リバーシブル


「今晩は、お前が陰間しろ」

そう言い出したのは、単なる気まぐれだったに違いない。

「女は抱いたことあるんだろ? でも、陰間はしたことない、そうだったな?」

「へぇ。まぁ、女っていっても、フーゾクとかそういうんですけど」

「だったら、俺にさせろ」

むちゃくちゃな理屈だ。
大体、アンタだってさんざっぱら他の男に掘らせてるくせに……そうは思うが、考えようによっては、土方なりの独占欲の発露だと思えば、可愛らしく思えなくもない。
ただし、体格差に難ありだ。

「副長のんを入れたら、俺、壊れそうなんすけど?」

「日頃、殴る蹴るして鍛えてるんだから、大丈夫だろ」

「それ、鍛えてるわけじゃないと思いますけど」

「嫌なのか。俺が嫌いか?」

「そういう尋ね方をされたら、好きですと答えるしかないでしょうが」

「潤滑油になりそうなモン……ねぇかな。マヨならあるけど」

「マヨは全力で断ります」

そんなもんでヴァージンを奪われたら、男山崎一生の不覚だ。

「じゃあ、せめてよく舐めて濡らしておけ。てめぇの身のためだぜ」

含み笑いと共に突き出されたものを見て、山崎は諦めてその足元にうずくまった。そそり立つものに舌を這わせながら、この大きさは無理だろ、などとぼんやり考える。それよか、こっちに入れらさせて欲しいんだけどなぁ、と指を後ろに這わせようとしたら、手首を掴まれた。

「今晩は、お前のを使うんだよ」

それ無理、と返事をしようにも口が塞がっていて、くぐもったうめき声にしかならなかった。無茶をされる前に、先に口でイかせちゃおうかなと、スパートをかけようとしたら、それを勘付かれたらしく、額を掴んで引き剥がされた。唾液と先走りの露で、根元どころか太腿まで濡れそぼっている。

「力抜け。息、吐け」

「ちょっ……いきなりは無理ッ! せめて少しは慣らしてっ……!」

「こんだけ濡れてりゃ、いけるだろ」

胸を突き飛ばすように押し倒し、片足を担ぎ上げるようにして膝を割った。




快楽など感じていないに違いない。
ただ激痛に耐えながら、それでもその苦痛を与えている本人にすがり、その名をうわ言のように繰り返し続けている。痛いかと尋ねれば、涙目で弱々しく頷くが、止めようかという問いには、歯を食いしばりながらも首を振った。

「副長は大丈夫すか? 痛くないすか?」

正直、こういうことに慣れていない山崎のそこは、締め付けがきつすぎる。女と違って脂肪の薄い身体は、腰を押し付けるたびに、互いの腰骨がぶつかってゴリゴリと音を立てた。
それでも体を重ねたいという欲求に駆られたのは、直接的な肉欲よりもむしろ、それでも脚を腰に絡めてくる、そのいじらしさにほだされていると言って過言ではない。

「ああ、大丈夫だ。悪くねぇ」

「そ……れなら、いいです」

身をよじり、熱い息を吐く唇から、赤い舌がちらりとのぞく。誘われるままに口を吸ってやると、びくびくと脚が痙攣したのが伝わってきた。

「イきそうなのか? イけるか? 大丈夫か?」

唇から唾液が溢れて流れるに任せている顎を、舌で舐め上げながら、平たい胸に指を這わせて小さな突起をまさぐる。敏感な部分を刺激されて追い詰められながらも「ふっ……副長は、まだ……ですよね、俺はいいですから……早くッ……」などと、けなげなことを言ってくれる。
いや、本当に苦痛から早く逃れたいだけかもしれないが。

「じゃあ……ケツ、こっちに向けろ。この姿勢じゃ奥まで入んねぇから、俺ぁイけそうにねぇし……おまえも、バックの方が楽だろ」

「そ……うっすか?」

腰を引いてずるりと抜け出すと、その感触に「ヒッ」と小さく悲鳴を上げて身震いした。まだその余韻に浸っている熱い身体を強引にひっくり返すと、尻肉をわし掴みにする。むき出しにした菊座に猛りを押し当てた。

「あっ……ちょっ……待って、やっ……」

あらためて指で奥までほぐしてやるべきだったろうかと、一瞬頭をよぎったが、止める間もなく、体重をその一点にかけていた。

「いだだだだっ……痛いっ……やだっ、こわいっ……抜いてッ、副長っ!」

先ほどまで辛うじて耐えられたのは、顔が見える状態で抱きとめられているような体位だったからなのだろう。腕の力で這って、身体を上に逃がそうとする肩を、無理やり押さえつける。

「奥まで入ったぞ。分かるか? 山崎ィ」

片方の手首を掴み、強引に番っている部位に触れさせた。

「俺が、おまえと、番ってんだよ。分かるか?」

卑怯だと自分で思いつつも、耳元でそう囁けば、こっくりと首が揺れるのが分かる。山崎の抵抗が緩んだ。

「じゃ、動くからな?」

「やっ……待って、動くのは勘弁してくださいっ……ホント、マジでこれ、痛いっ……!」

「さっき、早くって言ってなかった?」

「ぐううっ……」

骨盤を両手で挟んで強引に腰を進めると、ギャアッと色気のない悲鳴があがった。本気で痛いんだろうなと同情するが、あいにく、気持ちよくしてやれるだけの余裕も技術もない。

「ちっとの我慢だ。堪えろ」

「んっ……」

背中に覆いかぶさり、必死で敷き布団を掴んでいる手に、己の手を重ねてやった。肌の密着度が高まって、少しは安心できたのか、悲鳴をかみ殺して洩れる吐息に、ようやく甘いものが混じり始める。

「山崎ィ……出すぞ」

そして、猛りを解放すると、猛烈な睡魔に襲われてしまう。まるで失神するように、急激に意識が白く飛んでいく。一体いつ、自分が身体を引き抜いたのか、分からないほどだった。




「ふっ、副長? ちょっ最悪ッ! アンタねぇ!」

この人が、こういうことに不慣れであること、なにかと我が侭な性格をしてることは前々から知っていたが、ここまでとは思わなかった。
乱暴に突き上げられ、引き抜かれたソコが痛くて動けないうえに、隣で満足そうにグースカ眠られては、怒りをどこに持っていけばいいのか分からない。なんでそんなに無防備でカワイイ寝顔してるんすか、そんなに睫毛が長くてキレイなのは、反則でしょう!

とりあえず、起きたら、バックの方が楽だなんて嘘つき、と言ってやらないと気がすまない。こっちは、奥までかき回されて、本気で内臓が破裂するんじゃないかと心配したっていうのに。

とりあえず、中のモン始末しなくちゃなと、這うようにトイレに向かい、便器に腰を下ろす。痛くて息むことができないうえに、どろりと垂れ落ちてくる感触が気色悪い。ロダンの「考える人」のポーズのまま、ただボーッと腹の中が空になるのを待っているうちに、こちらも吸い込まれるように眠ってしまった。



ドアを叩かれて、目が覚めた。

「山崎ッ、そこか? おい、大丈夫か? 生きてっか?」

「ふあっ……? 副長?」

どうやら、先に目を覚ました土方が、山崎が傍らに居ないので、慌てて探していたらしい。

「あー……すんません。ここで寝てました」

「ばっきゃろう。便所で寝るヤツがあるか!」

山崎の声を聞いてホッとしたらしい土方が、照れ隠しに便所のドアを蹴飛ばした。
便所まで探しに来るって、アンタ子供かよ。珍しく心配してくれたっていうのは、ある意味光栄っていうか、嬉しいことではあるけど……と、苦笑しながら立ち上がろうとして、腰と尻の痛みに思わず「アダダダダッ」と、情けない悲鳴が上がった。

「はぁ? おまっ、ザキ、てめぇ大丈夫か?」

「全ッ然大丈夫じゃないです!」

こっち側なんて、二度とやんねー! いくら愛があっても無理! ぶん殴られて無理強いされようと、こればかりは男山崎、断固として断る! と、山崎は涙目になりながら心の中で固く誓っていた。


(了)

【後書き】yahooボックスに突っ込んでいた古いデータから発掘された草稿。表記などから見るに、前ジャンルから移行してすぐに書いたものらしいが、どのようなオチをつけるつもりだったのか(もう5〜6年も前のことなので)全く記憶にない……もったいないので、このままサイト収録してみました。
初出:14年01月20日
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