とある宿の一室で


「晋助、そいつぁどうしたでござるか?」

万斎がふと、目を止めた。
高杉が、ガラでもない鼈甲の髪留めを弄んでいる。


「てめぇに関係ねぇ」

「女にでも贈るのか?」

その声に微かな嫉妬の色が混じるが、俯いているその隻眼は、ちらとも視線をこちらに向けはしない。

「女じゃねぇよ」

「男か? まさか晋助が使うわけでもないでござろう」

来島また子にくれてやるというのなら、まだ気持ちも楽なのに。
万斎は手を差しのべて、晋助の華奢な顎を捕らえようとしたが、その手の甲がピシャリと煙管で容赦なく打たれた。みるみる火ぶくれが出来、血が滴る。

「どうせ使うわけがねぇとは分かってるんだがな。あのダンダラ髪が鬱陶しいから、使わせてみてぇと思っただけさ」

誰のことでござるか……とは、さすがの万斎も声に出しては尋ねない。尋ねさせない雰囲気を放っている。





「どこにいるもんだか。渡しようもねぇのにな」





そう呟くと、不意に窓から放り投げた。

(了)

【後書き】高杉スキーの友人が「6月26日って、桂の誕生なんだって!?」と日記で騒いでいたんで、コメントに即興で書いたSSです。桂×高杉の、万斎×高杉・・・かな?
棄てられた髪留めは、偶然通りがかった桂が拾って、そうとも知らずに『便利だ』とかなんとか言って、つけているといい・・・とのことでした。
ブログ初出:07年06月27日
当サイト初出:07月08日
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