恋 愛 ご っ こ


あなたは、いつも遊びだと思い込んでいた。

ボンゴレファミリーのことも、俺がそれに敵対するマフィアのメンバーであることも、そして・・・俺の気持ちも全部。

優しく接してくれたあなたの気持ちを、単なる好意以上のものだと過大評価するほど、俺も自惚れては居ないけれど。でも、少しぐらいは、夢を見させてくれても良かったんじゃないかな・・・昨夜、構って貰いたくて、一生懸命、あなたの背中を追い掛けてた、幼ない頃の夢を見た。
今は立場的にもう、逢うことすら叶わないというのに。

アルバムを引っ張り出してページをめくっていると、不意にガツンと来た。火の無い所に立つ火薬の匂いと爆煙・・・ああ、どうやら10年前の俺の仕業だな・・・そう思った頃には、一瞬の激しい目眩の後、周囲の景色が激変した。






10年前に戻って、まず目に入ったのは、広い背中だった。道路のど真ん中だというのに、しゃがみ込んで、両手を後ろに回して。

「来ねえのか? 歩きたくねぇんだろ?」

そう声をかけられて、なんとなく10年前の状況が理解できる。どうやら、彼とふたりで歩いていた子どもの俺は、歩き疲れておんぶをせがんだらしい。

「ランボ?」

振り向いた顔を見て、心臓が跳ね上がる。ついさっきまで、アルバムを眺めながら、秘めた想いを暖め直していたせいだろう。

「あれ? お兄さん、ここにいた、ちびっこい子、知りませんか?」

だから、それが俺だってのに・・10年バズーカーのせいでね・・と、いくら説明しても、冗談だと捉えて、本気にしてくれないのだろう。まぁ、それはいつものことだけど。

「ちびっこい子は、あと5分もしたら、戻ってきます。それまでは、俺がお付き合いしますよ、若き日の山本殿」

「そうか? いや、悪いな。今から一緒に、ツナの家に行くところでさ」

なるほどね。見回して、確かにその道が若きボンゴレ10代目の日本のご自宅に続いていることを思い出す。

「じゃあ、行くか」

無造作に手を差し出されて、ギョッとする。
スポーツマンのがっしりした逞しい手指、肉厚の掌、健康そのものであることを誇示するような、三日月がくっきり浮かぶ桜色の爪・・吸い寄せられるように見つめていると、それに口付けたい衝動に駆られた。あの手の甲に浮かんだ血管を唇でなぞり、関節の大きな親指を・・想像するだけで、ゾクゾクする。

「やっ、山本殿っ・・」

「あー悪い悪い。子供じゃねーから、手繋ぐ必要もねーのか」

こっちの気持ち知らずに、アハハハハハと爽やかに笑う山本が憎たらしい。ちょっとムッとした俺は、山本が引っ込めるよりも一瞬早く、その手を掴んだ。

「別に手を繋いでても、俺は構いませんよ。若き日の山本殿」

「そうか?」

少しは照れてくれたら良いのに・・そう思っていたら、山本がボソッと「こうして歩いてると、恋人みたいだな」と呟いた。俺は、顔が火照るのを感じる。

「若き日の山本殿、おっ、俺・・」

思わず口にしかけて、慌てて我慢する。
小さな頃から慕ってた、ずっと一緒に居たいと思ってた。俺は幼すぎて、その感情が何かは分からなかったけど・・という言葉は、もう喉元まで出ていた。

「どうした? 恋人ごっこか?」

「どこまでも遊びにとらないでください」

「なんだ、本気になって欲しいのか?」

フッと山本の表情が変わる。俺はその瞳に吸い込まれそうになり、その視線を避けようとして、無意識に瞼を閉じる。両肩を掴まれたような気がした。

「山本ど・・のっ・・」

思わず抱きつこうとして、再び衝撃を感じる。畜生、もう5分たったのか・・!


もし、あのまま後、数秒あそこに居られたら、俺達はキスしてたんだろうか。それとも、寸止めされて、いつもの高笑いで誤魔化されたんだろうか・・そう思いながら、部屋を見回す。10年前の自分は、いつもなら『5分でよくもここまで』と思うほど、周辺を散らかしていくものだから。
だが、見たところそれほど、室内に荒らされた様子もなかった。どうやら、アルバムをのぞいて遊んでいたらしい。ページを破ったり、写真を剥がしたりしていなかったことは、我ながら褒めてやってもイイと思う(いや、それが当たり前なんだがな)。

ふと、1葉の写真に目が止まる。
写真の一部が、マジックペンでぐりぐりと囲ってある。それを見て、俺は苦笑した。

「山本殿・・か」

俺は「Ti amo」と小さく呟いて、その写真に口づけようとする。マジックペンのキツい匂いが鼻をついたが、幼い俺が何を考えてそんなイタズラをしたのかを思うと、気にならなかった。唇が触れるか、触れないかの時に。




「おーい。バカ牛ぃ」

扉が遠慮会釈なく開かれ、俺はまたもやキスし損ねた形になった。

「なっ・・・獄寺殿? なんで・・?」

今はもう、別のファミリーのメンバーなのだから、そうしょっちゅう会える間柄でもなくなったのに。

「なんでじゃねぇ。10代目がホームパーティをするから、昔のよしみで誘ってやれと言ってくださったんだ、ありがたく来やがれ。今すぐだ」

「山本殿も?」

思わず声に出てしまい、相手は一瞬妙な顔をしたが、すぐに「ああ、来る予定だ」と答えてくれた。
俺は、心臓が踊るのを覚えながらも、片手に持ったままだった写真を、なるべくさり気なく内ポケットにしまって「じゃあ、すぐに支度をするよ」と告げた。

(了)

【後書き】凛さんが『山本とランボって萌えるんですけど、見当たらないのです』と言ってたので、書いてみました。純情路線です。ランボさんが可愛く見えたらいいのですが。
獄寺クンが登場してるのは、私の趣味です、ええ。すみません。
ブログ初出:07年02月02日
当サイト初出:03月25日
←BACK

※当サイトの著作権は、すべて著作者に帰属します。
画像持ち帰り、作品の転用、無断引用一切ご遠慮願います。