事 へ の 風
猛りを吐き出して頭の中が真っ白になっていたが、そのままふうっと意識を手放してしまいそうになっていたところを、容赦なく頭を引っ叩かれて覚醒した。
「寝るなコラ」
「いだだだっ・・殺生ですよ、副長っ!」
「バカヤロウ、ちゃんと抜き取っておけ・・ったく、中で出しやがって」
情事の直後だとは思えぬ凶悪な表情で山崎を見上げていたのは・・真選組鬼の副局長と恐れられているはずの、土方十四郎そのひとであった。
「あっ・・すみません、そのっ・・つい、夢中でっ」
「けっ。ドヘタクソ」
言われなくても分かっていることだが、やっぱり面と向かって言われるとへこむ。
大体、どういう気まぐれで、土方ほどの男が、部下の、それも山崎退の相手なんぞする気になったのか、山崎自身にも理解できない。どうせ自分ごときが釣りあう相手ではないとは分かっていたし、相手にその気がないのは百も承知であったし。
こんなふうに抱くことができるなんて、妄想の中だけの出来事だと思っていたのだから、いざというときになって、舞い上がって・・というより、ほとんどパニック状態に陥ってしまったのも無理はない・・と思って、多少は大目に見てほしい。いや、無理か。無理だよな。ええ、無理でしたとも。
「すっ・・すんません。あのっ・・抜き取るってどうすれば」
「おいおい、知らねぇで中に出したのかよ。サイアクだな・・今度は外で出せよ、外で」
「えっ・・こっ・・今度・・!?」
今度なんて・・そんな機会が果たして自分にあるんだろうか・・と、動揺して固まっている山崎にイラッとしたのか、土方が拳で山崎の鳩尾を殴りつけた。
「オラァ、いつまでもボサッと乗りかかってんじゃねぇよ・・枕元に桜紙があるだろ? それで拭ってくれ」
「はっ・・はいっ」
おどおどとその柔らかい紙を掴むと、先ほどまで番っていたその部分に押し当てて拭う。さすがに余韻が残っているのか敏感になっている部分に触れられた土方が「うっ」と呻いて、ちらっと身を震わせた。その上気した頬がなんとも艶かしくて、先ほど吐精したばかりだというのに、劣情がこみ上げてくる。
うわぁ、たまんねぇなその表情・・もう一発ヤりてぇ・・でもそんな事、俺が出来るわけないしな。なのに、こういうことさせられんのって、どうよ、どうなんよ・・これって、新手の拷問?
「・・拭いました」
土方は苦笑しながら「もういいぞ。後は俺がやる」 と答えていた。感触ではまだ奥に残っているのだが、これ以上は山崎には無理だと思ったのだ。総悟だったらちゃんと・・って、これが総悟だったら後処理で終わらないんだよな。
「まだ・・でしたか? だったら俺、最後まで・・」
「お前にはまだ無理だ。回数を重ねれば・・・な」
「かいすう・・・?!」
「そうですねぇ。回数重ねれば、後処理でまたイかせられるってもんですぜ?」
不意に背後から声をかけられて、ふたりの顔がサァッと青ざめた。背後から異様な雰囲気が漂っている。特に土方は、がまの油よろしくイヤな汗が流れ出ている。
麻の筒袖を懐手にして、障子にもたれていたのは・・沖田総悟であった。
「あのっ・・そのっ・・すみませんっ、俺っ・・その、出来心というか、なんというか」
沖田が何か言い出す前に、山崎は土下座していた。
山崎は作務衣がはだけた半裸状態、土方は脱がし忘れた足袋しか身に纏っていない、あられもない姿で・・ふたり何をしていたかなんて、釈明の余地は寸分もない。そもそも、山崎だって、沖田が土方に執着してるのは知っていた。それも尋常じゃないレベルで。知っていて・・手を出してしまったのだ。自分の立場を思えば、このままうなじに太刀を振り降ろされていてもおかしくない。自分よりも若いこの男は、それぐらいのこと、鼻歌混じりにやってのける。それも、返り血ひとつ浴びないぐらい鮮やかな剣筋で。
だが、沖田は、ほんのりと花が綻ぶような穏やかな笑みを浮かべていた。いや、それは口元だけだ。瞳の奥までは笑っていない。
「山崎ィ。もうちょっとテクニックをつけねぇと、土方さんはいい声で啼いてくれませんぜイ」
「そ、そうなんすか?」
「俺が直々に教えてやりまさぁ。ねぇ、土方さん。後輩の指導はちゃんとしなきゃ」
えっ!? 直に指導!? 隊長が俺をっ!? ぇえっ!?? ままままっ・・・待って、えっ!?
思いがけない沖田の台詞に、畳に擦り付けていた額をあげると、沖田の色素の薄い瞳と視線がぶつかった。目は口ほどもモノをいうとはいうものの、一体彼が何を考えているのか、見当もつかなかった。ただ、澄み切って美しいだけの玻璃のような双眸が、ほの暗い行灯の光を照らし出しながら、無機質に浮かんでいる。
せめて嫉妬や憤怒の炎がちらとでも浮かんでいた方が、どれだけマシだったろう。
「ちょ、ちょっと待て! 総悟!」
我に返ったのは土方の方が先であったが、沖田は土方の意思などまるで無視して「まだ奥に残ってる筈だから、ぐっと中指入れて」 と、事務的な声で言い放った。まるでなんでもないことのような口調に、ついつい釣り込まれて、山崎も手が伸びてしまう。
「え? こ、こうですか?」
「うぁぁ!」
思いがけない展開に、土方が背中でにじるように逃げようとしたが、いつの間にか土方の傍らに回りこんだ沖田が、その髪を掴んで引き留めた。
「そうそう。中で第二関節曲げて、絡め取るようにかき回しなせえ」
つい先ほどまで男性を受け入れていたそこは、まだ力なく緩んだままだ。指一本ぐらい、あっさりと奥まで呑み込んでしまう。指の動きに伴って、くちゅっと濡れた音がしたのは残滓だろうか。
「ひっああ!」
「なんか、中締め付けられるんすけど」
「じゃ、もう一本増やそうか」
「え? 指一本で十分じゃ・・」
「土方さんは十分じゃねぇんでさ」
先ほどまで無表情とも思えた沖田が、くすっと笑ってみせた。だがもちろん、その笑みは無邪気でもなければ、優しくもない。沖田の中で何かのモードがオンになったのだろうか。
「・・・沖田隊長、これって後始末っていうより、そのぅ・・」
山崎がおずおずとながらそう言ったのは、喘ぐ土方の吐息を聞かずとも、指に伝わる感触だけでも苦しそうなのが感じられたからだ。
だが、あっさりとその指を抜いて、土方を解放してやる勇気もない。そうするには、あまりにも土方が扇情的であり、あまりにも沖田の態度が絶対服従を求める高圧的なものであった。
「ね。土方さん」
沖田が、顔を背けている土方の両頬を挟むと、ぐいっとひねって、その表情を山崎に見せ付けた。
その仕草は子どもがじゃれているような茶目っ気に溢れている。そう、童女が手毬を抱いて見せるように・・ただ、その手の中にあるのが七色の綾糸の毬ではなく、ないまぜになった苦痛と快楽で表情を歪めた男の頭部だというだけの違いで。
押さえ込まれている土方の表情は、先ほどとは違った、涙目の弱々しいものになっていた。唇を噛み締めながらも、指をかき回せば誘っているかのように、時折赤い舌を突き出す。
山崎は絶句して、赤面して目をそらした。
ヤバいって、そんな表情見せられたら、絶対ヤバいってばっ!
「あ・・沖田隊長・・なんだか俺・・」
席を外してもいいですか、と言いかけていた。なんだかこれ以上、この場に居たら、自分を止められなくなる気がする・・いや、もう半分そうなりかけているのかもしれないけれど。作務衣の股間は、先ほどから続いている痴態に反応して、とうにテントを張っていた。
だが、沖田はそれを受けて、しれっと「どうしたんでい、山崎。顔色が悪いぜ。赤くほてって、息も荒い」などと、とぼけてみせた。
「ふうむ。どうやら、これは病気ですぜ。治るには・・ほら、ここに入れないと駄目でさぁ」
そういって沖田は、土方の両足を広げ、ひくつくそこを押し広げる。
・・意地悪だ、絶対、沖田隊長、分かっててやってるんだ、この人はっ・・ちくしょうっ! 図星だよっ、でも・・いいのかよ、副長・・?
「土方さん。山崎の治療に、一役買ってくだせぇ」
いつもだったら『何が治療だ、上等だコラァ!』という語彙に乏しい罵声が、鉄拳と共に降って来るはずなのに。土方の長い指はただ、寝乱れて皺になっている敷き布団に、弱々しく爪を立てているのが精一杯という様子。しどけなく薄く開いた唇は、震えながら熱っぽい吐息を漏らすばかりであった。
「副長・・・」
「沈黙はYESとみなす・・ですぜ?」
沖田が嬲るようにそう決めつけたが、その台詞は果たして、意味をなして土方の耳に届いているのかどうか。せめて顎を左右に動かすぐらいはできたろうに。いや、そんな微かな拒絶など、沖田に平気で踏みにじられるのだから、今さら抗っても虚しいだけと、諦めていたからか。
「い、いいんすかっ!? その・・副長・・すんません・・・」
「ほら、土方さんのお許しも出たぞ。挿れろ、山崎」
沖田は、いかにも愉快そうに笑っていた。
いつもの山崎なら、こんな事態には『治療って、アンタ、後始末してたんじゃねぇの? もっぺんヤらかしてどーすんの、エンドレスじゃねーすか、これじゃ!』と、喚くようにツッコみを入れていただろう。だが、すっかり蛇に睨まれた蛙状態の山崎は、そんな冷静な判断力を失っていた。
「これは治療だ。山崎が男になる治療だ」
あまりにも理不尽な言い分だったが、そう言い切る沖田は予言者のように威厳に満ちていた。その声が、山崎の頭の中に直接響いているような錯覚すらする。
・・・ここで挿れちまって、俺、後で沖田さんに斬られるんじゃねーだろーか・・いや、男山崎、据え膳は食うっ! 斬られたのならその時だ。惚れた相手を抱いたまま四つに斬られるなら、それはそれで男冥利というものだ。
山崎はそっと土方の唇にキスを落とした。もう観念したのか土方は抗いどころか反応ひとつすら見せず、瞳を閉じてしまったその表情を読み取ることもできなかった。ただ、舌を差し入れ、ちろりと歯列をなぞると、おずおずと顎が緩んで受け入れてきた。
そして、沖田に誘導されるがままに、再び中を支配する。
「お。土方さん、コイツにだったら、キスされてもかまわねぇんで? それとも口が寂しいんですかい? だったら塞いであげますぜい?」
沖田がけらけらと高笑いする。だが、その乾いた声は、ひどく遠くから聞こえている風の唸りのようで・・どこか嗚咽の響きを孕んでいた。
【後書き】先日、チャットで同席したAKIさんのエロルのリライトです。ロルの加工を許可してくださったことに深く感謝・・おかげ様で、とてもエロいものが仕上がりました。
タイトルは「後始末」をgoo辞書で自動翻訳して出てきた「wind up the affairs」が、yahoo翻訳ではなんと「情事を終わらせてください」という意味に変換されて爆笑・・したのを、今度はexcite翻訳で変換したら、直訳で「事への風」になったということで(なんのこっちゃ)・・いいんです、意味不明でも。ストーリー本体が意味不明だから。
いや、ほら、私の中では、山崎はストカとかして、土方につきまとうというか、さんざっぱらいちゃこらするけど、えっちはお預けプレイ! って思ってたから・・うん、良かったな山崎! えっちできて!(肩ばむばむ)。
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