おっぱいはアレ脂肪が詰まってるんじゃない人類の夢と希望が詰まってるんだ/3


「どうした、万事屋」

「その、おーぐしくん、あの……」

「ん? なんだ? 俺の代理だとでも言って、一番隊でも引っ張ってくれりゃ、バズーカーでもなんでも勝手に用意してくれるから、心配すんな。どうせテメェなんざとうに屯所で顔パスだろ? 心配ならこれを預けておく。これがありゃ、テメェが俺の代理だって分かるだろ」

土方がポケットからマヨネーズのボトルを模したライターを取り出して、銀時に渡そうとした。その背後で、白い柱のようなものが伸びてきて、ゆらゆらと揺れている。

「いや、だから、そうじゃなくて」

「これじゃ不満か? じゃ、警察手帳にすっか? 貸すのはいいが、くれぐれも悪用すんなよ」

「そうじゃなくて……後ろッ! 後ろ見ろ、馬鹿野郎ッ!」

「馬鹿野郎だと? テメェ、誰に向かって口きいてやがんだッ!」

喚きながら抜刀した土方だが、その白刃は振り向きざま、背後の柱を斬り捨てていた。オーン、という地響きにも似た低音が響き渡る。
見れば、白い胴体からは、切り捨てられたのと同様の触手……といっても、電信柱ほどもあるサイズのもの……がうねうねと無数に伸びてきており、真っ黒く愛くるしいつぶらな瞳は、しかし畳一畳分の大きさはあった。その巨大な眼球が、ぐるぐると動いたかと思うと、じっと止まって焦点を結ぶ。
その下には、トレーラーぐらいは軽々と飲み込めそうな巨大な口が、ぽっかりと開いている。

「ちっ。あのオバケ、俺らの存在に気付いたようだな。テメェがぎゃーぎゃー喚いてるからだ」

「ひとのせいにすんな」

「テメェのせいだろ。ともかく、ここは俺が引きつけておいてやるから、万事屋、テメェはさっさと逃げろ」

ポイッとライターを放ってよこすや、土方が化け物目掛けて飛び下りた。みるみる黒い影が小さくなっていく。

「サンキュー、ラッキー、助かった、アリガトウ、土方クン、君のことは忘れねぇ。これはオメェの形見と思って神棚に飾っておくわ、毎朝、煙草とマヨネーズ供えてやるわ……って、言ってる場合じゃねぇな」

ここで逃げ出すのは男じゃねぇ。生き伸びるために男を捨ててオカマになるか? このでかい金魂抱えて、巨乳チャンに負けろと? 冗談じゃない。

「テメェは残れ」

手首を振って振り払おうとしたが、納豆アメーバは離れようとしない。だが、ただ絡み付いているというだけで、引き留めているという訳でもなさそうだ。

「じゃ、一緒に行くか?」

もちろん、アメーバから返事があるなどとは期待していない。
預かった土方のライターを懐に突っ込む。巨大金魂が括りつけられた己の腹をポンと叩き、帯が弛んでいないのを確かめてから、銀時も思いきり床を蹴って、飛び下りた。





ほとんど密度のない、風船状の生物であるのなら、飛び下りた衝撃でズボリと突き抜けて、マグマまで落ちてしまうのではないかという懸念が土方の脳裏を過ったときには、もう身体は自由落下状態であった。
ままよ、と思ったがポワン、というトランポリンのような手応えと共に、なんとか受け止められた。起き上がると、すぐそばに巨大な黒いドーム状の盛り上がりがあった。これが『目』であることは、形状からすぐに想像がついた。そして、小生意気な人間が己の背中に飛び乗って来たことを「目視」した白ナマズは、すぐに触手を伸ばして、これを払い落とそうとし始めた。触手と言っても、サイズが段違いだ。うねうねと襲ってくる電信柱、あるいは顔のないアナコンダ、とでも言うべきかもしれない。

「こんな生物でも知能があるのなら、どっかに脳か……せめて、核がある筈だが」

だが、それを手探りで剣で突いて捜そうにも、巨大触手を振り払うのに手一杯だった。何本めかの柱を切り払ったところで、足許が揺れるほどの衝撃を感じ、銀時も続いて飛び下りて来たことを知って、愕然とする。

「何してんだ、万事屋! テメェは逃げて屯所に知らせに行けと言ったじゃねぇか!」

「副長サンばっかり、カッコいいことさせてらんないしね。それに巨乳は歴史的文化遺産だから、無駄に見捨てる訳にはいかねーんだよ!」

「ほざけ!」

「大体、オメェひとりじゃ、あっぷあっぷしてやがるじゃねぇか」

そういうや木刀を片手に飛び上がり、土方の腰に巻き付こうとした一本を、あわやのところで殴り飛ばした。

「だから、とっととコイツの『核』を捜しだして、壊したいところなんだがな」

そう言うや、土方が刀を皮膚に突き刺す。ぷちりと皮が爆ぜ、ババロアかゼリーのような微妙な弾力を感じるが、それだけで血や体液が吹き出すわけでもない。それでもいっちょ前に痛むのか、また「おーん」という低音波の鳴き声と共に、触手の群れが襲って来た。

「そうやって、めったやたらに刺すしかないの?」

「仕方ないだろ!」

銀時はふと、機械人形のクーデターの真の首謀者・伍丸弐號のことを思い出していた。あれも舞台はターミナルだった。そして、奴を倒すにはその体内に潜んでいる『種』を壊すしかなく……あの時は極小の種を探し出すことなどできずに、全身をターミナル奥から吹き出すエネルギーの渦に押し込むことで片をつけたのだが。今度は逆に、バカでかいドンガラをマグマに押し込むために、種捜しというわけか。

「まさかとは思うんだけどさ、ソレが頭にあるとはかぎらねぇんじゃね?」

「だったら何だ」

「せいぜい、副長サンは触手プレイでそいつら引き付けておいてくれや。激しいプレイでおっぱいポロンすんなよ、目の保養で気が散るから」

「誰がするか!」

だが、罵りながらもお互いの役割分担は理解したらしい。銀時が木刀でナマズの背を突きまくり、土方はそれを排除しようと伸びてくる触手を次々と切り払う。広大な砂の中から、実在するかどうかも分からぬひと粒のダイヤを探り当てるような、気の遠くなる作業に思われた。何十回とも分からぬ繰り返しに、徐々に疲労し、指の力が抜けてくる。土方も汗だくで呼吸があがっているうえに、何度か触手の反撃を食らったようだ。

「早く見つけろ、万事屋」

「分かってるわ! 鋭意努力してるっつの!」

土方の首に一本が巻き付いた。
しかも運悪く、そのタイミングで今更のように身体が変化し始めている。足の先から、骨や肉がドロドロに溶けていく感触。マヨか? マヨネーズになっちまうのか、俺? マヨになれるのなら拙者、本望でござる……って、んなわけねぇだろっ! しっかりしろ俺、気を確かに保て俺ッ!

「ひっ……土方ッ!」

「お、俺はい、いから……テメェは早、く……核を」

「んなことゆーても……ッ!」

喚いて、木刀を握り直そうとしたその手が、ガクンと引っ張られた。
自分も触手に捕まったかと、視線を手許に落とすが、そこには猿飛であった納豆アメーバしか居ない。そのアメーバが、身体の一部を遠くに伸ばしていたのだ。その先が、一点を差している。

「んだよ、あそこか?」

先ほどの芙蓉に関するやりとりからしても、コイツは俺の考えていることが分かっている筈だ。脳や他の感覚器が失われた代わりに、直感的な感覚が鋭くなっている、ということかもしれない。だとすれば。

「そこかぁあああ! この化け物、俺の金魂を返せぇえええええええっ!」

わらわらと集まってくる触手を払いもせず、木刀を振り上げると、猿飛が示した一点に根元まで突き刺した。相手も危機感を覚えたのか、その周囲からも大小の触手が猛烈な勢いで生えてきて、銀時に襲い掛かる。
銀時の姿が触手の群れに包まれて完全に見えなくなってしまう。逆にヤツを活性化させたのではと、土方が低下しつつある意識の中で懸念したが、やがて首に巻き付いていた触手が力を失ってボトリと落ちた。まだ辛うじて人の形を保っている上半身で咳き込みながら「万事屋、無事か?!」と呼びかけると、銀時も触手を払いながら「よっしゃ、ビンゴ!」と叫び返してきた。

「早いとこ逃げっぞ!」

言われずとも、再びこの化け物が沈んでいくのが、土方にも分かる。続いて、銀時の腕が胴に巻き付いたのが感じられた。だが、下半身の感覚は無い。胴も内側はかなり化学変化が進んでおり、銀時の腕がぐにゅりと不自然にめり込んだ。

「俺はもう、いい。こんな身体じゃ足手まといだ」

「うるせぇよ、こんなボイン放り出して逃げるなんざ、男の風上にもおけねぇだろがよ!」

「俺の胸なんざどうでもいいだろうが……わーった。もし助かったら、こんな無駄乳で良けりゃ好きにさせてやんよ」

「え? マジで? じゃ、助かったらぱふぱふとかしていい? よっしゃ、もう一度、命綱頼んだぜ、ドMストーカーよぉ!」

土方を小脇に抱え、もう一方のアメーバが巻き付いている腕を振りかざす。
一瞬、何事も起こらなかったが「わーったわーった、テメェの胸もぱふぱふしてやっから、協力しろって! ついでに亀甲縛りでもローソク責めでも、目一杯、付き合ってやっから!」と喚くと、それは凄まじい勢いで壁に突進し、壁を走るパイプに巻き付いた。




今度は身体が半分溶けた土方を抱えているため、銀時はなんとか壁に飛び移ってしがみついても、それ以上這い上がることができなかった。ましてや、化け物が鳴きながら落ちていく姿を見送る余裕もない。
どれほど長い間、ただじっとへばりついていたのだろう?

やべぇ、腕いてぇ、握力なくなってきた、このままポトンって落ちて死ぬのかな、俺、死んじゃうのかな、ぱふぱふもできないまま、死んじゃうのかな。だってどうしようもねぇもん。副長さん捨てるわけにもいかねーだろーし、つーか捨てても握力残ってねーし、かといって心中もゴメンなんだけど、だってこれ以上、どうにもできねぇもん……などとつらつら思っていたところで「オイ、何してんだ、ボケ。登らねぇと死ぬぞ」と、耳元で囁かれた。
ギョッとして見れば、いつのまにか土方が腕を伸ばして、壁を走る配管を握っていた。

「身体……戻ったのか?」

「多分、な」

そう言うと、土方が銀時の肩を担ぐような姿勢になる。ズボンからは取り戻した足がのぞいている。靴は変体した際に脱げ落ちたらしく裸足だが、その足指が壁面の僅かな突起を捉え、疲れ果ててずり落ちかけていた銀時の身体の重みを、がっしりと受け止めた。

「いいか、窓が見えるだろ。あそこから、ターミナルビルに戻れそうだ。もうちっとだから、一緒に登るぞ」

「副長さん、ぱふぱふは?」

「ねーよ。戻った、つってんだろ」

「うっそ。なにそれ、今のでモチベーションすっげ落ちた。も、銀さん無理。お願い副長さん、おんぶして」

「ふざけんな」

「マジで頼むわ、300円やるから」

「落とすぞ」

口汚く罵りながらも、頼もしいほどの力で押し上げられた。銀時もそれに励まされて、なんとか残る力を振り絞る。幸い、生き残っていたのかそれとも元に戻ったのか、ターミナル職員も一連の騒動に気付いたらしく、窓を開けて銀時らに手を差し伸べてきた。





警察を呼ぶべきだろうかなどと狼狽えている職員らに向かって、土方は警察手帳を示して「俺が警察だ」といつもの決まり文句を吐き、真選組の屯所に連絡をとるよう、てきぱきと指示を出した。

一方の銀時は「副長サンが元に戻ってるってことは、俺も」と、股間を覗き込んで「……やった、金魂がっ!」とガッツポーズをとる。
その復活した半身に、唐突に負荷がかかってよろめいた。見れば、猿飛が全裸で銀時の腕にしがみついている。

「おめぇも元に戻ったのか?」

「いやぁん、銀さん、見ちゃらめぇ、というか、見て、もっと見て、舐め回すように眺めて、その目で犯して、いや視線だけじゃなくて全身で犯して、全精力尽くして全俺で犯してぇん! だって約束よね? ぱふぱふに亀甲縛りにローソク責めにM字開脚陵辱責めしてくれるって、約束したわよね? さっちゃん銀さんのために頑張ったんだゾ」

くねくねと尻を振っている猿飛の頭から、すっぽりと黒い上着が被せられた。

「ちょっとぉ、何すんのよぉ! あんたの服なんか着せられても、ちっとも萌えないんだから!」

「おとなしくしろや。猥褻物陳列罪で逮捕されてぇのか」

土方が面白くもないという口調でボソリと呟くと、さすがの猿飛もグッと黙った。

「そーいえば、新八んとこにゴリラ女と片目の男女、置いてきたよね」

「そうだな。アレでも一応、女は女だしな。放り出しておく訳にはいかねぇな。とりあえず戻るか」

ターミナルそのものの損壊は少ないようだから、実質的には『船だと思って入港させていたのが、実はエイリアンの擬態だったので退治しました』という報告で済むだろう。入港許可を出した入国管理局と一悶着やらかす必要があるだろうが、証言自体はターミナル職員からもとれるだろうから、そう難しいことでもあるまい……土方は男のモノに戻った己の胸元を探ると、煙草の箱を引っ張り出した。ふと、職員に「ついでに靴か何か、借りれねぇか?」と尋ねる。

「靴、ですか? 靴といっても……ああ、サンダルなら便所に」

「便所サンダルかよ。まぁ、いいか。素足よりマシだ。あと万事屋、ライター返せ」

「ライター? そういえば預かってたな。あ、俺も便所行く。そういえば、ずっとウンコしたかったの、忘れてた」

「ええっ、銀さん黄金プレイ!? 黄金プレイをするっていうの? やだもう、銀さんったら大胆なんだからぁ!」

「ちげーよっ!」





神楽と新八を留守番させていたターミナルの入口広場に戻ると、志村妙と柳生九兵衛が、引き剥がした新八の着物をふたりで片腕ずつ羽織った状態で、辛うじて肌身を隠していた。

「どっちか、羽織を貸してやれや。万事屋」

「そうしてやりたいのは山々なんだけどね。気付いたら俺、ズボンの前が破れてて、この羽織脱いだら、俺のアームストロング砲が丸出しになっちゃうんだよね」

「なにがアームストロング砲だ。豆鉄砲だろ。ま、確かに、そんな粗末なモン晒す訳にはいかねぇがな」

「粗末ってひでぇな! ちぃとばかりシャイで謙虚なあんちくしょうなだけじゃねぇか!」

「喚くな、るせぇ……しかたねぇ、組の連中を呼んであるから、来たらパトにでも乗せてもらうか」

これで一段落か、と安堵した土方の背後から何かがのしかかり「ふくちょぉおおおお」と、情けない声で鳴いた。
ああ、そういえば、もう一人いたっけなと思いだすや否や、振り向きざま、問答無用に蹴り倒し、便所サンダルで顔面を踏み付けにする。

「ちょ、バカ崎、服ぐれぇ着ろ、なんてぇ格好してやがるっ!」

「着ろって言ったって、俺の服、副長が団子屋に預けちゃったでしょお?」

そういえばそうだったなと思い出すが、だからといって、警察の人間が全裸で居るのを見過ごす訳にもいかない。

「万事屋、やっぱりテメェの羽織貸せ」

「無理」

「だったら、せめてコイツと二人羽織してやれや」

「野郎相手なんてやだよ、キモチワルイ」

「ちっ、しゃあねぇなぁ」

仕方なく隊服のベストを脱ぐと「腰にでも巻いて、見苦しいの隠しておけ」と山崎に放ってやった。

「んふー…副長の匂い」

「アホ。変なビョーキがウツりそうだから、それ、返してくれなくていいぞ」

春先とはいえ、さすがに素足にブラウス姿になると、やや肌寒い。早く迎えこねぇかなと、土方は己の腕を抱くようにしながら、遠くを見やった。

「副長、今度は俺があっためてあげましょうか?」

「気色悪い。寄るな」

「キショ……ひどいなぁ。ついさっきまで、副長の豊満な谷間に包んでくださってたのに」

「豊満な谷間? あ、アレか」

相手は人間の姿ではなくなっていたし、ポケット代わりに懐にモノを突っ込む感覚だったので、あまり気にしていなかった。そういえば、万事屋も「妙にエロい」とかなんとか世迷い事を口走っていたっけ。自分の身体だと思えば、それが女の胸乳だという自覚もほとんど無かった。
 
「そうですよ、副長のあのグラマラスな胸を独り占めできて、男山崎、どれだけ幸福であったことか……惜しむらくは、シーメールなお体になっている副長と、是非一発ヤ……」

土方はその山崎の台詞を最後まで聞くことなく、便所サンダルを片方脱ぐと、渾身の力を込めてそれで山崎の顔面を引っ叩いた。なぜかそれに銀時も加勢して「この俺がぱふぱふし損ねたのに、テメェが一発とか、ねーよそれは!」などと喚いている。

「やれやれ、ヘンタイばかりアルネ。オトナは汚れてるヨ……あ、パトカー来たアル」

立ち上がった神楽は、近づいてきた白黒ツートンの自動車に向かって、子犬のように跳ねながら元気よく手を振った。





「そう、あれは星々を巡っては、その星の生物を次々と食い物にしてしまう怪物でよ」

宇宙最強のエイリアンハンターとして名高い海坊主と銀時がぱったり逢ったのは、銀時の馴染みの団子屋・魂平糖の前であった。立ち話もなんだからと、薄汚れた緋色の毛氈を敷いた、店先の腰掛けに尻を据えると、団子屋の岩盤娘……もとい看板娘が、恥らって袂で顔を隠す仕草もたおやかに「サービスです」と菓子盆を差し出す。

「あのスッカスカの風船ナマズが?」

「生物を変化させた後に、あれが全身ミッチミチの密度になるまで、食いまくるんだよ。それでしまいには、小惑星ぐらいの図体に膨れ上がるらしいんだがな。あいつらが地球に向かったと聞いて、もし神楽ちゃんが食われたらどうしようと思って、駆けつけたんだよ……まだ数匹、仲間が上空にいるらしいが……そうか、地上に降りたヤツを退治したのは、オメェさんか」

そういいながら、海坊主が菓子盆から饅頭をつまみ上げた。一瞬、視線が泳ぐ。

「ああ、そいつぁ多分、フツーにホンモノの饅頭だろ。ぬくくもねぇし、動いてねぇし」

銀時がそれと察して、先回りしてそう答えてやった。あの事件以来、新八と神楽は丸いパンを見るたびに何やら思い出すようだし、銀時自身もソーセージはフォークでブッ刺して、トドメを刺してからでないと、咬みつかれそうな気がしておちおち喉を通らない。

「ま、どんな食いモノでも、元は生きモノなんだがな」

銀時がそう呟くと、海坊主も「そう言われてみれば、そうだな」と自嘲気味に同意して、饅頭にかぶりつく。中からトロリと赤いものが垂れてきてギョッとしたが、良く見るとそれは苺ジャムであった。

「考えてみりゃ、血も流さずに食い尽くすヤツらよりも、食いもしねぇくせに互いに血を流す俺らの方が、よっぽど野蛮なのかもしれねぇ」

「俺ァ、辺境の野蛮人で結構だよ。いくらお上品だろうと、ダチ公を美味しく食わされるような真似、まっぴら御免だ」

「ちげぇねぇ」

それから少しくの間、いい年齢をした野郎二人が並んでもくもくと饅頭にかぶりついていた。

「ねぇ、銀さん。ちょっどいいかすら?」

看板娘が、なよなよと不気味なシナを作って銀時の隣に腰を下ろした。

「んだよ、饅頭が不味くなるだろーが」

「なによ。そんなこど言っていられるのも、今だけなんだから」

「何だよ。その岩盤ヅラが化けるとでもいうのか?」

「だべさ。食べるだけで美しくなれるっでいう饅頭があるんだから、わだすだって……ついこの間、新すくオープンすた、宇宙でも有名なお店なんだども」

「は?」

どっかで聞いたことあるフレーズだな、と銀時は首を傾げる。

「そこの饅頭だっぺ、これ。新・拝乙屋っていうんだども」

まだ、上空に仲間が数匹いるらしいと、今、ハゲが言っていなかったっけ? 銀時の耳に、ザーッと血の気が引く音が聞こえた。


(了)

【後書き】節分企画のために書いて冒頭部をブログと某SNSに公開していたSS。エンディングまで書き込んで、残りバトルシーンを残すのみという状態で筆が止まり、そのままコロッと忘れていました。草稿のテキストデータ整理中に発掘してサルベージして、大幅に加筆してサイト収録。作中季節は節分なので、夏の作品群の上に設置しました。

そういえば、ブログ公開したものを携帯で閲覧しようとしたら、なぜか成人認証にかけられたんですけど……あれですかね、旧タイトルが『洗脳搾乳恵方巻き』だったせいでしょうかね?
初出:2009年10月11日
←BACK

※当サイトの著作権は、すべて著作者に帰属します。
画像持ち帰り、作品の転用、無断引用一切ご遠慮願います。