夜 明 け 前/下


帯を解き、下穿きを脱ぎ落とし、下腹部で昂ぶっているソレを山崎の目の前に晒す。

「土方さん、何もしてないのにそんなになって…」

からかう様に言っている山崎だが、ごくりと喉を鳴らす音が聞こえてくる。

「黙れ…んぅ…」

触れてみると、その先端から溢れ出した先走りが幹を流れ落ちている、
それを絡めるように擦り付けながら手を上下に動かす。

「ぁ…はぁ」 

何故自分はこんなことをしているのだろうという羞恥心に目を閉じてしまうが、その分、手を動かすたびにくちくちと聞こえてくる水音をやたらと大きく感じる。
そして見えていないにもかかわらず自分に注がれている山崎の視線を感じて、躰がどんどんと熱くなっていく。

「んぁ…は…っ」 
 
そのまま手を止めることも半分開いた口元から漏れる声も抑えることも出来なくなっていたところに声がかけられる。

「そんなに自分でしててイイんですか?」

その山崎の息が乱れているのに気付き、目を開けると先程吐精したばかりのはずの山崎のソレがまた頭をもたげている

「…あぁ…お前の手だと思えば…な」

わざと煽るようなことをいい、乾いた唇を舐める。

「じゃ、なんです?、普段もそうやって一人で?」

「…し…ねぇよっ…そんな無駄弾…誰が打つ…」

「腰、動いてますよ?」

指摘された途端、顔だけでなく手の中のソレも熱くなるのを感じる。

「ばかや…ろっ…! そういうテメェも…オッ勃ててやがるじゃねぇか…っ」

「そんな厭らしい姿見せられて我慢できるような奴がいるとでも思うんですか?」

無意識のうちに山崎の手が自分の下腹部に伸びたのを土方の声が遮る。

「…無駄打ちすんじゃ…ねぇよ…」

その言葉に山崎が反論しようとした直後…くっ、と土方がこみ上げてきた感覚に眉を寄せた。

「…そのまま指くわえて見てやがれ…んぁぁぁぁっ!!」

びくびくと躰を震わせながら、掌に熱を吐き出す。

「人には無駄打ちするなとか言っといて、アンタ一人で何ヨくなってんですか」

その光景を見ていた山崎がぼそりと呟く。

「大体、俺のんをどうにかしてくれるって話じゃなかったんですか」

「だから、よ。どうにか、してやるんじゃねぇか」

吐き出した瞬間の快感に意識を持っていかれそうになるのを押し留めて肩で息をしながら掠れかかった声で囁いた土方は、そのまま自分の放ったもので濡れた手をそのまま後口へと伸ばした。

「…っ…ぁ」

しばらく使ってなかったためか、最初こそ抵抗があったもの暫くすると易々とその指を飲み込んでしまう。
指に絡んだものの助けを借りてその指を動かすにしたがって、固くなっていた口がゆっくりとほころんでいく。

「ぁ…」

指が動くたびに土方の口から小さな喘ぎが漏れる。

「もしかして無駄弾は撃たない代わりにそっちで…してるんですか?」

不意に思いついたことを口にしてみる。

「…ばかやろ…テメェでして…こっちでイけりゃ苦労しねぇけど…な」

ちゅぷ…と濡れた音と共に指を引き抜いた瞬間の喪失感にぶるりと身悶えする。

「でも、よく俺が指突っ込んだだけでイッてくれたりしますよね?」

聞き返した山崎の膝の上にのろのろと土方が乗り上げてくる。

「…それを聞くか?」

山崎の昂ったソレを後口に押し当て、土方は口元に笑みを浮かべる。

「だってそうでしょ…っじゃなくって…ちょ、ちょっと待って土方さんっっ」

「なんだ…やって欲しいっていったのはテメェだろ…。待てねぇのはそっちも同じだろうが」

平静を装いつつもどこか上ずっているその声。

「だからってそのままじゃまだキツイんじやないですか」

「うるっせぇ、待てねぇ、っつってんだろ」

静止するように腰に伸ばされた山崎の手を振り払って土方はそのまま強引に腰を下ろす。

「くっ…キツ…い」

多少慣らしてあったとはいえ、それでもまだ狭い土方の締め上げに山崎は思わずうめく

そして土方の方も痛みに眉をしかめながらも山崎のモノを一気に根本まで呑み込んで、その山崎の肩に額を押し付けて深く息をつきながら痛みをやり過ごす。

「土方さん…」

ぽふ…と頭の上におかれた山崎の手に思い出したかのように顔を上げる。

「…てめぇのんは痛くねぇか?」

「大丈夫ですけど…すっげ…土方さんの中、熱い…」

土方を落ち着かせるというよりも自分が落ち着くために、山崎は土方の髪を撫でる。

「そっか、じゃあ、大丈夫・・・だな・・動くぞ?」

山崎の肩に両手を載せて膝の位置を確かめた土方は軽く腰を引き、その感触に、ウッと小さく呻いて背をそらす

「…っ まさか本気でしてくれるなんて思ってませんでした…」

「んだぁ? 武士に二言はねぇぜ? くっ…はぁっ」

再び腰を沈めながら、内壁を押し広げるその感覚に小さく呻く。
土方が動くたびにくちゅり…と繋がった部分から濡れた音がする。

「俺よりも…アンタのが気持ちよさそうですよ、土方さん?」

目を細めた山崎は土方のうっすらと涙の滲んだ目元に口付ける。

「…気持ち、よくねぇか?」

普段の彼からは想像も付かないような自信なさげな口調で聞き返される。

「いいや…サイコーです、ホントに生きてて良かったなって思うくらい」

その間にも土方の腰がゆらゆらと動いているのを感じ、クスリ…と山崎は笑う。

「けっ・・・大袈裟だな」

山崎の手が伸びてきたあたりで自分でも腰が動くのを止められなくなっているのを自覚しながら、滴ってきた汗を片手で拭う。

「まぁ、確かにあそこでおっ死んじまったら…こういうこともねぇわな」。

「こんな姿が拝めるなんて…そうでしょう?」

ぐい、と腰に回した手に抱き寄せられた土方は、体勢を崩しておもわず山崎にしがみつくような形になる。

「…うぉっ…! てめぇは、傷に障るから、じっとしてやがれと…」

「なんか…そうもいかないんですよね」

くすくす笑いながら山崎は土方の耳朶に歯を立てる。

「てめっ…傷口開いても、しんねぇぞ…」

脱力したように山崎の躰にもたれかかっていた土方はその感触にゾワッと肩を震わせる。

「前言撤回させてもらっていいですか?」

「んあ…? なにを、だ?」

その言葉に半ば焦点が定まらなくなりかかったトロンと目で山崎の顔を見下ろす土方。

「我慢…できそうにないです、すみません…!」

そう宣言すると山崎は土方を抱え込んだまま、布団の上へと倒れこんだ。

「んあああっ!!」

繋がった部分に体重がかかり、より深くまで山崎を飲み込まされて土方は声を上げる。

「ばっ…ばかっ…おまっ…傷ッ…」

一瞬我に返って喚くが、繋げられたままのその躰を押し退けることもできず、苦笑しながらそっと両手で山崎の髪に指を梳き入れる。

「ったく…無理…すんなよ…このバカザキが…」

「そんな姿見せられたらもう我慢できません…」

土方の片方の足首を掴んでもちあげれば自然と土方の腰が浮き上がる形になり、そのまま繋がった部分に体重を乗せる。

「…く…う  …無茶すんなっ、バカっ…」

奥まで届く感触に流されそうになって、すがるように伸ばした手の指先に力をこめる。

「これくらい大丈夫・・・ですっ」

一旦引いた腰をまた突き入れると、土方の口からは言葉にならない喘ぎが零れる。

怪我の痛みのことなどとうに頭になく、ただその行為に没頭する。

「…脚…いてぇ…」

ぼそりと土方が漏らしたその言葉にはっとして山崎はその手を離す。

「…いいから、凝ったことしねぇでいいから…こっち、来い…」

引き倒すようにした山崎の胴に腕を回して土方はふぅ…と大きく息を吐く。

「…どうせなら、てめぇの心臓の音を感じてイキてぇし、な…」

「土方さん…」

背中をなぞり上げていった手が山崎の頭を引き寄せ、口付けをねだる。
嬉しそうに笑った山崎はその唇を塞ぎ、舌を絡め取る。

「 さ…がる…」

漏れた吐息と共に、聞こえたかすかな囁き。

「…もう一回呼んでください…」

「えっ…?」

無意識だったらしく、一瞬、自分が何を口走ってもう一回などと言われたのか思い出せない様子だったが、数秒の後はっとする。

「…ちくしょうっ…言えるか、バカッ てめぇが、土方さんなんて呼ぶから、つい…」

カッ、と赤面して顔を反らす。

「だって、呼ばせてくれないでしょう? 十四郎さん、なんて」

土方、と呼ぶのを許してもらえるのだって、本当に僅かな瞬間だけなのに。
赤面した顔を見られまいとするように、より近くまで山崎の頭を引き寄せて耳元に囁く。

「ちっ…今回だけ、だからな、退…」

初めて名前をを読んでもらえた嬉しさに、山崎の目に涙がこみ上げてくる。

「十四郎…さん… 俺…一生あんたについてきますから。俺の命…あんたのものです」

それに気付かれないようにするかのように、山崎はグッと深くまで突き上げる。

「だから…傍に置かせてください…っ!」

「うっ…くぅっ…だからそういう、命を捨てるようなことを言うなと…あっ…はぁっ」

縋るように、繋ぎ止めるように、土方の指が山崎の背中に爪痕を付けていく。

「…すみません…このまま中で出していいですか…」

山崎が許しを求める。

「ああ、好きにしろ… 俺も…このまま体温感じていてぇし、な」

答えて山崎の唇に自分から口付ける。

「…置かせてくれだなんて…居てくれと頼むのは…俺の方だな。もう、置いていこうとなんて、するな…あぁぁ…んふぅぅぅっ!」

激しく突き上げられ、叫びかけた声を山崎は唇で塞ぎとめる。

「ふ…っン…ぁぁっ!!」

自分の中で山崎が大きく脈打って弾けるのを感じるのと同時に、土方も二人の躰の間で刷り上げられていたソレから熱を吐き出した。

「十四郎さん…」

掠れた声で名前を呼ばれ、目の前の相手を抱きしめる。

「退…」

その名を呼び返し、土方は意識を手放した。





「…傷口が腫れてますなぁ」

翌日、往診に来た医者は傷口を見てそう呟く。

「いや…ちょっと腹帯はずしたまんまでいた時間が長くって…」

あははははは…と乾いた笑いで誤魔化そうといる山崎だが、そこに医者は追い討ちをかけてくる。

「ちょっと荷物を移動させただけというが…何か他に激しく動いたりでもしたんじゃないのかね? 少なくないんだよぉ、傷が塞がって大丈夫だと動き回って悪化させる患者は」

傷は体表だけでなく、内臓にも付いてるんだよ、とぶつぶつと言いながら医者は鞄の中から数種の薬を取り出す。

「すみません…久しぶりに動けそうだったのでちょっと調子に乗りすぎたようです」

「副長さんも彼を動き回らせないためにこの部屋に隔離してるんじゃなかったのかね? ちゃんと見ていてくれないといつまで経っても現場復帰の許可が出せませんなぁ」

不意に医者の矛先が部屋の隅で様子を見ていた土方にも向けられる。

「はぁっ…!?  あ…これからはちゃんと様子を見ておきます」

突然のことに面食らった土方だが、とりあえずそう答えるしかない。

「退院の際にも言ったことですが、傷口の保護と静養が肝心です。くれぐれもご注意を」

帰り際、今一度二人まとめて釘を刺された




「…ちっ、口うるせぇジジイだ」

医者が帰ったのを確認して、山崎の布団の横にどっかりと腰を下ろした土方はそう毒づく。

「副長が挑発するからいけないんですよ…最初ははそんなことするつもりなかったのに滅多にない姿見せられて元気になっちゃったというか…でっ!!」

ぶつぶつと呟く山崎の顔面にゴスっ、と土方の裏拳が入る。

「事実じゃないですか…こんなことになるんだったらもう一回くらい怪我してもいいかなぁなんて…」

思ってみたり。と言おうとした山崎だったが、土方の表情に気付いて黙り込む。

「何がもう一回だ。バカヤロウ …あんな思いすんのは、二度と御免だ」

再び振り上げられた拳は、軽くひたり…と山崎の額に当てられだだけだった。

「…気をつけます… すみません…そんな顔させちまって…」

調子に乗りすぎたかとうつむいたその額を軽く小突かれる。

「うるせぇ。そんな殊勝な台詞聞きてぇんじゃねぇよ。山崎のくせに。てめーはいつもみてぇにミントンラケットでも振り回してて、俺にぶん殴られているぐらいで丁度いいんだ」

「そうですよねぇ…なんか怒られてないと調子でなくって、ははははっ」

笑い飛ばしたその言葉にあきれたように土方が呟く。

「マゾか、おめぇ」

「違うと思いますけどね。だって副長の前でそういうことしてればどこでも堂々と絡めるじゃないですか」

「そんでいちいちぶん殴られるのを期待してんなら、立派なマゾじゃねぇか。ドMだ、ドM」

「だって一緒に回ってるときはともかくそうでもしないと、仕事中も副長と接点もてないじゃないですか…ちょっとでも副長を独占できる時間が欲しいとか思っちゃ駄目ですか?」

あまりにストレートな山崎の台詞に、言葉が返せず、頭をかかえて土方は溜息を付くしかない。

「わざわざ仕事中に持たなくていい。テメェは仕事に集中しろ、ったく。テメェの仕事は俺が命じた仕事だろうが。…馬鹿かテメェは」

「えぇ、馬鹿ですよ」

「 そうだな。確かに馬鹿だな・・・殴られても蹴られても犬っころみてぇに俺なんかについて来て、命まで張って、大江戸一の大馬鹿野郎だな」

「…それが俺の生きる理由ですからね」

「言い切ってんじゃねぇよ。それだから犬死にしかけるんだ。後に残される側の迷惑考えろ、馬鹿」

馬鹿を連呼されても、それが土方なりの思いやりだということがわかっているだけに、山崎は悪い気がしない。

「犬死じゃないでしょう。それで土方さんに俺のことを覚えていてもらえれば」

飲め、と差し出された薬と湯飲みを手にして笑うその姿に、また土方は溜息をつく。

「てめぇみてぇな馬鹿はそうそう忘れそうもねぇから、そこまでしてアピールしなくていい。ったく。本気でついて来るんなら、途中で脱落すんじゃねぇ」

「だってアピールしつづけないと心配ですからね…副長を狙ってる人間がどれだけいるか…」

あれとあれとあれ…と指折り数えたその頭がまた小突かれる。

「心配だったらなおさら、脱落するんじゃねぇよ。俺が死ぬまで付き合え、ボケが」

「当然です。脱落しそびれた分ずっと付いてきますよ」

満面の笑みで抱きついてきた山崎を振り払うこともできず、面倒くさそうなポーズで抱きつくに任せ、その頭をポンポンと叩いてやる。

「簡単に言いやがって…死ぬまでは、長ぇからな」

ぼそりと呟いた言葉に、胸元から声がする。

「地獄の底までもお供しますよ、土方さん…」



(了)

【後書き】伊東編で刺された山崎の身を案じて、ギャーギャー言ってた頃に山崎にハマり、毎晩のように、一緒に傷の舐めあいをしてくれた同志・北宮紫さんがくださった小説です。
山崎の生存を信じて、傷の養生に勤める山崎を書いてくれました。そして「こんな傷、副長が舐めてくれたら治りますよ」と言ったら、本当に舐められて・・・というシーンからどんどん膨らませて、こんな甘いお話に。素敵なお話、ありがとうございました。

一部、山崎=北宮さん、土方=伯方が担当した、なり茶ログを下敷きにしています。どの部分かは、御想像にお任せします。
初出:07年06月10日
本誌展開に伴い一部改訂:同月11日
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