あなたに甘いトッピング
最初に「今日はパフェの日らしいさァ」と言い出したのは、ラビだった。
だから、どっかでパフェのサービスやってるかもなんて言って、今日の休暇、街で古本を探す予定だけど、見掛けたら一緒に食べないかと来たもんだ。まあ、それに乗ったのは、別にパフェが食いたかった訳ではなく、ここ最近の暑さに昼飯がのどを通りにくかったから、たまには冷たいモンでも……と思っただけだ。
それにしても参った。見事にパフェ半額の店を見掛けてソイツを(俺は甘過ぎるのは苦手だから、山葵醤油をかけて)食い始めたら、窓から俺らの姿を見掛けたらしいモヤシがひょっこり現れて「カンダー、明日から任務だってゆーのに、デートですかぁ?」などと言い出しやがった。うるせぇ。誰がデートだ。
「違うンですか? だったら、置いてけぼりを食ったカワイソーな僕に、パフェ恵んでよ」
「断る」
「けちー・・カンダのおこぼれでいいんだけど」
そう言いながら、勝手に俺のパフェにスプーンを突っ込んで、モヤシは自爆しやがった。ざまぁない。
「なにこれ、パフェに対するボートクですよ、パフェの日にこれは、国家反逆罪クラスですよ! ラビの、ひとくちくれる?」
「あ……俺、全部くっちまったさ」
「え〜……じゃあ、後味だけでもいいからさぁ」
余程飢えて、前後の見境がなくなっていたのか、それともタチの悪い冗談だったのか、モヤシがラビのあごを掴んだ。踵を上げてすがりつくような形で、ラビに迫る。
「ちょっ、待てよっ、アレェエエエエン!」
「ラビの口から甘い匂いがするんだよねぇ」
「ぎゃああああ!ユウ、助けてぇ!」
茫然と傍観してた俺だが、さすがに我に返った。自分のグラスの底には、かなり溶けてしまっているが、クリームが残っている。とっさに、それをスプーンですくいとっていた。
「モヤシ」
呼び掛けて振り向かせると、幸い、まだラビは唇を奪われてはいない様子で。
俺は、口にクリームを押し込むと、モヤシの胸ぐらを引っ付かんで、力任せに引き寄せた。唇を重ね、舌でクリームを相手側に押し込む。
「カっ……カン……」
「くれてやったから、もう帰れ」
ラビが襲われかかったことで、俺はかなり動転して、頭に血がのぼってたのだろう。自分のやらかした事を把握できたのは、それから30分ほど後のことだった。
その後。
「いいなぁ……アレン、ずるい……」
などと、ぶつぶつ言いながら、ラビが恨めしげな視線を向けている。
「なんだ、ものほしげな目しやがって。てめぇはパフェまるまる食ったろうが」
「食べたけどね、そんな美味しいもの、食べさせてもらってないさぁ」
「は? 同じパフェだろうが。それとも何か? てめぇも山葵醤油かけて食べたかったのか?」
さすがブックマン、好奇心旺盛なことだなと感心したが、どうも違ったようだ。
「山葵醤油じゃなくて、アレンに何、食わせたっけ?」
「何って……パフェの残りのクリームだが?」
「庇ってもらったのは感謝するけどさぁ、なんだってこう、鈍いんさ……他にも手はあったんじゃねぇ?」
「何ふくれてんだ、てめぇ……? 食い足りネェなら、デザートタイムにも何か食うか?」
「そう? なんでもいいのか?」
パッとラビの表情が明るくなる。
もともと表情がコロコロ変わるヤツだが、この反応はやけに大袈裟なように見えた。
「あん? なんか食いてぇもんがあるのか? まぁ、別にかまわねぇよ」
「そりゃあもう、一度食べたら忘れられなくなる美味しいものが! 昼間っから食べさせてもらえるのか? 食べていいんだな?」
おかしい。このラビの反応は完全におかしい。
俺はまず「マテ」と、片手の掌をラビに向けて立てた。
「とりあえず、落ち着け。冷静に深呼吸してから、何が食いたいか、言いやがれ」
押し殺した低い声で言い放つ。大概のヤツはここでドン引くのだが、その脅しがまったく通じないのが、ラビという男だ。すはーすはーすはー・・・と、ちゃんと律儀に(むしろ道化がかかったしぐさで)深呼吸をする。
「食い足りねーんなら、デザートタイムにも何か食べるか? ってユウ、言ったよな? ……だったら、食べたりないユウを要求していい?」
やっぱり。
俺は偏頭痛がしそうな気分だった。思わず、握りこぶしに力が入る。
「よく言った。気をつけ、休め……その姿勢で、歯ァ食いしばれ?」
「どうしてだよぉおおお! ニッポンのブシに二言はないんじゃねぇのかぁ!!!?」
だがまぁ……思い返してみれば、俺もとんでもないことをやらかしたんだし。
それを目撃させられたラビの気持ちも、少しは察してやらないといけないのかもな、とちょっと考え直した。わざと勢いをつけて手をラビの頬に振り、張り飛ばす寸前で減速させた。
ひたり、と頬にやわらかく触れる。
「そんなモン、デザートタイムには重過ぎるだろう。バカうさぎ。そんなスペシャルディナーは、任務から、生きて帰ってきてから、な」
そう囁いて、ラビの額に、唇をそっとつけてやった。
今度は自覚があるだけに、恥ずかしくてたまらない。あまりの事態にパニックにでも陥ったのか、ラビも豪快に固まっているが、それをどうフォローしていいのか、俺には見当もつかない。つくもんか。
「ち……置いてくぞ」と言い捨てて、俺はきびすを返していた。
(了)
【後書き】6月28日はパフェの日らしいですよ、というメールをもらったので、銀魂でSS『本日パフェの日』を書いてみました。それをほとんど同じ台詞回しでDグレにリライトして、ちょっとだけエピローグを付け加えたものです。思えばこれがDグレ初作品?
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