恋 は マ ヨ 色
その日の任務を終えて屯所に戻ったのは日付も変わる寸前だった。
「…腹、へったなぁ」
張り込み中に握り飯を食ったものの、それから既に数時間。運がよければ何か夕食の残り物でも…と食堂を覗いてみる。
「あ、ラッキーv」
RPG風に言うなれば『山崎は食い物を見つけた』
片隅のテーブルの上に小皿に掛けられた布巾をめくると、わずかな量ではあるが焼きソバがあった。腹が満たされるには少ない量だけに何かで嵩増しできないかと見回して……
「…副長、ちょっと貰います」
土方用のマヨネーズを拝借してきた。
日頃マヨラーぶりを見せつけられて、見ているだけでマヨネーズの補給は十分だ…と自分の食べ物にはマヨネーズをかけない山崎だが、今はそんなことも忘れて、小皿の上にぼたぼたとマヨネーズを垂らして麺に絡ませた。
見た目には汚いが、誰かに食べさせるわけでなし…迷わずそれを口に運んだ。
「あ…あっためりゃもうちょい食える味かな」
冷めた麺だけにちょっとねちょねちょ感が強いが、まぁ悪くはない。
冷蔵庫の薬缶から注いで来た麦茶と共に数分でそれを食べ終え「ご馳走様でした」と、ちょん、と手を合わせたその時だった。
「お前もやっとマヨネーズのよさがわかったか」
背後から突然に声をかけられ、ビクッと体が跳ね上がる。
振り向いた視線の先…食堂の入り口に立っていたのは土方だった。
「ふっ、副長っっっ、どうしたんですかっっ!?」
ちょっと裏返った声のまま尋ねるが、土方はそれには答えず、山崎の隣に腰を下ろした。
「…喉が渇いた」
「は、はい。すぐに湯沸かしますからお待ちください」
「麦茶でいい、冷蔵庫に入ってんだろ」
「判りました」
火にかけようとした薬缶を棚に戻し、さっき自分も貰った麦茶を手近の湯飲みに注いで土方の前に置く
ごぎゅごぎゅと嚥下する音と共に大きく動く土方の喉と首筋から何となく目が離せずにいたら、「何見てやがるんだ」と手の甲で額を叩かれた。
「すっ、すみませんっ」
謝罪とともに顔を上げると、目の前の上司は何ともいえない笑いを浮かべていた。
「は…?」
「お前もコレで立派なマヨラーの仲間入りだな」
「あの??」
「今まで散々嫌そうな顔しておいて、真夜中にこそこそとマヨ食ってやがってよ。そんなに好きだったとはな」
モシモシ副長 ナニカガハテシナクマチガッテマセンカ…?
「明日は俺と一緒に来い」
反論するまもなく、土方は立ち上がって食堂を出て行った。
翌日…予想にたがわず、昼食に立ち寄った定食屋では、山崎の前にもあの「土方スペシャル」な黄色い物体と化したカツ丼が置かれたのは言うまでもなく。
いや、昨日のは気まぐれというかイワユル魔がさしたという状態で…と言い訳しようにも、「今まで好きあった女にも、こいつを一緒に食ってくれたヤツはいなくてよ」などと、はにかみながら言われれば、山崎は惚れた弱味で断るに断れず。
その後一日の勤務を胃もたれを隠して無事に終えたものの、屯所での夕食を口にすることも出来ず、部屋の片隅でうめくことになったのも言うまでもない。
END
伊東編で刺された山崎の身を案じて、ギャーギャー言ってた頃に山崎にハマり、毎晩のように、一緒に傷の舐めあいをしてくれた同志・北宮紫さんがくださったSS。
「先日、昼飯の焼そばにマヨネーズをかけてみたんで、半分実録です」と言っていました。ごちそうさまでしたと合掌する山崎、ちょっと萌えです。
追記:ぐりさんから、山崎復活祝いとして土方スペシャルを勧められる山崎の絵を絵チャで頂きました。このSSのためではないのですが、挿し絵として使う許可を頂きました! 萌えるわぁ。
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