯罪に手を染めるよりは、よっぽどマシだし、ヘタれたコイツなら大したこともできまいとたかをくくっていたのだが。少し考えが甘かったようだ。

自分自身なのだから、自分の弱いところも自分の感じるところも全て知り尽くしているのは当然なのだ。そして、どう焦らされて、どうご褒美を与えられるのが好きか。あるいは他人に求めても得られなかったことすらも。思うままに責め立てられ、奉仕を強いられるのも、それが自分の意思が奴の意思か、曖昧になって溶けあっていく。いや、元は同じ存在だったのだから、還っていくとでもいうべきか。指を絡めあう感触ですら、甘美に感じられた。

何度目か分からない吐精に、一瞬、気を失っていたようだ。

『起きるでござるよ、土方氏』

ひたひたと頬を叩かれて目を覚ます。

『気がついたかい、土方氏?』

そう尋ねながら重ねてくる唇はほんのり甘く、そこだけは自分とは思えず、むしろ別の誰かを思い出させるような……そうか、コイツは煙草を吸わねぇからな。

「トッシー、テメェもそろそろ満足したんじゃねぇのか? 美少女じゃなくて申し訳ねぇが、並みの女よかよっぽどイイってのは、テメェだって俺自身なんだから、知ってるだろよ」

『そうだね、少し休憩しようか』

「休憩? まだヤる気か。おたく化して旺盛になったのは結構だが、テメェだって十九二十歳じゃあんめぇし、身体がおっつかねぇぜ」

枕元の煙草盆を引き寄せ、紙巻煙草を1本抜き取る。愛用のマヨライターは盆の小さな抽斗の中だ。火をつけて深々と吸い込むと、クラッと眩暈がした。時計は寅の刻を指している。もちろん、真夜中の、だ。どれだけ長い時間番っていたのだろう。

「ああ、悪い、俺だけ吸ってて……オメェはコーヒーでも飲むか? 知ってると思うが、そこの文机に小銭入れがあるから、食堂か屯所前の自販機で好きなの買って……」

振り向いた口がぽかんと開いた。
唇から煙草がぽろりと落ち、畳の上を転がって焦がす。また焼け焦げ作って……とザキあたりに文句を言われるだろうが、とてもそれどころではなかった。

「おい、それ、何の真似だ? 飲むようには見えねぇんだが」

奴は牛乳パックを手にしていた。それだけなら「コイツ、コーヒーも飲めねぇのか。どこまでヘタれやがったんだ」と思って終わりだったろうが、コップの代わりにあるのは、洗面器と注射器のようなアヤシゲな物体だ。飲むのでなければ、どのような用途が……と想像すると、血の気が引いた。





『満足するまで、付き合ってくれるという約束じゃないか? もっと他に試したいプレイがたくさんあるんだ』

トッシーの唇の端が、妖しく吊り上がった。


某SNS内先行公開:2008年12月9日
加筆修正&サイト収録:同月13日
『序』の部分を、AKI様が漫画化してくれました→こちら

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