斉木楠雄の性感
毎回同じような説明を繰り返しているようで申し訳ないが、僕はこの超能力を持っているために、人類とはまったく別の生物に進化したといっても差し支えない存在だ。現代人が(特殊な性癖の例外を除いて)チンパンジーやゴリラ相手に発情しないように、僕もまた周囲の人間に情愛を感じることはない。惚れたはれたの愛憎劇を期待している腐女子の方々の期待に僕は応えることができないので、ホモ及びホモ好きは、可及的速やかに巣に帰ってほしい。
しかし僕は高校生であり、周囲は、まさに『木の股を見ても劣情する』ような発情期真っ盛りだ。不遇にしてパートナーに恵まれなかった個体は切羽詰まり、猿どころか生物ですらない穴コンニャクやぬるいカップラーメン相手に求愛する倒錯ぶりだ。従って、進化したとはいえ、一見通常の人間と大差ない外見をしているこの僕ですら、そのターゲットにされてしまう危険がある。つい最近も、夢原知予なる少女に付きまとわれたばかりだ。用心するに越したことはない。
下校時刻。下駄箱で靴を履き替えていると「おう、相棒」と、声をかけられた。
誰が相棒だ。もう既に周囲から(燃堂×斉木? やっぱりあのふたりってそういう仲なの?)(やだぁ、ビジュアル的に斉木×海藤の方がいいわ)などという不毛な掛け算を試みるテレパシーがガンガン伝わってくる。テレパシーは僕自身の意思でシャットアウトできないのだから、本当に勘弁してほしい。
「なぁ、相棒。おまえさぁ、好きな女とかいねぇの? 全然そーいうハナシきかねぇけど」
おまえは、僕がこのハナシの冒頭から長々続けていたモノローグを、また最初から繰り返せというのか。ここで素直にひとこと『いない』と答えておけば楽なのかもしれないが、こいつのことだから、どんな斜め上の変化球で絡んでこないとも限らない。特にこの燃堂、僕が読み取ることができないほど底なしのバカなのだ。
「俺は小野寺とまくら一択だな」
ちなみに、一択というのは正しい日本語ではない。クイズ番組などで、正解があからさまで迷う余地が無いという状況に使われ始めた俗語だ。二者択一から転じた造語という説もある。もちろん、この薀蓄は超能力やこのハナシには、まったく関係ないし、この知識をわざわざこのバカに披露してやるほど、僕は暇じゃない。
小野寺云々なんぞに興味のない僕は、視線を逸らしてその場を去ろうとした。僕が思わず立ち止まってしまったのは「なぁんてウソウソ。ゴメン、妬けちゃった?」などというふざけた台詞が続いたからだ。
誰が誰に対して妬けたと? オマエは「妬けた」という言葉の意味をちゃんと理解してるのか? 理解していると仮定して、それがどういう意図で放たれた言葉なのかまったく見当もつかないし、本音を透かして見ることすらできない。というか、この文脈から唯一導き出される可能性については、僕の全知全能全エネルギーをもって否定したいところだ。
「俺にはおまえだけだぜ、相棒」
だから、否定させろと。
もちろん「おまえだけ」というのは純粋な友情による言葉なのだろうとは信じたいが、なにしろこのバカも思春期真っただ中、穴コンニャクにカップラーメンというお年頃だから、油断はならない。単なる性欲解消の対象になるのもゴメンだが、プラトニックはもっと気持ち悪い。そんなことに巻き込まれるぐらいなら、いっそこの国ごとこのバカを消し去ってくれようかとも考えたが、三十六計逃げるに如かず。ここはほとぼりが冷めるまで距離をとっておこう、と僕は燃堂に背を向けた。
「おい、待てよ」
誰が待つか。いっそテレポーテーションでも使って地球の裏側まで逃げたいぐらいだ。いや、そこの校門さえ出て、ヤツの視界から逃れることができたら、もうダルいから家までテレポーテーションで帰ろう……歩調が速まり、駆け足に近くなる。門柱をすり抜け、トップスピードのまま方向転換する。その途端に、誰かにぶつかりそうになった。とっさにジャンプして避けることができたのは、超能力のおかげだ。相手も全力疾走しており、勢いですっ転んだ。面倒には巻き込まれたくないが、ここは僕の責任も少なからずあるから、助け起こすぐらいはしてやろうと手を差し伸べる。
「もふぃ、うあうああうぇーい」
誰かと思えば、海藤であった。とりあえず、食パンをくわえたまま喋るのは、些か行儀が悪いうえにまともに聞き取れないので、やめてほしい。もちろん、テレパシーで一応、何を言いたかったのか理解することはできる。
(世界は光と闇でできている─よしっ、フラグ成立=デッドウィング・ゼロ)
前言撤回。コイツが何を言いたいのか、僕にはまったく理解できないんだが。フラグってなんだよ。いや、単語の意味は聞いてない。英語で『旗』とか、そういう情報は要らない。
「何がフラグ成立だよ、斉木は俺の、その、相棒なんだぜ」
頬を赤らめるな、薄気味悪い。
「んももっ、もふっうあうあうーうー(暗黒に呑まれし何だと。聖なるショ=クパン狂化した神ラクトフェトリンの導きで、俺と結ばれる運命になっただろ、この瞬間)」
だからその食パンを何とかしろ。ショ=クパン狂化した神ラクトフェトリンってなんだよ。音の響きだけで命名したんだろうけど、そんなお腹にやさしそうな神様なんか居てたまるか。
というか、なんでその状態で燃堂と会話が成立してるんだよ。以心伝心にも程がある。僕はどうでもいいから、おまえらでくっつけ。同性結婚でもなんでもいいから末永く共に暮らして、僕のことはどうか、そっとしておいてくれないか。
あまりのアホらしさに頭が痛くなって、こめかみを押さえて溜息を吐いていると、燃堂が「相棒、大丈夫か?」などと言いながら、頭を撫でてきた。僕ともあろうものがこれを避けられなかったのは、相手が予測不可能なバカだからだ。その大きな手指がジョイスティックに触れたのを感じて、僕は全身が総毛立つのを感じ、飛びのいた。
「ああ、悪かった。それ、触っちゃ駄目だったのか? えーと、角というか触角というか?」
もちろん、良くはない。だが、それ以上におぞましかったのは、体の接触を通じて流れ込んできた、普段は読み取れないヤツの思念だ。それは色に例えるならば、ラベンダーというかライトマゼンダというか薄紅色というか、ともかくヤツのごっつい姿に似つかわしくないパステルカラーで、しかもほんのりと熱を帯びていた。これによく似た思念を受けた記憶があるんだが、思い出したくない。というか、思い出したらろくでもない事実が判明してしまうので、いっそまるっと記憶喪失になって旅に出たいぐらいだ。
夢原知予。
彼女は僕に惚れていたようだが、まさかコイツが?
到底信じたくないし、あり得ないとは思うのだが、疑惑を疑惑のままにしておくのも気持ち悪い。
「待てよ、斉木。大神ノヴァ・ド・リュシターの吐息が止む先代に、俺と同位存在に螺旋の内を巡るんだ」
「いいや、俺と一緒だ」
暑苦しい男ふたりに取り合いされても、ちっとも嬉しくない。この極めて不快な事態を打開すべく、僕はイリュージョンを使うことにした。とりあえず海藤に僕の幻影を見せておき、一緒に風でも星でも好きなだけ探しに行ってもらう。もちろん、周囲からは海藤が一人でベラベラ喋っているだけのように見えるが、コイツの言動が痛いのはいつものことだから、違和感は無いだろう。ある程度距離が離れると幻影の効力が薄れるのは確かだが、幻影が消えるよりも、妄想に夢中な海藤とはぐれてしまう方が先だろうから、こちらも問題はない。
「さぁ、行こう、エンペラーたちの創碧神エターナル暗黒の魔法使いエデン朱雀へ。伝説は語り継がれる予兆を立てた我らは、神世紀のアダムとリリンに至るんだ」
微妙にキモいことを声高らかに叫びながら、幻影の肩を組んで去っていったが、ツッコみを入れるどころか関わりたくないレベルなので、放置する。
「なんなんだ、アイツ。まぁ、いいか。んじゃ、帰ろうぜ」
燃堂に促されて、僕も歩き始める。
あらためて「さっきのは何だ、あの思念はどういうことだ」と問い詰めたかったが、普段声を出して直接会話をすることがないせいか、具体的にどう話を切り出せばいいのか迷った。そもそも何故、そんなことを聞くのかと訝しがられるだろう。テレパシーでアナタの脳内を読みましたとでも言うのか? いや、僕の能力については口が裂けても言えない。ならば、何か適当な理由をでっち上げるべきか? いつもならテレパシーでちょちょいと心を読めば済むことなのに、何故、こんな面倒くさいことを考えなくてはいけないんだろう。それも、コイツなんかのために。
思考は空転するばかりで、結局何も尋ねることができないまま、家まで辿り着いてしまった。
「じゃあ、相棒、また明日な」
燃堂があまりにも爽やかに片手を上げるので、僕もつられてぎこちなく右手を振った。そのまま別れてしまえば良かったのだが、そこで母さんが玄関から顔を出してきた。
「まぁ、楠雄。お友達と一緒に帰ってきたの? 珍しいわね。せっかくだから上がってもらえばいいのに」
いや、要らない、と答えるつもりだったが、一瞬早く燃堂が「え、いいんですか?」と、実に嬉しそうに踵を返して、こっちに突進してきた。燃堂の凶悪なツラに母さんも少なからずビビるのではないかと危ぶんだが、そこは何の疑問も持たずに超能力少年をここまで養育してきたお花畑脳の持ち主。母さんはびくとも動じずに「どうぞどうぞ」と、ニッコリと笑ってみせた。
結局、燃堂は僕の自室にまで上がり込み、母さんが運んできたカルピスなんぞを啜っていた。あちこち覗いてみたいという好奇心と、それを押さえ込もうとする羞恥心が葛藤しているのは、テレパシーを使わずとも分かる。いわゆる「顔に書いてある」という状態だ。それを飲み干したらとっとと帰ってくれと言いたかったが、燃堂もそれを察しているのか残り1センチほど残したまま、あとはストローの先を噛むばかりだ。
気まずい。
燃堂の思考がテレパシーで読みとれないのために、どう対処していいのか、見当もつかなかった。だが、ただ黙って見つめ合っているのも不自然だろう。何か会話をするにしても、話題らしい話題が思いつかない。仕方なく、カバンからノートを引っ張り出した。幸い僕らは学生、宿題というものが日々課せられている。明日にでも誰かのノートを念写するつもりだったのだが「放課後、友達の家で一緒に宿題をする」というのは、このシチュエーションに極自然に馴染む、有意義な暇つぶしになるに違いない。超能力を使わずに自力で鉛筆を走らせるというアナログな作業は、僕にとっては包装用のプチプチを潰すような無為な行為だが、バカバカしいと思いつつもやってみれば案外ハマってしまった。どのぐらい没頭していたかというと、燃堂がいつの間にかすり寄ってきていたことに、まったく気付かなかったほどだ。
「なぁ、相棒。いいよな?」
いいよな、とは何のことだ。おまえの思考は読み取れないんだから、せめてちゃんと言葉にしてくれと怒鳴り返したいところだが、不意に巨体がのしかかってきて体勢を崩したせいで、声を出すことができなかった。前々からコイツに背後から刺されても予知できないんじゃないかと思ってはいたが、本当にここまで無防備にされてしまうとは思わなかった。というか、この体勢ヤバいんじゃないのか? 掘られるのか? 僕は掘られてしまうのか? そこは入口じゃなくて出口だぞ? 努力・友情・勝利がモットーの少年漫画で、そんな逆走行為を許してなるものか。うまく微調整できるかどうかワカラナイが、危険スポットのすぐ前に異次元へのワームホールを作ってそこに誘導すれば、なんとか貞操は守れるかもしれない。ぶっつけ本番でうまくいくかどうかは分からないが……天井を睨みながら必死で異次元空間を操作しようとしていたのだが、燃堂の太い指が僕の髪に絡み付いてきたせいで、思念が途切れてしまった。こうなったら原始的かつシンプルな手段、つまり両手で物理的に燃堂を突き飛ばすしかなかったが、ジョイスティックを掌に包み込まれた感触に虫酸がはしって、ろくに力が入らなくなっていた。ヤバい。この僕ともあろうものが、超能力も肉体言語も無力化されて、こんなバカの慰みものにされるのかと思うと、悔しくて堪らない。
「いつも思ってたんだけど、オマエのこれ、かーいいよな」
うっさい。死ね、と罵り返したかったが、くりくりと先端の球を弄られて背筋がゾクゾクする感触に「あ…」と、無意識に声が漏れただけだった。燃堂が、一瞬フリーズし、やがて「相棒の声、初めて聞いたぜ」と如何にも嬉しそうに、だが知らないひとがみたらいかにもおぞましく恐ろしげな笑みを浮かべた。そうか、僕はコイツ相手に喋ったことすらなかったのか、と今更のように気付いた。だが、そんなささやかな発見など吹き飛ばすかのように、触れられているスティック越しに(これ、気持ち良さそうだな)などという燃堂の思考が頭に流れ込んでくる。気持ち良さそうってどういうことだ? 確かに表面は滑らかだが、そこに穴はないぞ? どうやって快楽を導くというのだろう? 珍しく僕がそんな下衆な好奇心に駆られたのは、この異常なシチュエーションに混乱していたからだろう。燃堂の内面を覗いた途端に、僕は助平心を出したことを激しく後悔した。
(やべぇ、ケツに入れてみてぇ)
ヤバイのはオマエのおつむだ。てめぇ、人の頭部のパーツになんて非道なことをするつもりだ。妄想で穢されるだけでも限りなく嫌だ。というか、燃堂、貴様はそっち側なのか、そのツラその図体で、ネコ属性なのか。ぶっつけ本番でワームホールバリヤーを張る必要はなさそうなのは幸いだが、頼むから一度、鏡を見て己の容姿を自覚してくれ。さもなくば死んでくれ。
僕の祈るような殺意を微塵も察することなく、燃堂がハァハァと呼吸を乱しながら、スティックの球を撫で回す。なんでそんなところで欲情できるのか考えたくもないが、その思念がこちらの脳に大量かつ強制的に流れ込んで来るせいで、不本意ながら僕の思考もぼうっと熱っぽく、霞がかかったようになってきた。ヤバい、このまま流されてしまいそうだ。いや、時既に遅し、だったかもしれない。気付けば僕も犬猫のように発情して、無意識のうちに太腿を相手の足にすりつけていた。それ以上行為がエスカレートしなかったのは、ひとえに燃堂がイカツイ見た目によらず、いや見た目通りというべきか、こういう性的なことには奥手な童貞少年であったからだろう。体格差のせいもあって、互いの口が微妙に届かない体勢だったのも助かった。ここで、コイツと濃厚なキスなどしていたら、ましてや自分から求めていたとしたら、素に戻った時に死にたくなったに違いない。
「やべぇ、出る」
マジですか。なんでそんなとこ撫で回しているだけでイけるんだ。一体、どういう性癖だ。だが、僕自身も限界に近づいていたのを感じていた。性的興奮に伴う過呼吸による酸欠と動悸および目眩の作用で思考能力が低下していた僕は、燃堂の前だということも考慮できぬまま、ベッドの向こうに転がっていた箱ティッシュをテレキネシスで引き寄せていた。自分用に数枚鷲掴みにすると、燃堂にも箱ごと放って寄越した。
猛りを吐き出して、その汚れを拭った後、僕は足を投げ出すように座っていた。燃堂も隣であぐらをかいている。これだけすぐ側に体温を感じているのに、相手が何を考えているのか読めないのが不思議だった。まるで意識が自分の体の中に閉じ込められたような孤独。いや、他人の心を読むことなどできない普通の人間にとっては当たり前の状況なのかもしれないが、遠慮会釈なく流れ込んでくるテレパシーに慣れきった僕にとっては、この沈黙は異常事態とすらいえる。
何を考えているんだ、さっきのアレはどういうつもりだったんだと声に出して尋ねることは簡単だろうが、そうまでしてこのバカの内面を知りたいわけではない。どうせ何も考えていない。単純に読むべきものが無いだけのことだ。そうと分かってはいても、僕の能力が通じないことがやけにもどかしかった。
相手の心を知りたいと切望することが、いわゆる恋とか愛と呼ばれる感情の正体であるのならば、僕のこの焦燥感もそれに類するものなのだろうか。僕にとってのその対象がこのバカな醜男であるのなら、僕のプライドに賭けても全力で否定したいところだ。いや、醜男であることは、実は僕にとって大した問題ではない。相手が醜男だろうと美形だろうと全て等しく、透視能力で服を通し皮が透け、筋肉すら薄れて内臓丸出しの状態に見えているのだ。ならば何故僕は拒むのか。
単に「あの」燃堂と一緒にいることで悪目立ちするから、というだけの理由ではないだろうか。ならば、周囲に人が居ない間ぐらいは。
「ん? どうした? 俺の顔に何かついてるか?」
ついているというより、逆に視界の中で顔のパーツが次々と透けて見えなくなっている状態だ。まばたきをして透視をリセットすれば、顔の表面に何がついているのか見えるのだろうが、多分、そういう意味での問いかけではないのだろう。
僕はそのまま視線を逸らし、背中を燃堂の胸に預けた格好でもたれた。
「無視かよ。でも、いいぜ。俺らは言葉じゃなく、ハートで結ばれてんだろ。なぁ、相棒」
なにが相棒だ、このバカ。
ハートで結ばれているどころか、完全にブッ途切れてんだよ。オマエの思念は、これっぽっちも僕に届いていない。逆にいうと、世界中でオマエとだけ『念信不通』状態なんだよ……そう喚き倒したいところをぐっと飲み込む。それにしても、テレパシーを使えない凡人共は、いつもこんなもどかしい気持ちを抱えて、日々悶々としているのだろうか。僕には耐え難いストレスだ。
「なぁ、相棒」
思い切ったように呼びかけられて、僕は振り返った。
ただでさえ何を言い出すのか予想もつかないうえに、珍しく真剣な顔をしていたため、大抵のことには超能力で対処できる僕ですら、どんな重大な告白をするつもりなのだろうと、さすがに身構えてしまった。
「出すもん出したら、腹減ったな。ラーメンでも食いにいかね? いつもの店か、新しくできた店か考えてたんだけど、いつもの店でいいよな」
は?
思わず、声が漏れてしまった。
こっちが色々真剣に思い悩んでいたというのに、コイツはその隣で、どこのラーメン屋に行くか迷っていたというのか。それも「出すもん出したら」って何事だ。結局、ひとのパーツを使って生理現象を処理しただけだったのか。あまりのバカらしさに呆れるのを通り越して、ふつふつと怒りがこみ上げてきた。
「あ。また、相棒の声が聞けた」
バカはこっちの怒りも察せず、そんなたわいもないことを喜んでいる。できることならコイツも僕自身も、さっきまでの気の迷いも、地球ごと消し飛ばしてしまいたかった。僕がうつむいてぷるぷる肩を震わせながら、必死でその破壊衝動を堪えているのをどう解釈したのか、燃堂は僕の手首を無造作に掴むと、部屋から引っ張り出した。
「んじゃ、早く行こうぜ。あ、おばさん、俺らこれからラーメン食ってくるんで、晩御飯要らないっす」
誰が一緒に行くと言った。勝手に決めるな。
「まぁ。お友達と外食だなんて、楠雄にしては本当に珍しい。どうぞどうぞ、好きなだけ行ってらして」
そんで、こっちも勝手に了承するな。というか、母さんから(ということは、ダーリンとふたりっきりなのね、ラッキー! 精力がつくように、今晩の献立は牡蠣フライにでもしようかしら)という思念がダダ漏れているんだが。厄介払いのつもりなら、せめてラーメン代ぐらいよこせ。
実はこのとき、予知能力によって、その牡蠣フライにふたり仲良くアタって病院送りになるビジョンがありありと見えたのだが、ムカついていたのであえて放っておくことにした。
一方、僕と燃堂との未来については……まったく見えなかった。
(了)
【後書き】まさかの『斉木楠雄のψ難』ネタです。斉木君でも燃堂の思考は読めないというオイシイ設定と頭のアレが性感帯だったらイイな的な妄想とがミックスして、またもや需要がほとんど無かろうマイナーCPの茨道を突っ走ってしまいました。あ、海藤の台詞は、考えるのもダルかったのでノムリッシュジェネレーターを使いました。手抜きですんません。
ちなみに海藤は性知識に乏しいあまりにやおい穴的妄想まみれ&まさかの異次元バリヤー大活躍、灰呂とは「我慢しないで全力で感じていいんだよ」(いいのか、そんなことをしたら全力で逝ってしまうぞ、この地球がな!)という妄想が……って書くのか、これ、書くのか俺?
とりあえず、このBL(醜男ズLOVE)を、すうさんに捧げます。
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